教材の特性を、朗読に生かせるように!
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執筆者: 安達 真理子
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今回は安達真理子先生(神奈川県・カリタス小学校)に、本年度から登場した新教材「さなぎたちの教室」(東京書籍・6学年)の、単元化のポイントや授業づくりの工夫について、ご提案していただきました。
等身大の女の子の一人称で語られる叙述から、登場人物の人物像とその関係を丁寧にとらえることで、朗読で押さえたいポイントが見えてきます。
6年生4月教材に相応しい、初々しく爽やかな物語である。
登場人物は「わたし(谷さん)」・松田君・高月さんの3人。現代の子どもらしい思春期の繊細さをもち、クラス替え直後の多少臆病で不安定な女の子2人と、対照的に真っ直ぐに思いを伝える天真爛漫な男の子1人。それぞれが、それぞれの脱皮(成長)を待つ「さなぎたち」である。アゲハチョウの羽化という出来事は、3人の脱皮(成長)を導き出し、後押しする。
学習者と同じ、新学年度の6年生が繰り広げる物語は、共感度が高い。そのため、登場人物の人物像が分かる叙述を抽出し、人物同士の関係性を考え、心情の変化を読み取る活動を展開しやすい。
また、心情を映し出す情景描写が効果的で、等身大の3人がどんな場面でどんな心理状況にあったのか、豊かに想像することができる。
叙述に描出されている人物像を拾い上げると、以下のようになる。
「わたし」(中心人物)
クラス替え後、何人か友達ができるが、ときどきすうすうと寒いような心持ちで、授業が始まって着席すると1人になったようで落ち着く。目を包む涙の膜から、世界と自分の間に透明な膜があり、自分の全部をやさしく包んでくれていると想像する。しかし、こんなことを言うと敬遠されるかもしれないと気にする。
松田君
アゲハを羽化させると宣言して、何匹ものいも虫を教室に持ち込み、カタツムリの糞の色を「かわいい」と表現する。
「わたし」に対して、「さなぎの中ではものすごい変革が行われるんだよ。自分を一度全部ぶっこわして作り変えちゃうみたいな。(後略)」と言う。さなぎたちに向かっては「いつか空を飛ぶんだもんな。がんばれよな。」とつぶやく。
高月さん
持久走の練習で「谷さん、ペアになってくれないかな。」と穏やかな声でそっと誘う。
「わたし」がした目を包む膜の話に応じて、「シールドみたいな感じかな。」「敵から守ってくれるやつ。(後略)」と想像を語る。しかし途中で、変なことを言ってないかと気にする。
3年生の頃昇降口でランドセルをひっくり返したとき、「わたし」だけが助けてくれたことをずっと覚えている。
「わたし」と松田君
じゃんけんで生き物係になったが、胴体だけで動く生き物が苦手な「わたし」。
一方、アゲハを羽化させると宣言していも虫を教室に持ち込む、生き物好きの松田君。 懸命に「わたし」を誘い、せっせと生き物の世話する松田君に、「わたし」は知らん顔もできずに手伝うようになる。
持久走練習後、松田君は涼しい顔で手を振り、「谷さあん。」「さなぎからだっ皮したよ。羽化したよう。」と伝えてくる。松田君は、「最初にちょうになったやつは谷さんにあげる」と勝手に約束を取り決めていた。松田君の生き物好きと、ストレートな感情表現によって、「わたし」はさなぎが成虫になって空を飛ぶことをうれしく感じられるようになっていく。
「わたし」と高月さん
2人とも、他人からの視線が気になる思春期の女の子。想像力の豊かさをもっているが、それを口にすると敬遠されないかと心配になる。
持久走練習の際、3年生の頃ランドセルの中身をひっくり返したときに、「わたし」だけは拾ってくれたことを覚えていると伝えた高月さん。少し照れたような笑顔を向けたが、そのときの「わたし」は答える余裕がないほど走ることに必死だった。すると高月さんから笑顔が消え「覚えてないよね。何かごめんね。」と言って少し前に走り出た。ちゃんと伝えなくてはと、「わたし」は空気を胸いっぱいに吸い込むと、思いがけず大きな声が出た。「覚えているよ。忘れてないよ。」
いよいよさなぎが成虫になって空を飛ぶ瞬間、「わたし」は高月さんとも一緒にいたいと思った。
「わたし」の変容
松田君がもたらした前向きな空気感と、アゲハチョウの羽化という感動的な出来事が、「わたし」の心を動かし、同時に、高月さんが「わたし」に語った3年前のエピソードがきっかけとなって、大きな声で思いを伝えるという開放的で躍動的な行動を、「わたし」に引き起こした。
朗読で表現するという目標に向かって、人物像をとらえる活動を設定する。会話文の読み方を工夫して、「わたし」、松田君、高月さんらしさが伝わるように朗読すれば、各人物の個性や性格への理解が深まるだろう。
例えば、以下の台詞をどのように朗読するか、考えたい。
「わたし」
「あのね、松田君。じゃんけんで生き物係になっちゃったけど、わたし、いも虫とかミミズとかカタツムリとか、どう体だけで移動する生き物が、ちょっと苦手みたいな気がするの。」
⇒どんなスピード、どんな声の高さ、どんな調子(明暗など)で読む?
松田君
「谷さん、さなぎの中ではものすごい変革が行われるんだよ。自分を一度全部ぶっこわして作り変えちゃうみたいな。だから、成虫になるとちゅうのさなぎの中身なんて、何が何だか分かんない状態なんだよ。」
⇒どんな大きさ、どんな強さや勢いで読む?
高月さん
①「ちこくしそうでみんな行っちゃったのに、谷さんだけは拾ってくれたんだよ。助けてくれたんだよ。わたし、ずっと覚えてた。」
②「覚えてないよね。何かごめんね。」
⇒①少し照れたような笑顔と②笑顔が消えた後の違いを、朗読でどう表現する?
登場人物3人の関係性を表すには、どのような形がよいかを考えさせたい。
モデルとして図1を提示した場合、「わたし」と松田君、「わたし」と高月さんとの間には書き込める要素があるが、松田君と高月さんの間には何も書けないはずである。
そこで、「わたし」が松田君、高月さんとの関わりの中で変容する物語であることを確かめられる。
図2を示した場合、真ん中の「?」には、どんな言葉が入れられるかを考えることで、共通するテーマを探究できるだろう。関係図にはキーワードを書き添え、それを伝えるためにはどのように朗読したらよいかを考えたい。そして、その朗読を聴き合いたい。
<知識及び技能>
・比喩や反復などの表現の工夫に気付くことができる。(1)ク
・文章を音読したり朗読したりすることができる。(1)ケ
<思考力、判断力、表現力等>
・登場人物の気持ちの変化や性格、情景について、場面の移り変わりと結び付けて具体的 に想像することができる。Cエ
<学びに向かう力、人間性等>
・言葉がもつよさに気付くとともに、幅広く読書をし、国語を大切にして、思いや考えを伝え合おうとする。
第一次 | 物語の魅力を導き出し、伝え合う(第1時) |
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第二次 | とらえたことが聞き手に伝わるように朗読で表現する(第2~4時) |
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第三次 | 主題をとらえて朗読する(第5時) |
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第一教材であり、また配当時間が5時間と限られているため、あまり重量感をもたせず、朗読の工夫を通して物語を味わうことが好きになれるような単元にしたい。朗読する声には読者の解釈が表れるため、その違いから学び合うことができればよい。
「松田君のうれしそうな気持ちが伝わるように、明るく元気に読みたいね」
「この場面で高月さんは、とまどいながらゆっくり言っていたのではないかな・・・」
など、朗読を通して読み深められるように促したい。
人物像を全体で確認し、登場人物の個性や性格をどう表現するか、3人グループ(3人の人物を分担)または4人グループ(3人と地の文を分担)で、朗読の仕方の検討を行う。
朗読は声に出して表現する身体活動のため、主体的で対話的な学習姿勢を喚起する国語の授業開きに相応しい。この教材の学習を通して、1年間の物語単元において、解釈の違いを基に深掘りしながら、積極的で協働的な授業の空気を生み出していけることを期待している。
安達真理子(あだち・まりこ)
神奈川県・カリタス小学校教諭
全国国語授業研究会常任理事/東京国語教育探究の会副代表/東京書籍小学校国語教科書編集委員/前日本私立小学校連合会国語部会全国委員長/全国大学国語教育学会会員/日本国語教育学会会員
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