「要約」の指導 -何のために(目的)、どうやって(方法)-
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執筆者: 溝越 勇太
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単元名:地域の伝統工芸のよさを伝えよう 教材:「世界にほこる和紙」(光村図書/4年下)
「世界にほこる和紙」の授業づくりを紹介します。本教材は、和紙を作る日本の伝統的な技術について、写真とともに複数の事例をあげながら、分かりやすく説明されています。
今回は、溝越勇太先生(東京都日野市立日野第七小学校)に、本単元のねらいである「要約」の目的と方法を子どもたちが学びを通して自覚し、積極的に取り組める授業づくりについてご提案いただきました。
「先生、今日の国語の授業何やるの?」こんな質問を子どもにされることがある。
教師になって数年は、こんな質問をされると「お、国語の授業を楽しみにしてくれているのかな」「学ぶことに前向きになってきたな」と少し嬉しい気持ちになっていた。しかし、よくよく考えてみると「今日の国語、何やるの?」は、受け身の学習になってはいないだろうか。少なくとも私たち教師が育てたい「自ら学考え、学び続ける子」の姿ではないように思う。
では、なぜ、受け身の学習になってしまうのか。それは、きっと「何のために」(目的)と「どうやって」(方法)があいまいだからなのではないだろうか。
本単元は、中心となる語や文を捉えて文章を要約する学習である。子どもが「何のために」要約するのか、「どうやって」中心となる語や文を見つければいいのかを自覚しながら学べるようにすることが必要である。
私たちは、普段の生活でどんな時に説明文を読み、どんな時に要約をするだろうか。おそらく、新しい電化製品を買ったから説明書を読んだり、ゴルフが上達したいからゴルフのレッスンの説明を読んだりするだろう。このように、「知っていることもあるが、知らないこともある」というときに、知りたい情報が出てきて、説明文(説明書など)を読む、ということが多い。
本単元の導入では、日本の伝統工芸に対する関心を高めてから教材文と出会わせたい。そのために、地域の伝統工芸品を実際に見せたり、子どもの伝統工芸に関する既有知識を交流させたりする活動を行い、意欲付けを行う。
また、「世界にほこる和紙」の学習では、筆者の伝えたいことや説明の工夫など、書き手の意図に着目しながら読み進め、要約することに重点を置く。「中心となる語や文を見つけましょう」ではなく、「中心となる語や文の見つけ方」を明示的に指導し、自力で要約ができるようにしていきたい。授業の終末では、読み方として学習用語を整理したり、その時間に分かったことや考えたことを振り返りとして書かせるなどして、学びを自覚化できるようにしていく。
本教材は、多くの人に和紙のよさを知ってもらい、使ってほしいという筆者の思いが書かれた文章である。
文章の構成は双括型で、「はじめ」と「終わり」で筆者の和紙に対する思いが述べられている。「中」では、和紙のよさが複数の事例を挙げて詳しく説明されている。洋紙と比較しながら述べられていることや、複数の事例を挙げて説明していることのよさに子どもが気付けるようにしたい。教材文の中では、複数の写真が使われており、本文を補ったり、本文で述べられていることの具体的な様子を示したりしている。本文と照らし合わせながら写真を見ることで、説明されている内容の理解を深めさせたい。
単元の後半で、地域の伝統工芸を保護者や他学年、または他の地域に住む小学生などに紹介するという学習活動を設定し、要約する必然性をもたせたい。要約については、1学期にも学習しているが、ここでは、目的を意識して要約し、力の定着を図っていく。地域の伝統工芸について調べて分かったことをまとめる活動では、百科事典や関連書籍を読む必然性が生まれる。目的を意識して読書をすることができるようにしたい。
〔知識及び技能〕
幅広く読書に親しみ、読書が、必要な知識や情報を得ることに役立つことに気付くことができる。 ⑶オ
〔思考力、判断力、表現力等〕
目的を意識して、中心となる語や文を見つけて要約することができる。 Cウ
〔学びに向かう力、人間性等〕
進んで中心となる語や文を見つけて要約しようとする。
第一次 | 伝統工芸について知る。(第1時) |
地域の伝統工芸品について知り、ガイドブックを作ることを目的とすることで、学習の見通しをもつ。 | |
第二次 | 「世界にほこる和紙」を要約する。(第2~6時) |
中心となる語や文の見つけ方を知り、本文を要約する。 | |
第三次 | 地域の伝統工芸について調べ、ガイドブックにまとめる。(第7時) |
「世界にほこる和紙」で学んだ要約の仕方を生かして、自分の興味のある伝統工芸品についてガイドブックにまとめる。 |
段落の大切な言葉や文について話し合うことを通して、中心となる語や文の見つけ方に気付き、「はじめ」の段落を要約することができる。
要約をするために大切なことは、大きく分けて2つある。
1つ目は、要約する「目的」である。 教師の「よくない例」(要約がされていないガイドブック)を見せることで、要約する必要感をもたせたい。
2つ目は、要約するのに必要な中心となる語や文を見つける「方法」である。
ただ、「中心となる語や文を見つけましょう」だけでは、国語の得意な子だけがなんとなく選べるだけになってしまう。大事な語や文を選ぶポイントを明示的に指導していく。
「先生の作ったガイドブック、どうかな?」
この単元のゴールで、地域の伝統工芸についてガイドブックを作ることを確認する。教師が作った要約していないガイドブック(悪い例)を子どもたちに提示する。子どもたちから、「字が多すぎて見たくならない」「何が大切なのかまとめた方がいい」という言葉を引き出したい。要約する目的について話し合うことで、要約するよさや必然性に気付かせたい。
「1段落の4つの文で一番大事な文は? どうして?」
1段落を音読し、中心文だと思う文とその理由について話し合う。1段落には4つの文があるので、それらを1枚ずつのセンテンスカードにして掲示する。センテンスカードに記号を付けておくと話し合い活動が活性化しやすい。「題名と似ている」「文章の話題になっている」「繰り返し同じことを説明している」「終わりでも同じようなことを言っている」「ここは具体的すぎるから違う」など、子どもの発言から中心文を選ぶ観点も板書していく。
「2段落の3つの文で一番大事な文は? どうして?」
2段落を音読し、中心文だと思う文とその理由について話し合う。1段落の話し合いを参考に(モデリング)、自分で考える時間を確保する。1人で考えたい子、友達と考えたい子、教師と一緒に考えたい子など、学び方も選択できるようにしておく。教師と一緒に考えたい子には、中心文⇒大事な言葉という順序で問い返しを行う。
「筆者の考えが書かれている」「中の段落と関係している」「中のまとめになっている」など、子どもの発言から中心文を選ぶ観点を板書していく。
「『はじめ』の段落で中心となる語や文を見つけるポイントは? 『はじめ』を60字でまとめてごらん」
「はじめ」の段落の中心となる語や文を見つけるポイントをまとめる。次の時間以降は「中」や「終わり」の段落を要約していくことになるので、そのときにも使えるよう、ポイントを「○」と「△」で明示的に指導する。
「はじめ」の段落を60字以内で要約することを本時のまとめとする。この教材では初めて要約をするので、60字と少し余裕をもたせた字数にする。「もっと短く要約できるかな?」と促すと子どもが意欲的に要約するようになる。
『はじめ』の段落で中心となる語や文を見つけるポイント
◯話題 ◯題名 ◯くり返し出てくる ◯「終わり」や「中」との関係 ◯まとめ ◯筆者の考え △具体的 △話題の説明
「この学習は要約をしますよ」「大切な言葉を選んで文章を短くしましょう」と伝えて要約ができるのは、国語が得意な一部の子だけである。要約をする目的や要約することのよさを自覚できるようにし、必然性がある学びにしたい。
また、友達と学び合う中で、大切な文や言葉の選び方、選ぶ観点に子ども自身が気付けるようにし、要約の方法が分かるようにしたい。
〔引用・参考文献〕
田村学(2018)『深い学び』東洋館出版社
奈須正裕(2017)『「資質・能力」と学びのメカニズム』東洋館出版社
奈須正裕(2022)『個別最適な学びの足場を組む。』教育開発研究所
桂聖(2011)『国語授業のユニバーサルデザイン』東洋館出版社
白石範孝(2006)『要点・要約・要旨の基礎的学習で読解力を育てる』学事出版
全国国語授業研究会、筑波大学附属小学校国語研究部編著『小学校国語「深い学び」をうむ授業改善プラン〈説明文〉』東洋館出版社
溝越 勇太(みぞごし・ゆうた)
東京都日野市立日野第七小学校
全国国語授業研究会理事/日本授業UD学会理事
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