説明文を主体的に読む ~読むことの必要感をもたせる指導の工夫~
|
執筆者: 弥延 浩史
|
単元名:「くらしの中の和と洋」(東京書籍/4年) 教材:くらしの中の和と洋について調べて発表しよう 授業者:弥延浩史(筑波大学附属小学校教諭)
弥延浩史先生による、「くらしの中の和と洋」の授業を公開します。単元の導入にあたる本時(第1時)は、子どもたちにとっても身近な和菓子と洋菓子を例に「手土産に買うならどちらがよいか」という状況設定で意見を出し合います。さらに、「住むなら和室か洋室か」という自分事として考える状況では、それぞれのイメージ出し、よさはどんなところにあるか具体的に考えていきます。子どもたちがこれまでの経験を踏まえて、和と洋どちらがよいかを真剣に考え、意見を出し合う授業の様子をご覧ください。
説明文の学習は、教材文を読むための「必要感」をいかにもたせるかが重要であると考えます。文学作品に関しては読書などで慣れ親しんでいる子もいますが、説明文に関してはなかなか難しいと言えるでしょう。そこで、今回は「くらしの中の和と洋」の教材文を読む前に、「自分事」として和と洋の違いをとらえることができるような展開としました。
終末には、それぞれが興味をもって調べた和と洋の違いについてまとめることを想定していますが、最初に和と洋のそれぞれのイメージを出させることで、そのきっかけとなる部分を引き出すことをねらっています。
第 一次 | 自分たちに身近な和と洋について知る |
第 二次 | 「くらしの中の和と洋」を読み、和と洋がもつそれぞれのよさについてまとめる |
第 三次 | 調べた和と洋のそれぞれのよさについて発表する |
和と洋のイメージについて話し合うことを通して、それぞれがもつ印象の違いから、和と洋のよさとは何かを考える。
まず、仮定の状況を設定して和と洋についてのイメージを引き出します。「手土産を持って行くなら洋菓子か和菓子か」にしたのは、個の好みはもちろんのこと、渡す相手によっても答えは変わるということを実感させるためです。
弥延:これから言う状況をイメージしてみてください。みなさんは、今からお出かけをします。知り合いの家に、手土産を持っていくことにしました。ケーキなどが売っている洋菓子屋さんと、お団子などが売っている和菓子屋さんがあります。評判はどちらも同じくらいです。さて、あなたなら洋菓子を買いますか、和菓子を買いますか。
児童:洋菓子って何?
弥延:洋菓子というのは、ケーキやシュークリームなどのことです。
児童:その友達は、どこの国の人ですか。
弥延:なぜそれを聞いたのですか。
児童:だって、友達が外国人だったら、洋菓子の方が食べ慣れていると思ったからです。
弥延:今の○○さんの言いたいことが分かるかな。
児童:分かるけど、逆もある。
児童:外国の人たちに、日本の和を知ってほしいから和菓子を選ぶと思う。
弥延:今の意見はどう?実はあえて「知り合い」という言い方をしました。いま気になったことは後から出してもらおうと思います。いまのイメージでどちらを選ぶか答えてくださいね。
洋菓子と和菓子の違いは分かりましたね。では聞いてみます。洋菓子を選ぶという人?
―児童数名が手を挙げる。
弥延:和菓子を選ぶという人?
―多くの児童が手を挙げる。
児童:先生、その友達は仲がいい友達ですか。
弥延:なぜそれを聞いたのですか。
児童:仲のいい友達なら好みが分かるけれど、あまり知らない人なら好みが分からないから迷うと思ったからです。
弥延:状況によって変わるということですね。さきほど、外国人だったら……というふうに相手によって変わるという意見も出ましたね。では、相手があなたのおばあちゃんだったらどうですか? おじいちゃんでも構いません。お年寄りの人をイメージしてください。
児童:それだったら……。
児童:じゃあ……。
弥延:「じゃあ」というのは?
児童:おじいちゃんおばあちゃんはお年寄りだから、和菓子の方が好きだと思う。
児童:僕は、洋菓子の方が豪華だと思うから洋菓子にする。
児童:おばあちゃんは洋菓子を食べたことないし、僕も和菓子派だから和菓子にする。
弥延:自分や家族の好みに合わせてということですね。ほかにはありますか。
児童:和菓子の方が栗とか、旬のものがあるよ。
弥延:旬のものがある。なるほど、今の○○さんの言いたいことは伝わったかな。
児童:芋ようかんとか、栗きんとんとか。
児童:でも、洋菓子も栗や芋を使っているものがあるよ。
弥延:確かに、洋菓子にもモンブランやスイートポテトなどがありますね。みんなが言ったように、好みで分かれることもあれば状況や旬によっても考えが変わることがあるということが分かりますね。
説明文「くらしの中の和と洋」が学習材となりますが、そこでは和室と洋室についての事例が述べられています。そこでは、和室と洋室の違いの基準を明確に述べています。そこで、いきなり文章を読むのではなく、自分事とすることで興味関心を引き出したいと考えました。よって、「住むなら和室がいいか洋室がいいか」ということを問いかける展開にしています。
弥延:では、ここからは、少し話題を変えますよ。今度は相手の事……ではなくて、自分の事として考えてください。これから、あなたたちは1人暮らしをすることになりました。
-「住むなら洋室がいいか、和室がいいか」と板書する。
児童:洋室ってどんな感じ?
弥延:洋室と和室の違いが分からない人もいるので、少し確認してみましょう。ノートに和室と洋室のイメージを書いてください。
児童:洋室ってホテルみたいな感じかな。
児童:和室ならよく分かる。
―児童はノートにまとめながら、それぞれ和室・洋室のイメージをつぶやく。
弥延:では、和室と洋室にあるとイメージしたものをそれぞれ教えてください。近くの人と「こんなものがあったよ」と確認したいですか。それとも、すぐ発表する方がいいですか。
全児童:すぐ発表する方がいいです。
弥延:では、言える人から教えてください。
児童:洋室で、ソファがある。
児童:和室で、押し入れがある。
児童:和室で、障子がある。
児童:障子は和紙でできた扉みたいなもの。
児童:和室は畳がある。
児童:和室で、掛け軸がある。
弥延:掛け軸とは何か説明できますか。
児童:部屋に飾ってある細長い、絵や文字が書いてあるものです。
弥延:なるほど。(黒板に絵を描いて)こんなイメージですね。ほかにはどうですか。
児童和室は「若桐寮」(宿泊学習で児童が泊まる場所)みたいなイメージ。
児童:そうそう。床は畳だし、障子や押し入れもある。木でできている。
児童:木でできていると和室のイメージだけど、全部が和室というわけではないです。
弥延:なるほど。ほかにはどうですか。
児童:和室にはふすまがある。
弥延:ふすまはどんなものか分かりますか。
児童:絵が描いてある扉のようなもの。部屋を仕切っている。
児童:和室は居間がある。
弥延:居間とはどういうものか分かるかな。
児童:(イメージがバラバラで分からない)
児童:(辞書で)調べてみる。家の人が普段いる部屋、リビングルーム。
児童: 洋室はリビングで、和室だと居間ということか。
弥延:洋室と和室で同じ場所でも言い方が違うということですね。例えば、和室の居間にはこんなものがあるのですね(板書上段を指して)。洋室には、今のところソファとドアだけなので、ほかにはどんなものがありそうですか。
児童:和室でまだ言いたいのですが、座布団がある。
全児童:あぁー。
児童:和室にはちゃぶだいもある。
弥延:なるほど。ちゃぶだいは洋室にもありそうじゃない?
児童:洋室だとテーブルだよ。
児童:洋室だと座布団は椅子になる。
児童:クッションでもいいんじゃないかな?
児童:座布団は椅子と言っていたけれど、和室にも座布団の下に椅子がある場合もあるよ。
弥延:座椅子のことですね。なるほど。
児童:和室は障子が紙でできているけれど、洋室は窓にカーテンがあって安全だと思う。
弥延:今、それぞれに「あるもの」を出してもらっていますが、ここで「安全」という考えが出ました。あるものだけでなく、そういう印象も大切にしておくといいですね。もう少し聞いたら、和室と洋室にありそうなものを聞くのは終わりにしましょう。
児童:和室には、こたつもある。
児童:洋室は、シャンデリアがある。
児童:洋室の方が木とコンクリートでてきている。和室も木でできているけれど、洋室の方が頑丈なイメージ。
弥延:なるほど、これは「あるもの」と言うよりも、先ほど言っていた安全とつながるかな。ほかに、家具については意見がありますか。
児童:洋室で、クーラー(エアコン)がある。
児童:でも、和室でもクーラーはあるんじゃない?
児童:昔はなかったと思うよ。
和室と洋室のイメージをたくさん出させてから、「自分が住むなら~」ということを問いかけました。子どもたちが選ぶ基準は、個々のもつイメージです。しかし、その中にも家具などの具体的な物が挙がってきています。それを整理していくことで、次時の学習へとつなげていきます。
弥延:住むなら和室がいいか洋室がいいか、家具がずいぶん出てきましたね。では聞いてみます。和室に住むという人。
―数名の児童が手を挙げる。
弥延:住むなら和室がいいか洋室がいいか、家具がずいぶん出てきましたね。では聞いてみます。和室に住むという人。
―多くの児童が手を挙げる。
児童:洋室はキリっとしているけど、和室がほわっとしていて落ち着く。
児童:和室の方が、家具がめずらしいから。
弥延:自分の家にはない家具がたくさんある。
児童:和室は緑の中にあるイメージ。僕も自然が好きだから。
児童:(「えー!」と声があがる)
児童:でも、洋室も自然の中にあることもあるよ。
弥延:自分のイメージでは…ということですね。みんなから「えー」という声があがったということは、それぞれがもつイメージはズレがあるということが分かりますね。
児童:日本人としてはやっぱり和室の方がいいかな。
児童:洋室に手を挙げたけれど、和室のいいところもあって、歴史を感じる。
児童:確かに、洋室は最近新しく入ってきたものだから。
弥延:では、次は洋室を選んだ人に聞いてみましょう。
児童:1人暮らしだと洋室の方が寂しくならないと思ったから。
児童:分かる。
弥延:寂しくならないと思ったのはなぜ?
児童:部屋が派手だから。
児童:洋室はマンションのイメージで、和室は一軒家のイメージ。和室は家自体が広いから、1人暮らしするなら寂しくなりそう。
弥延:なるほど。
児童:洋室の方が便利だから。
児童:便利に付け加えると、和室は布団を引かないといけないけれど、洋室はベッドがある。
弥延:今の○○さんの言いたいことは分かるかな? イメージではなくて、具体的に生活の中でやることを言ってくれました。洋室はベッドがあるけれど…?
児童:洋室はベッドで布団をかけるだけでいいけれど、和室は押し入れから布団を出して、起きたらまた片付けないといけない。
児童:和室は縁側、洋室はベランダというのも違う。
児童:やっぱり、和室ではなくて洋室の方がいいな。考えが変わりました。
弥延:それはどうしてですか。
児童:洋室は床暖房があるから。
弥延:なるほど、機能面で選びなおしたということですね。
児童:はい。
弥延:確かにそういう違いもありますね。和室と洋室とよさは何かを、一人ひとりのイメージで考えて、和室と洋室の違いって何だろうというところまでいきました。家具の違いや機能面の違いなどの考えも出されましたね。
弥延:例えば、布団とベッドの違いは、ベッドは場所をとるけれど布団は片付けるから場所をとらないというのは、和室と洋室にあるものの違いと言えそうです。ここで1つ聞きたいのだけれど、みんなにとって、和室と洋室のどちらか片方が100%よくて、もう片方が100%ダメということはある?
全児童:ないです。
弥延:今、皆さんはイメージでいろいろと話をしてきましたが、実際に和室と洋室はどんな違いがあるのかな。なにか基準があるのかな。このことを説明した文章が教科書にあります。それが、「くらしの中の和と洋」です。それぞれの違いやよさはどんなところにあるのかということを、文章を読んで考えていきましょう。
説明文の学習をいかに主体的に行えるようにするか……ということをよく考えます。今回、「くらしの中の和と洋」を扱うにあたって、最終的には「和と洋について調べる」「それぞれのよさについて発表する」ということをゴールに設定したいと考えました。そのためには、和と洋について興味・関心をいかにしてもたせるかということが肝心です。
そのため、「手土産には和菓子か洋菓子か」という身近な話題を最初に挟み、教材文で事例としてあげられる和室と洋室の話にもっていきました。子どもたちは、自分のもつイメージをたくさん話しました。こうした姿を引き出すことで、「教材文にはどんな風に和と洋が書かれているのかな」「自分のもったイメージと同じかな(違うかな)」というように、主体的に読むことへとつながってくると考えます。
※本授業は、2023年11月に行いました。児童の授業中のマスク着用については、個人の判断です。
弥延 浩史(やのべ・ひろし)
筑波大学附属小学校教諭
全国国語授業研究会理事/令和2年度東京書籍小学校国語教科書編集委員/国語「夢」塾
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
記事を読む今回は、田中元康先生(高知県・高知大学教職大学院教授/高知大学教育学部附属小学校教諭)に、教材「インターネットは冒険だ」(東京書籍・5年)の授業づくりの工夫について、紹介していただきます。説明文の学習で当たり前のように行われる「要旨をまとめる」とはどういうことなのか。あらためてその意味や方法を確認しながら学ぶことで、汎用的な読みの力が育ちます。
記事を読む本教材「まいごのかぎ」(光村図書・3年)は、登場人物 りいこが次々と遭遇する不思議な出来事が、第三者目線とりいこの視点とを織り交ぜて描写されることで、読み手もまるで巻き込まれていくかのように展開し、ワクワクしながら物語の中に入り込むことができます。 今回は小島美和先生(東京都・杉並区立桃井第五小学校)に、一つひとつの叙述を自身の経験を想起しながら丁寧に押さえ、りいこの気持ちや行動と比較することで、人物像に迫っていく授業づくりを、紹介していただきました。
記事を読む今回は髙橋達哉先生(東京都・東京学芸大学附属世田谷小学校)に、新教材「文様」(光村図書・3年上)について、続く教材「こまを楽しむ」を踏まえた上で分析し、授業づくりのポイントとその具体例を紹介していただきました。 3年生はじめ、説明文に親しむための【れんしゅう】として、本教材にはどのような特性があるのでしょうか。 また、どのようにすれば主体的に読みを深められるのか、「ゆさぶり発問」のアイデアにもご注目ください。
記事を読む柘植遼平先生(千葉・昭和学院小学校)に、新教材「アイスは暑いほどおいしい?―グラフの読み取り」の授業づくりについて、「雪は新しいエネルギーー未来へつなぐエネルギー社会」と合わせて紹介していただきました。 今回の新教材の追加で、グラフや表などの資料が筆者の主張を分かりやすく伝えるための工夫として、捉えやすくなったことに着目し、資料を中心に説明文読解が深まるような単元づくりを行います。
記事を読む今月の5分で分かるシリーズは、藤平剛士先生(神奈川県・相模女子大学小学部)に、授業開きで確認し合いたい、すべての学びの基礎となる4つのスキルについて、実際の授業展開に沿ってご紹介していただきました。
記事を読む