5分でわかる指導技術 言葉への見方・考え方を広げる詩の授業
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執筆者: 三笠 啓司
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今月の5分で分かるシリーズは、三笠啓司先生(大阪教育大学附属池田小学校)に「言葉への見方・考え方を広げる詩の授業」についてご提案いただきました。視写や音読を活用し、子どもたちが言葉への見方・考え方を広げる詩の授業展開について、1・4・6年生の教材を例に解説いただきました。詩の授業に不安感のある先生方、ぜひ一緒に学びましょう。
目次
「詩を丁寧に視写しましょう」
「詩を工夫して音読しましょう」
詩の学習で、よく聞こえてくる教師の指示です。 詩を視写すること、工夫して音読することは、とても大切な学習内容です。ただ、視写して終わり、音読して終わりの学習のみに終始してしまうとどうでしょう。きっと、子どもたちは詩を学ぶ楽しさを感じることができないでしょう。詩で使われている言葉の一つひとつには、作者の思いが込められています。視写や音読を学習の軸として、作者が大切にしている言葉への見方・考え方を広げていくことが大切です。
私は、視写、音読をすることには、次のようなよさがあると考えています。
視写することのよさ
音読することのよさ
もちろん、これらがすべてではありません。視写、音読することのよさを自分なりに考え、何のために視写をするのか、何のために工夫して音読するのか、しっかりと問い直すことで詩の授業は、大きく変わります。
では、視写や音読を活用し、子どもたちが言葉への見方・考え方を広げる詩の授業展開には、どのようなものがあるのでしょうか。
具体的な授業展開としては、以下のようなものが考えられます。
ここからは、言語活動に焦点をあて、以下の教材をもとに詩の授業の具体について考えていきたいと思います。
教材名:「あさのおひさま」(光村図書/1年上)
まずは、「あさのおひさま」という題名を書き、「どんなおひさまが出てくるかな?」と問いかけます。「大きく、元気なおひさまだと思うよ」「明るいおひさまだね」「きっとにっこりしていると思うよ」など、子どもたちは想像力を働かせます。そこで、子どもたちと一緒に視写を行います。ただし、「のっこり」「ざぶん」という2つの言葉を隠しておきます。「あなたはどんな言葉を入れたい?」と問うと、書かれている言葉をもとに、自分なりに考え始めます。
「のっこり」……ゆっくり、大きな、にこにこ、あおい、ふわっと など
「ざぶん」……きれいに、じゃぶじゃぶ、いそいで、にっこり など
「『のっこり』は、何だかゆっくりって感じがする。のっそりでもいいんじゃないかな」
「みんなが遅刻しないように、『ざぶん』は早く顔をあらっているんだよ」
「きっと、おひさまもねむたいんだよ」
「『のっこり』から『ざぶん』はスピードが速くなっているね」 など、友達と話をしながらどんどん考えを広げていきます。一つの言葉を軸にして、詩の世界を豊かに味わうことができます。
教材名:「忘れもの」(光村図書/4年上)
ここでも、「忘れもの」とだけ題名を書き、どのような「忘れもの」がでてくるのか想像させます。題名読みをすることで、子どもたちは、作者が考えた「忘れもの」と自分が想像した「忘れもの」を比較しながら、自然と詩に向き合い始めます。視写を行った後、子どもたちの気付きを共有していきます。
子どもたちの気付き
そこで、「あなたが心に残っている夏休みの忘れものは?」と問いかけます。プール、風鈴、うきわなど、子どもたちは、日常経験を想起しながら自分だけの「忘れもの」を考え始めます。そして、第4連を自分が心に残っている夏休みの「忘れもの」で創作していきます。創作する過程で、どのような順番で「忘れもの」を書いていくのか、どのように「忘れもの」を表現していくのか、子どもたちの思考は動き出します。創作することで、詩を再読したり、一つひとつの言葉や表現方法を意味付けしたりする学びが生まれます。
教材名:「詩を楽しもう」(光村図書/6年)
教科書を見てみると、「詩を味わおう」や「詩を楽しもう」など、学習のめあてが示されています。詩の味わい方や楽しみ方は、一人ひとり違います。ここでは、自分が考える詩の味わい方や楽しみ方を表出させることから詩の学習を始めていきます。
「みんなは、どうやって詩を楽しんでいるの?」と子どもたちに問いかけると、以下のような詩の楽しみ方が出てきました。
子どもたちが考える詩の楽しみ方
はじめに詩の楽しみ方を共有することで、抽象的なめあてを具体的なめあてとして自覚化することができます。そして、「春の河」「小景異情」の2つの詩を視写し、「あなたが春の楽しみを感じる詩はどっちかな?」と問います。詩を比較することで、言葉への感度は高まります。
そこで、ネームプレートを貼り、自分の立場を明確にしていきます。同じ詩を選んだ友達と対話するなかで、自分では気付けなかった言葉のよさが見え、新たな気付きが生まれます。また、違う詩を選んだ友達の考えを聞くことで、新たな詩の楽しさに出会うこともできます。自分なりに詩の楽しさを表現することは、詩の創作活動や音読活動に繋がる大きな力となります。
詩の学習を豊かなものにするためには、他者との共有が欠かせません。友達と創作した詩をじっくり鑑賞し合い、付箋を使ってコメントを届けたり、友達のノートに直接メッセージを書いたりすることで、他者と学ぶ意味を見出していくことができるでしょう。
また、ICT機器の活用することで、音読の可能性を広げることができます。ICT機器の活用は、音読の様子を動画で撮影するだけにとどまりません。詩の情景を表現した挿絵を描き、そこに音声(音読)を吹き込めば、作者となって詩の世界を表現することもできます。できた音声(音読)作品を他者と共有することで、子どもたちの学びの充足感は、満たされていきます。
物語や説明文の学習とは違い、詩を学習する機会は限られています。だからこそ、子どもたちが一つひとつの言葉を吟味し、気付きや考えを自分なりに表現できる詩の授業を創っていくことが大切なのではないでしょうか。
〔引用・参考文献〕
白石範孝(2011)『白石範孝の国語授業の教科書』東洋館出版社
三笠 啓司(みかさ・けいじ)
大阪教育大学附属池田小学校
「子どもの論理」で創る国語授業研究会/関西国語授業研究会/全国大学国語教育学会会員
新教材「銀色の裏地」は、新年度初めの高学年にとって身近な事柄がテーマとなっている物語文です。中心人物「理緒」の大まかな心情の変化は捉えやすいものの、細かい描写において、なぜそう思ったのか(行動したのか)明確には表現されていないため、叙述を基に、登場人物に感情移入して想像したくなります。 今回は山本純平先生(東京都・江東区立数矢小学校)に、「言ったこと」「行ったこと」「思ったこと」「繰り返し出てくる表現」の観点から細かく描写に着目し、本教材の学習後も、自力で物語文を読み進められるような力を育む授業づくりの工夫を、ご提案いただきました。
今月の「5分でわかるシリーズ」は、秋山千沙子先生(東京都・目黒区立上目黒小学校)に、子どもたちが主体的に書く学習に取り組めるための工夫をご提案していただきました。 書くことに苦手意識をもつ子どもにとってハードルが高い「新聞づくり」単元を、「オリジナル話型」を活用した話し合い活動を取り入れることで、相手意識、書く目的を自覚することにつながり、意欲的な取り組みにつながります。
今回は笠原冬星先生(大阪府・寝屋川市立三井小学校)に、説明文の4つの基本構造をはじめに押さえ、平成27年度版と令和2・6年度版の本教材を読み比べることで、説明文の構造がどのように変化したのか、それぞれにどのようなよさがあるのか、について気づける授業づくりの工夫をご提案いただきました。
新教材「スワンレイクのほとりで」は、本文中に数多くの色彩が登場し、中心人物「歌」の一人称で、グレンとの思い出が色鮮やかに描かれるなど、情景描写の多い物語文です。野菜畑から湖へと場面が移るにつれ、色の数はどんどん増え、色たちが動き出すクライマックスでは、歌の高揚感が伝わってくるようです。 本教材について沼田拓弥先生(東京都・八王子市立第三小学校)に、情景描写に着目しながら、様々な視点から読者が「歌」に寄り添うことで、同化・異化という「登場人物との距離感」を意識した読みの力が育つ授業づくりについてご提案いただきました。
本教材では、「おかゆのおなべ」の呪文を、誰が知っていて、どのように言ったのかということが、この物語の起承転結をつくる鍵となっています。本教材の学習を通して、物語文を読む上で重要な、会話文を押さえることに意識が向くようになるでしょう。 今回は柘植遼平先生(昭和学院小学校)に、かぎ(「」)の役割や知識を深めつつ、かぎ(「」)が誰のセリフなのか本文を根拠にしながら読み進めることで、文学のおもしろさにふれられるような授業づくりの工夫を紹介いただきました。
新教材「宇宙への思い」は、宇宙そのものへの感想や気持ちが表れている箇所が実は少なく、宇宙での経験や研究(事実)を通して、地球や身近なことの未来をどのように考えたのか(願い)、について最後に述べられていることが特徴的です。 本教材について、田中元康先生(高知大学教育学部附属小学校教諭/高知大学教職大学院教授)に、文末と主語に着目して読み、著者の述べている考えと事実を整理していく学習活動について提案していただきました。根拠に基づいて自分なりにまとめるため、より友だちと考えを共有し、読み深めたくなるでしょう。