「思いやりのデザイン/アップとルーズで伝える」 ―「くらべる説明文作り」で対比的にとらえるよさを実感しよう―
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執筆者: 山本 真司
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単元名:くらべて考えよう 教材:「思いやりのデザイン/アップとルーズで伝える」(光村図書・4学年)
今回は、山本真司先生(愛知県・南山大学附属小学校)に、子どもたちが物事を対比的にとらえることに自覚的になり、日々の生活へと結びつく力を育むような授業づくりについてご提案いただきました。文章の内容そのものにとどまらず、事柄の関係性へと目を向けさせることが重要になります。
また、基本三部構成や段落同士の関係を視覚化した段落構成図を、ぜひ板書や資料作成に役立ててみてください。
「ノートに手書きがいい? タブレットにタイピングがいい?」
「海に行く? 山に行く?」
「都会がいい? 田舎がいい?」
「今を楽しむことが大切? 将来のために苦しくても努力することが大切?」
私たちは、日常生活において何かと何かを対比させて考えることがよくある。 また、物事を敢えて対比的にとらえることで、双方のメリットとデメリットを冷静に比較して1つの答えを決断したり、状況に応じて判断したりすることもできる。生きる上で役立つ論理的なものの見方の1つと言える。
4年生の子どもたちは、日々の生活の中で物事を対比的にとらえることもあるのだろうが、そのことを厳密に自覚しているわけではない。
そこで、国語の出番である。
説明的文章を読む学習を通して、生活経験から得ている曖昧な概念が洗練され、自覚的に使える知恵とすることができる。 本教材「思いやりのデザイン/アップとルーズで伝える」は、この物事を対比的にとらえることのよさを学ぶのに適した教材である。
「対比的にとらえる」ことを柱とした単元づくりを通して、学習を「国語」に閉じたものではなく、日常生活に開かれた生きる知恵を学べる学習にしたい。
中学年の説明的文章では、段落と段落の関係をとらえることが大切である。
プレ教材としての「思いやりのデザイン」では、「Aの案内図」と「Bの案内図」が、「アップとルーズで伝える」では、撮影の仕方の「アップ」と「ルーズ」が、それぞれ対比の関係になっている。加えてメリット、デメリットも対比的に書かれている。
この対比の関係をとらえながら読むことで、そのよさを実感できるようにしたい。
また、基本三部構成の「中」において具体例が対比的に説明された上で、「終わり」は<まとめ>となっている。この<具体例とまとめの関係>の理解が、後の<具体と抽象>の関係把握へとつながっていく。
さらに、これら<対比の関係><具体例とまとめの関係>のよさを、実感を伴って理解するには、説明的文章を書く活動と組み合わせることが有効である。
単元末には「くらべる説明文を書こう」という言語活動を設定し、単元全体で「対比的にとらえること」を意識しながら学びを進めていくようにした。
〔知識及び技能〕
〔思考力、判断力、表現力等〕
〔学び向かう力、人間性等〕
第一次 |
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第二次 |
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第三次 |
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第四次 |
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「2つのものを比べて考えたいものってありますか?」と子どもたちに問いかける。
すると、次のような例が出された。
今と昔、ライオンとトラ、外食と家での食事、手書きとタイピング、小説とマンガ パンとごはん、
都会ぐらしと田舎ぐらし、外遊びと室内遊び ……
どちらが絶対によいとは言えないけれど、2つを比べることでそれぞれのメリットやデメリットが見えてくるもの。この単元の最後には、そのような2つの事柄を比べる説明文を書くことを知らせる。
また、2つの事柄を比べることを「対比」ということや、「長所、短所」「利点、欠点」「メリット、デメリット」という言葉も教えたい。役立つ用語を教えることが子どもの認識の深まりにつながるからだ。
プレ教材に当たる「思いやりのデザイン」を読んで、段落と段落の関係を整理する。
そのためには、まず、各形式段落をできるだけ短い言葉でまとめていく。
特に3段落において、「A 多くの人◎、道順△」のように、記号を用いて極力文字数を減らすメモの書き方は教えるとよい。
本実践では、子どもたちは「ロイロノート・スクール」のカードにメモを書いた。この後、段落と段落の関係を図示するのに便利だ。
以下は、「思いやりのデザイン」の段落構成図である(以降、①~⑤は段落、◎はメリット、△はデメリットを指す)。
「『中』と『終わり』」に加えて、「『中』と『初め』」が<具体例とまとめ>の関係になっている。
また、「中」の3段落と4段落が「対比」の関係になっている。
このように、段落と段落がどのような関係になっているのかを押さえることで、説明文を構造的にとらえることができる。 もちろん書くときにも転移させやすくなる。
「思いやりのデザイン」での学習と同様、カードに各段落を短くまとめた上で、構成図に段落と段落の関係を整理した。
各自で整理した図について交流しながら、正しい組み立てを吟味する。
特に難しいのは、7段落「新聞の写真の例」。
これは、1~6段落における「テレビの例」と類比の関係になっているからだ。
2つの教材文で学んだ構成を生かして、物事を対比的にとらえた説明文を書く。
まずは、教師の書いた例文を示すことで見通しをもてるようにしたい。
今回の説明文の条件は、「『中』の具体例を対比的に述べること」である。
いきなり文章化する前に、改めて「アップとルーズで伝える」の4段落と5段落の関係を確かめた。
この図4のように、4段落と5段落は「一方のメリット(デメリット)は、もう一方におけるデメリット(メリット)」という関係になっている。この関係を踏まえると、メリットとデメリットを整理しやすくなる。簡単にメモした上で、文章化するようにした。
子どもたちは、「外食と家での食事」「手書きとタイピング」「自転車と自動車」など各々のテーマで「くらべる説明文」を書き上げた。
最後に互いの説明文を読み合いながら、対比的にとらえることのよさを感じることができた。
今回は、「思いやりのデザイン/アップとルーズで伝える」の単元末に「くらべる説明文を書く」という言語活動を軸とした実践を紹介した。
本単元に限らず、説明的文章を読む学習は、書くことと組み合わせることで文章の論理的な構成への理解が深まることが多い。説明文を扱うことで、子どもの言語生活がどのように豊かになるのかを考えて、指導事項を明確にした単元づくりをしていきたい。
山本真司(やまもと・しんじ)
愛知県・南山大学附属小学校教諭
全国国語授業研究会理事/明日の国語授業を語る会幹事、教育を語る会「なごやか」主宰
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