個別最適な学びをつくる前夜
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執筆者: 青木 伸生
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個別最適な学びは、子どもが自分の課題意識をもち、自分の学び方で課題を解決していくという学びのプロセスである。これは、「主体的・対話的で深い学び」と軸を同じにする考え方であり、子どもを主語にした学びの姿そのものであるといえる。
逆に言えば、1人でも学ぶことのできる主体性のある学び手を育てなければ、個別最適な学びは成立しない。何をどうすればよいのか分からない学び手は、自分の学びのスタイルをもてていない。学ぶ力を育てることが、学び手を育てることだ。
1人でも学ぶことのできる子どもを育てるには、1人で学ぶ経験を積むことが不可欠である。当然はじめから上手に学べるはずがない。失敗こそが学びである。自分でやってみて、うまくいかなくて、軌道修正する。その繰り返しが、個別に学べる子どもを育てるのである。
口で言うのは簡単だが、教師はこれができない。子どもに失敗させることができない、あるいは、失敗のさせ方が下手なのだ。なぜならば、これまでの授業は、子どもに失敗させないように行われてきたからである。
「子どもに失敗させない授業」は、子どもが失敗しそうになったら、教師が失敗する前に助けてやればよいから簡単である。教師は今までに無数の「転ばぬ先の杖」を子どもに与え続けてきた。これでは子どもは失敗するはずがないし、失敗を悪いことだと思い、「間違えたら恥ずかしい」と言って挙手しなくなる。失敗こそ学びであることが、分かっていない故の発言だ。この先、この子どもたちが大人になって、例えば仕事で失敗したら、その子はそれに耐えられるのだろうか。
今の子どもに必要なのは、レジリエンスだという。
失敗こそ学びと考え、失敗から学び、それを糧にして起き上がり、這い上がる子どもを育てたい。少々の困難に屈することなく、何度でも挑戦を続ける子どもを育てたい。
育てたいのは頭でっかちの子どもではないし、点取り虫の国語嫌いでもない。言葉によって自らを支え、言葉を通して仲間と関わり、自分自身をより逞しく育てていくことのできる子どもを育てたいのだ。
そのためには、失敗する経験を授業として積み重ねたい。もちろん無理矢理失敗させる必要はない。上手にできたときは大いに認めて価値付ける。そして、なぜうまくいったのか、どこがよかったのかを振り返る。成功したときこそ、振り返りを大切に、入念に行いたい。それが、失敗したときの次に向かう肥やしになるだろう。
失敗してから悩むのは、できれば避けたい。失敗して気持ちが下向きになったときには、打開策はなかなか出てこないであろう。余計に子どもを追いつめることになりかねない。仲間からのアドバイスをもらう機会とするならば有効な学びの場面になるかもしれない。その時に子どもは「困ったら仲間に助けを求めればよい」と学ぶであろう。
人は支え合って生きていくことができる。誰かが困っていたら、「どうしたの」「何に困っているの」と声を掛け合える集団をつくりたい。それがつながりのある学級集団である。子ども同士がつながり合っている学級集団は、学びの質も高い。これは身をもって体感してきた事実である。この、子ども同士のつながりも、教師が意図的に育てていく必要のある重要な学級経営の要素である。
話がかなり広がってしまったが、個別最適な学びをつくるポイントは、一人一人の子どもを、学び手として自立させる教育にあるというのが結論である。そのために、次の3つがポイントになると考えている。
今回は、この3つのポイントのうち、1)ワークシートをやめることについて述べていく。
ワークシートは、個別最適な学びの対極にある弊害であると考える。授業を進める上で、学級で同じワークシートを使い続ける限り、個別最適な学びは成立しない。クラス全員が同じワークシートに穴埋めしている姿を思い浮かべれば、容易に納得できるであろう。
一方、ワークシートが必要な場合もある。様々な思考ツールを知るときには、クラスみんなで同じワークシートに書き込みながら、「これがマッピングか」「これがベン図か」など、その方法を学んでいくことが必要である。問題は、これをいつまでも続けるということにある。どこかでワークシートを卒業しなければならない。そのステップは以下の通りだ。
まずは、クラス全員が同じワークシートを使って、表の書き方、ベン図の作り方などを学ぶ。次に、今までに学んだいくつかのシートの中で、自分がやってみたいシートを個別に選択して使うようにする。これだけで、クラスで使われるワークシートは複数種類あることになる。子どもから、既存のワークシートに少しでもアレンジを加えたアイデアが出てきたら、それを教師が賞賛し、クラス全員に紹介する。ほかの子どもたちも「自分でアレンジしていいのか」という思いをもつだろう。そうなれば、ワークシートは、それまでの単なる穴埋めシートではなくなる。個々の子どものアイデアが加わったシートになるだろう。
複数種類のワークシートで、整理の仕方やまとめ方を学んだら、次はワークシートを使わずに自分のノートに書き込んでいくようにする。ノートは、それまでにも自分の学びの足跡として、しっかり書く習慣を付けておくことが大切である。まずは、板書の書き写しからでもよいだろう。それも、どこに何を書くか、何色のペンを使って書くかを考えさせながら、ノートへ記録できるようにしたい。
次第に、一人一人がノートのレイアウトを工夫できるように、色の使い分けなども子ども自身で考えられるようにする。そして、少しでも工夫されたノートを見つけたら、教師がコピーして次の日にはクラス全員に配布して紹介する。これを継続することで、子どものノートはどんどんオリジナルになっていく。
そこに、ワークシートで学んできた整理の仕方を取り入れていく。子どものノートは一段とオリジナリティーを増すだろう。ここまでくれば、ノートはその子にとっての学びの軌跡を残す場になる。はじめは、ぐちゃぐちゃのノートでよい。子どもは次第に自分なりの整理の仕方を身に付けていく。
これが、個別最適な学びの土台をつくることになっていくのだ。
青木伸生(あおき・のぶお)
筑波大学附属小学校教諭
全国国語授業研究会会長/日本国語教育学会常任理事/教育出版小学校国語教科書編集委員
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
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