「すがたをかえるレベル」で「すがたをかえる大豆」を主体的に読む
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執筆者: 山本 純平
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単元名:れいの書かれ方に気をつけて読み、それをいかして書こう
教材:「すがたをかえる大豆」(光村図書 3年)
「すがたをかえる大豆」の授業づくりを紹介します。本教材は事例列挙型の説明的な文章で、例の選び方や分類、順序性を考える手がかりを文章中から見つけることができます。また、学んだ文章の書き方を生かして「食べ物のひみつを教えます」という「書くこと」の学習にも直結しています。今回は、山本純平先生(東京都・江東区立数矢小学校)に、子どもが説明文の読解を通してその工夫を理解し、自然と自分なりの工夫として再構成するようになる授業づくりについてご提案いただきました。
目次
考えることを楽しむ子を育てたい。考えた内容が国語の学びにつながるものであれば喜ばしい。教師が指示を出さずとも、自然と学びに向かえるようになってほしい。
この単元は説明文で学んだことを活用して、文章を書くことで力の定着を図ることを意図している。「すがたをかえる大豆」を読んで説明の仕方の工夫を理解し、「食べ物のひみつを教えます」で子ども自身が、伝えたい食べ物について文章を書くのだ。
あまりにそれを意識しすぎて「最後に書くから、そのために読むんだよ」と子どもに押し付けるような導入にしてはいないだろうか。「『くふう』と書いてあるから、段落の最初の一文が大切ということは分かるけれど、その後どうすれば深まるのか分からない」ということはないだろうか。
「はじめ」「中」「終わり」の答えをすぐに教え込まないこと、「すがたをかえるレベル」という視点で整理して読むことで、自然と学びに向かい、文章を読み深めることができる。
本教材は、子どもたちが「初め」「中」「終わり」の構成を意識しやすい。「豆まきに使う豆」「に豆」といった具体事例が分かりやすく列挙されていく。工夫され、姿を変えた食品名が出てくるところが「中」となる。「このように」で、それまでの事例をまとめているため「終わり」のまとまりになることも理解しやすい。
しかし、多くの子は「第二段落から中が始まるのか、それとも第三段落から中が始まるのか」と迷うことが予想される。ここで教師がいきなり答えを提示するのではなく、その迷いを読みの動機付けとする。迷いを解決するために、要点をまとめる活動を行う。「初め」「中」「終わり」の構成を捉える方法を教えるのだ。また、「いちばん分かりやすいのは」「次に」「また」「さらに」「これらのほかに」といった接続語や「くふう」という言葉から事例の順序について考えることもできる。
順序性についても、教え込むことを避ける。子ども自身で気が付くための方法として「姿を変えるレベル」を付ける活動を行う。文章に書かれていることにレベル付けすることを通して、子ども自身が再構成していく活動である。レベルの数値に関しては、ある程度の自由度を許容しつつ、だんだんレベルが上がっているということについては外さないように指導したい。
教材の特性に合わせた活動を行うことで、次にそれを生かして「食べ物のひみつを教えます」で文章が書けるようになる。読むことと書くことが直結した、とても良い教材である。
〔知識及び技能〕
・比較や分類のしかた、辞書の使い方を理解し使うことができる。(2)イ
・幅広く読書に親しみ、読書が必要な知識や情報を得ることに役立つことに気づくことができる。(3)オ
〔思考力、判断力、表現力等〕
・自分の考えとそれを支える理由や事例との関係を明確にして、書き表し方を工夫することができる。 Bウ
・段落相互の関係に着目しながら、考えとそれを支える理由や事例との関係などについて、叙述を基に捉えることができる。 Cア
第一次 | 通読して大まかな内容を捉え、「初め」「中」「終わり」に分ける(第1時) |
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第二次 | 事例の順序に着目し、「中」を読む(第2~7時) |
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第三次 | 「食べ物のひみつを教えます」で書く活動を行う(第8~15時) |
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T:「はじめ」「中」「終わり」の3つに分けられる?
C:終わりは分かる。
C:「このように」って書いてあるから、まとめている感じがする。
T:「中」がどこから始まるか、自信がない。
C:第2段落から「中」が始まると思う。
C:第3段落から始まる気がする。
T:段落を短くまとめると、分かるようになるかもしれませんよ。
段落を短くまとめることを「要点にまとめる」という言葉で話すこと。段落の大事な言葉を探すことを伝える。
■大事な言葉の探し方
その1 繰り返し出てくる言葉を探す
その2 題名に関係する言葉を探す
その3 文の主語に注目する
■要点にまとめる時のコツ
主語を最後にもってくる
初めは第1段落を子どもと一緒にまとめる。この時、無理にクラスで1つの要点に決めることはしない。子どもが自力でまとめられるよう、やり方が分かるようになればよいという意識で授業を進めることが大切である。この教師の態度が、子どもの主体性を引き出す。
ここでは「くふうされてきた大豆」という要点の後半部分は共通にして、前半部分はポイントを押さえていれば多少の違いはあってもよいということにした。
この時間で丁寧に要点指導を行うことで、残り3時間で全ての段落の要点をまとめることができるようになることを目指す。
T:前回、どんな要点を書いていたか、ちょっと確認しようか。Aさん、どうぞ。
C:すがたをかえても気づかれない大豆。
T:ちゃんと大事な言葉のポイントを押さえていれば、人それぞれで大丈夫だったね。 (ここで用意した白紙の短冊に書き込む)
T:今日は第2段落の要点だね。やり方が分かった人は自力でやろう。 まだ自信がない人は、一緒に大事な言葉を探そう。
(子どもそれぞれのペースに合わせて進めていく)
T:後で、みんなで考えるから、短冊に残しておくよ。第2段落はBさんの要点を書くね。
段落ごとに別の子どもの作った要点を短冊に書く。
第3~7段落は最初の一文に注目するだけで、ほぼ自動的に要点にまとめることができる。
あまり国語が得意でない子の要点も、第3~7段落でクラスの代表として取り上げやすい。
C:ねえ、先生。どこからが「中」になるか分かっちゃったかも。
C:あそこから、違ってくるよね。
「―――――大豆」「―――――くふう」と文末が異なることから、子どもたちは第3段落からが「中」のまとまりになるとなんとなく分かってくる。
T:本当? ちょっと並べて見てみようか。
第5時の初めに第1段落から第7段落までの短冊を並べ、「中」の始まりを共通理解する。
T:「すがたをかえる大豆」なんだよね。一番分かりやすい「いり豆」を「すがたをかえるレベル1」だとすると、「に豆」はレベルいくつになりそう?
C:同じ段落だからレベル1なんじゃない?
C:「水につけて」から「にる」から、2回なんかやってるよ。レベル2。
C:あ、そうか。「いり豆」は炒ってるだけだ。1回だ。
T:いいね。レベル2ということにしようか。じゃあ、きなこはどうなる?
C:炒って粉にするから、これも2回。レベル2じゃない?
C:待って。粉々になってるから、結構姿が変わってるんじゃない?
C:そうか。じゃあ2回やっているけど、レベル3かな。
C:いや、粉々になってるから、レベル4だよ。
C:ねえ、だんだんレベルが上がってる感じなんだけど、納豆でおかしくならない?
C:別のものを入れるのは豆腐と同じなのに、姿は豆腐より大豆に近いよ。
T:だんだんレベルが上がってきているのは、気のせいだったのかな?
C:いや豆腐は一晩でしょ? でも納豆は1日近くかけてるんだよ。
C:うん。豆腐より時間がかかってる。あと、目に見えない小さな生物ってところも・・・・・・。
第5時の初めに第1段落から第7段落までの短冊を並べ、「中」の始まりを共通理解する。
※本来は教科書の挿絵を掲示します。
T:前回はどこまで「すがたをかえるレベル」をつけたっけ?
C:味噌や、しょう油までつけた。だんだんレベルが上がっていた。
T:どんな風にレベルをつけた? 誰か、教えてくれる?
C:はい。ぼくは炒り豆がレベル1で、に豆はレベル2で…。
第6時で、子どもによりレベルの上がり方に差があってもよい。
ただ、第7時の初めは全ての食品を、誰か一人が付けたレベルを基準にして振り返る。いろいろな子を当ててしまうと、だんだんレベルが上がるという事例の順序性がおかしくなってしまうことがあるためだ。前時までのノートを確認し、意図的に指名をして振り返りたい。
C:今日は、もやしだ。ええと…。先生、何かおかしいです。
T:その気持ちが分かる人、いる?
C:分かります。もやしの「すがたをかえるレベル」は低いんです。そのまま何もしていないから、レベル0かもしれない。
C:何で最後がもやしと枝豆なんだろう?
(子どもたちの疑問をめあてにする)
「レベルがひくいはずのもやし、えだ豆。なぜ最後に出てきた?」
指示されなくとも教科書を開き、その段落を読み始める子が出てくる。「これらの他に」という言葉や「大豆」と「ダイズ」の違いに着目する子も現れる。
レベルをつける活動を行うと、自然とその他の扱いにも目が行くようになる。子どもの思考が途切れずに、学びに向かうことができるのだ。
「中」が始まる場所のズレを考えるための方法として、要点指導をする。要点にまとめることで疑問が解決する。学んだことを活かすという成功体験が、次の学びへの意欲を生む。
「すがたをかえるレベル」を考える活動を通して、具体事例の順序性に目を向けることができる。
書く前の調べ学習で、自分が調べた事例のレベルを書くよう、声をかけるのもよい。どのような順序で書くとよいか、よりはっきり意識できるようになるだろう。
楽しく考え、活動したことが、そのまま三次で使える言葉の力となる。
山本 純平(やまもと・じゅんぺい)
東京都・江東区立数矢小学校
全国国語授業研究会理事
本教材において、子どもたちが自分なりの意見をもち、話し合い、個性を認め合うことで、一人ひとりの多様さが生きる授業づくりを、髙橋達哉先生(東京学芸大学附属世田谷小学校)にご紹介いただきました。 本教材で身に付けたい力から指導内容を明確にした上で、「その子らしさ」を生かした授業を計画することで、拡散ではなく、それぞれの軸をもった子どもの「多様さ」が発揮されるようになるでしょう。
今回は小崎景綱先生(埼玉県・さいたま市立新開小学校)に、令和6年度に本教材が改訂されたことを踏まえ、「以前の文章に変更を加えることで、筆者はどのように、何を、読み手により伝えたかったのか」といった、説明文の工夫における意図や思いに迫ることで、「筆者を読む」力が身に付く授業づくりをご提案いただきました。
今回は藤平剛士先生(相模原女子小学校)に、本教材の前にある詩「生きる」と合わせて、「生きるとは何か?」といった答えのない問題を設定することで、6年生の子どもたちが今の自分と向き合ったり、探究的な見方・考え方を育めるような授業づくりの工夫をご提案いただきました。
新教材「銀色の裏地」は、新年度初めの高学年にとって身近な事柄がテーマとなっている物語文です。中心人物「理緒」の大まかな心情の変化は捉えやすいものの、細かい描写において、なぜそう思ったのか(行動したのか)明確には表現されていないため、叙述を基に、登場人物に感情移入して想像したくなります。 今回は山本純平先生(東京都・江東区立数矢小学校)に、「言ったこと」「行ったこと」「思ったこと」「繰り返し出てくる表現」の観点から細かく描写に着目し、本教材の学習後も、自力で物語文を読み進められるような力を育む授業づくりの工夫を、ご提案いただきました。
今月の「5分でわかるシリーズ」は、秋山千沙子先生(東京都・目黒区立上目黒小学校)に、子どもたちが主体的に書く学習に取り組めるための工夫をご提案していただきました。 書くことに苦手意識をもつ子どもにとってハードルが高い「新聞づくり」単元を、「オリジナル話型」を活用した話し合い活動を取り入れることで、相手意識、書く目的を自覚することにつながり、意欲的な取り組みにつながります。
今回は笠原冬星先生(大阪府・寝屋川市立三井小学校)に、説明文の4つの基本構造をはじめに押さえ、平成27年度版と令和2・6年度版の本教材を読み比べることで、説明文の構造がどのように変化したのか、それぞれにどのようなよさがあるのか、について気づける授業づくりの工夫をご提案いただきました。