「春風をたどって」 ―「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実する授業を創造するために―
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執筆者: 長屋 樹廣
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本年度から登場した新教材「春風をたどって」(光村図書・3学年)の、単元化のポイントや授業づくりの工夫を、いち早くご紹介いたします。 春らしく明るく優しい情景描写と、これからはじまる新しい毎日に心躍るルウの心情描写が、年度はじめの子どもたちにぴったりな教材です。
今回は長屋樹廣先生(北海道・釧路市立中央小学校)に、物語文ならではの登場人物の気持ちや変化を、一人ひとりが多様に読み取り、協働的に深め合える授業づくりのご提案をいただきました。
本学習材では「ルウの(気持ちの)変化」がキーとなる
場面の展開が明快で分かりやすいため、登場人物の心情の変化に焦点が当たりやすいよう工夫されている。しかし、具体的にはどのように変化したのか、どのような気持ちになったのか、内容として一言ではまとめづらい、物語文ならではの表現の深みがある。
本学習材のよさは、ここにある。どのように想像すればよいのか、どのように考えればよいのだろうと、子どもたち一人一人が問題意識を喚起しやすく、叙述の分析に意識が向かいやすい。
今回の教材の変更において、教科書の単元名が、「読んで、そうぞうしたことをつたえ合おう」から「登場人物の気持ちをたしかめ、そうぞうしたことをつたえ合おう」へと変更されたことからも、根拠としての叙述により注意を傾けていきたい意図がわかる。
また物語の内容も、想像したくなるような展開であるため、友だちと話し合い、読みを深める活動へと向かいやすいだろう。
本学習材のポイントは、ルウのノノンへの気持ちの変化、森に対する考え方の変化である。
具体的には、物語前半ではルウとノノンは、あまり話したことがない関係性であったけど、物語の後半ではルウはノノンを誘って一緒に素敵な場所を探したいと思うようになる等の、「登場人物の気持ちの変化」に着目して学習計画を立てる子どももいるであろう。
また、遠くに旅に出たいと考えていたルウが、近くにもこれまで見たことのない景色があることを知る等、「登場人物の考え方の変化」に着目する子どももいるであろう。
そこで、「スーパースター紹介カード」を作成することを、単元の冒頭で子どもたちに伝えることで、一人ひとりが学習計画を立てられるよう意欲を高めたい。
学習計画の具体としては、既習を生かし、「お話の流れ」「会話」「想像」「行動」「登場人物の関係」「登場人物の気持ちの変化」「登場人物の考えの変化」等の視点が出されるであろう。
そして、一人ひとりが立てた学習計画を生かしながら、個々の学習と協働的な学習を往還することで、「登場人物の気持ちの変化」「登場人物の考え方の変化」等、学習材のポイントを深めることができるようにしていきたい。
これから1年間「トレジャーボックス」を日常的に活用し、学習履歴として、読書の記録や国語科の学習で学んだことをこの「トレジャーボックス」に蓄積していく。
第一次では、その「トレジャーボックス」に入れる「スーパースター(作品のきらりと光るところ)紹介カード」の作成モデルを子どもたちに見せることによって、単元の見通しをもち、学習計画を立てられるようにする。
第二次では、一人一人の学習計画に合わせ、登場人物の気持ちの変化や性格、情景について、場面の移り変わりと結び付けて具体的に想像しながら読んでいく。
第三次では、「春風をたどって」の「スーパースター」とその理由を記述した「スーパースター紹介カード」を読み合ったり発表することで交流し、学びのよさを実感できるようにしていく。
<知識及び技能>
・様子や行動、気持ちや性格を表す語句の量を増し、語彙を豊かにすることができる。(知識及び技能(1)オ)
<思考力、判断力、表現力等>
・登場人物の気持ちの変化や性格、情景について、場面の移り変わりと結び付けて具体的 に想像することができる。(思考力、判断力、表現力等 Cエ)
<学びに向かう力・人間性等>
・言葉がもつよさに気付くとともに、幅広く読書をし、国語を大切にして、思いや考えを伝え合おうとする。(学びに向かう力、人間性等)
第一次 | 学習計画を立てる(第1・2時) |
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第二次 | 一人一人の学習計画に合わせ、「春風をたどって」を読む(第3~6時) |
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第三次 | 「スーパースター紹介カード」を記述し、交流する(第7・8時) |
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導入では、「トレジャーボックス」に入れる「スーパースター紹介カード」 の作成モデルを教師が見せることによって、単元の見通しをもてるようにする。
「私がこの作品で『スーパースター(作品のキラリと光るところ)』だと思ったところは、『登場人物の気持ちの変化』です。最初は、ルウとノノンは、あまり話したことがなかったけど、ルウがノノンと一緒に見渡す限りの花畑に行くことで、最後は、ルウはノノンを誘って一緒に素敵な場所を探したいと思うようになったところが素敵だと思ったからです。」
スーパースター紹介カードは、図2のように作品のキラリと光るところとその理由を記述する。
「かもさん(学級のキャラクター)が、こんな感じで書いてみたのですが、イメージできそうですか?」といった教師の問いかけに、子どもたちからは「あ~なるほど、『スーパースターとその理由』ね。これなら、イメージできるよ」「これなら学習計画を立てることができるかもしれない」等の発言が見受けられるであろう。
「個別最適な学び」の視点としては、子どもたち一人一人が、これまでの学びを生かして、自分なりに課題設定をし、自分の課題を追究していくことに意味や価値を感じている姿を見取りたい。例えば、「○○と○○の2つを追究してみたい」「どうしてかというと、登場人物の関係と行動は関係しているから」などの発言が予想される。
「スーパースター紹介カード」作成に向けて、一人一人の課題は違っても、個々の読みを共有し「あらすじの大体を読む」という学習活動は、物語への思いや考え方を深めていく交流の場として、すべての子どもたちの「単元全体の学習活動を支える」ものにつながると考える。
「ノノンは、のんびりで、おっとりしていて、目を閉じていて寝ているのか起きているのかわからないときがあるけど、どんどん前に進んでいき、足を止める気配がないくらい動くときもあるよね」
など、ノノンの人物設定についても、視点は違っていても、一人一人が物語の本文をしっかりと読んであらすじをつかんでいる多様な様子が、子どもたちの発言から見取れるであろう。
さらに、
「しげみの向こうには、見渡す限りの花畑があり、ルウは『すごいや。』と言っているね」
「そうだね。きっと、一人だったら、この花畑を見つけることができなかっただろうね」
「そして、ルウは『ぼくは、もう少しここにいることにするよ』と言うほど、この場所が気に入ったね」
「うん、ルウは知らない素敵な場所が他にもまだ近くにあるかもしれない、と言っているね」
「そうだね。ノノンを誘って一緒に探してみようとも言っているね」
など、あらすじを捉える中にも、所々に自分の考えと関連させて発言する様子が見られるであろう。
「ルウとノノンはあまり話したことがなかったけど、お話の最後の方には、ルウはノノンを誘って一緒に探せば、あの花畑みたいな景色を見つけられそうな気がすると言っていて、ノノンとの親しみが出てきた」などの意見が出され、1人で読んだときには見えなかったあらすじの全体像や言葉と言葉のつながりを交流しながら、あらすじを学級全体で共有していきたい。
授業の導入場面では、「スーパースター」とその理由をはっきりさせたいと考えている子どもの思いから本時の課題につなげていくことで、子どもたちの学習に対する必然性、必要感が高まっていく。
授業の全体交流では、「スーパースター」として、
「ノノンは、目を閉じていることもあるが、前を行くノノンは足を止める気配がないところかな」
「『すごいや。』『すごいや。』のところがスーパースターだよ。きっと、それだけ花畑にびっくりしたんだろうね」
「ぼくは『もう少し、ここにいることにするよ。』のところかな。もっと花畑を見たいという気持ちだと思う」
「わくわくしながら、ルウがねどこにねそべると花畑からついてきたさわやかなかおりが、ふわりとルウの鼻をくすぐるのところに決まったよ。たいくつからわくわくに変わっているね」
「ノノンとルウは、あまり話したことがなかったのに、ルウはノノンを誘って一緒に探してみようとするところかな。お互いに仲良くなっているよね」
等の意見が想定される。
「スーパースター」とその理由を交流する視点としては、「お話の流れ」「会話」「想像」「行動」「人物関係」「マイナス・プラス」「変化」などが共有され、一人ひとりの学習計画の視点に沿って、本時の学びを生かして、さらなる追究をしていきたいという発言や、この後の追究への道筋を思考している姿が期待される。
子どもたちは各自が立てた「学習計画」に沿って、ロイロノートなどで作ったメモを基に、「スーパースター」だと思う場面や、その場面を選んだ理由をまとめていく。授業では、友達との交流などを通して、自分の考えを広げたり、深めたりして、子どもたちは自分の感想や考えを「スーパースター紹介カード」に記述していく。
物語の大体を捉えつつ、場面の様子に着目し、登場人物の具体的な行動の叙述を根拠に、物語を読んで感じたことや、分かったことを「スーパースター紹介カード」にまとめていきたい。
単元を通して、これまで子どもたちが、読んできた自分の考えやその根拠となる叙述を書き溜めたロイロノートなどで作ったメモを基に記述した「スーパースター紹介カード」を、読み合ったり発表することで交流し、お互いのよさを認め合ったり、自分の学びの成果を実感したりすることができると考える。
「この『スーパースター』は、ぼくの考えと少し違うけど、わかるな」
「この『スーパースターの理由』は、なるほどと思った」
などの話し合いは、思いや考えを共有するだけでなく、異なる考え方を発見し、成長する場面ともなる。
これらの学習活動を通して、自分の考えを広げたり深めたりして、ロイロノートや「スーパースター紹介カード」を更新していく子どもの姿が見られるであろう。
「お話の流れ」「会話」「想像」「行動」「登場人物の関係」「登場人物の気持ちの変化」「登場人物の考えの変化」等の視点で一人ひとりが追究を進めてきた読みを、時には一人で、時にはペア・グループ等の少人数で、時には全体で協働的に対話を進めることで、自分自身の読みを広げたり、深めたりすることができる。
「 最初は、ルウとノノンはあまり話したことがない関係だったけど、ルウがノノンと一緒に見渡す限りの花畑に行くことで、最後にルウはノノンを誘って一緒に素敵な場所を探したいと思うようになったね 」
等の、学習材のポイントである「登場人物の気持ちの変化」に着目する子どももいるであろう。
また、「スーパースター紹介カード」を通して、一人ひとりが「個別」に追究してきたことを、ペア・グループ・全体交流等の「協働的な学び」でつなぎ合わせていくことができるであろう。
友達の読みが自分自身の読みに生かされたり、自分自身の読みが友達の読みに生かされたりする姿が実現することが、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の接続において重要であると考える。
〔引用・参考文献〕
・青木伸生(2021)「個別最適な学びに生きる フレームリーディングの国語授業」(明治図書)
・中村和弘(2018)「見方・考え方 国語科編」(明治図書)
・藤森裕治(2018)「学力観を問い直す 国語科の資質・能力と見方・考え方」(明治図書)
長屋樹廣(ながや・たつひろ)
北海道・釧路市立中央小学校
全国国語授業研究会常任理事/北海道教育大学釧路校国語科教育研究会常任理事/国語探究研究会理事/釧路国語教育研究会研究部長/日本国語教育学会会員/全国大学国語教育学会会員/解釈学会会員
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