
5分でわかる 文学的文章を読む力を付ける指導
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執筆者: 山野 健
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今月の「5分でわかるシリーズ」は、山野 健先生(東京都・世田谷区立玉川小学校)に、全体で本文を読んで物語文の構造や言葉のつながりに着目した後、自分なりの考え方で読み深める個々の活動を取り入れるアイデアについてご提案いただきました。
誰しも、このような子どもの姿が思い浮かぶのではないだろうか。Aの子どもの発言で全体の考えが深まる一方で、Bの子どもは板書をノートに写すだけで終わってしまう。よくある授業の光景であり、稿者自身もこれまで行ってしまっていた授業である。しかし文学の授業は、このように一部の子どもを中心に進むような状態でよいのだろうか。
「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(令和6年12月25日中央教育審議会諮問)」では、「主体的に学びに向かうことができていない子供の増加」という課題が挙げられている。Bのような子どもも主体的に学びに向かうようにするには、一人ひとりが文学的文章を読む力を付け、自信をもって取り組めるようにすることが不可欠となる。
では、国語科において「読む力を付ける」とはどういうことか。「ごんぎつね」を題材に、【浅い読み】と【深い読み】について整理してみよう。以下、「火縄じゅうでうたれたごんの気持ち」を扱う場面を取り上げる。
「深い読み」には様々なパターンがあるが、大村・秋田・久野(2001)による文章理解の「よし悪し」や「読解の熟達」を国語科のねらいに当てはめると、以下のように整理できる。
「着目の仕方」とは、「読むこと」の学習内容(指導事項)にあたる「行動」「会話」「場面」「気持ちの変化」などに着目することである。「考え方」とは、構造に位置づけたり、言葉同士を関係づけたり、既有知識や経験と結びつけたりすることである。
つまり、国語科における「読む力を付ける」指導とは、
を教え、引き出し、一人ひとりに定着させることと言える。
いきなり「読むこと」の学習内容に着目して読む子どもはいない。
加固(2024)は「学び方を身に付ける場」(p.35)は、一斉授業であると述べている。そのため、「読むこと」の学習内容に着目した学びを子どもたちが主体的に行えるようになるためには、「一斉授業で経験する → 子ども主体で活用する」という流れが必要である。「気持ちの変化に着目して読んだらおもしろかった」といった、学習内容に沿ったよい学びの経験がその後の重要な基盤となる。
写真1は年度初めに行った授業の板書である。第1次で「ルウの気持ちはなぜ、どのように変わったのか」という課題を子どもたちと設定した後、各場面の読みで挙がってきた根拠を行動、会話、様子、気持ち(直接的表現)に分類し、1年間使える読み方を指導した。
写真2はワークシートで各場面の変化を可視化したものである。写真1、写真2ような学びを経験した後、「読むこと」の学習内容を教室に掲示し、いつでも活用できるようにした(写真3) 。
その後、「まいごのかぎ」の授業では問いづくりを行った。写真4は子どもが自ら設定した「気持ちの変化」についての問いである。
ただ、「気持ちを考えよう」と「読むこと」の学習に着目しても、「うれしい」「悲しい」で手が止まってしまう子がいるだろう。そこで重要となるのが、深めるための「考え方」である。
稿者の学級では、次の①~④のような「考え方」を子どもたちが活用していた。これらは個々が問いを選択して読み深める時間に、子どもたちが自分から使い始めたものである。基になっているのは、既習単元の一斉指導で扱った考え方、他教科の学び、教師が多用していた問い返しなどの学習経験である。
ノートで子どもの学び方を見取り、毎時間のミニレッスンで考え方として紹介、掲示することで一人ひとりに合った方法で学びが進められるようにした。
紙幅の関係で詳述は避けるが、他にも「もしも……だったら」と仮定する、「第一夜」「第ニ夜」と時系列に整理する、対比させて考えるなどの深め方を稿者の学級では考え方として共有している。一人ひとりの学びを見取り、価値付け、共有することを繰り返すことで、多様な考え方が表れるようになる。
複数の行動や会話、描写などの言葉を書き出したり、線でつないだりして関係づけてみると、行間にある登場人物の考えや変化などが見えてくる。
グラフ化することで、場面ごとの変化を視覚化・抽象化でき、物語の構造を捉えやすくなる。稿者の学級では、「春風をたどって」で扱った後、個人の読みでも活用する姿が見られるようになった。視覚的でどの子にもわかりやすいため、子ども同士で広がりやすい考え方である。
ある言葉について具体的に想像しようとすることで、自然と他の叙述に根拠を求め、言葉同士を関係付けられるようになる。
例えば、「ちいちゃんのかげおくり」の「こわれかかったぼうくうごう」という言葉を5W1hや五感の観点で具体化する。「家は、やけおちて」「暗い」「ひとりぼっち」を根拠とすると、「焼け落ちた自分の家の近くで、真っ暗な壊れかかった防空壕の中、1人で過ごす小さな女の子」という悲惨な状況を想像することができる。
いわゆる同化である。「自分だったら」という考え方は、既有の知識や経験を、文章の内容と結び付けることを促す。
この考え方は、物語の設定がイメージしやすいか、子どもと登場人物が同化しやすいか等に配慮は必要である。しかし、表面的なテキスト理解から一歩踏み込んで考える手がかりとして、多くの子どもが取り入れやすい考え方である。
学年や学級の実態により、何をどのように委ねていくのかは千差万別である。しかし、一人ひとりが主体的に「読む力を付ける」ためには、何らかの方法で「着目の仕方」や「考え方」を身に付けられるようにする必要があるだろう。
「まだまだ考えたい!」「ずっと読んでいたい!」と、一人ひとりが主体的に読む姿を目指し、稿者自身も今年度の指導の在り方について引き続き考えていきたい。
〔引用・参考文献〕
山野 健(やまの・けん)
東京都・世田谷区立玉川小学校教諭
所属研究会/東京・国語教育探究の会 会員
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