
単元を通して継続したい「問い」の意識 -2年・「お手紙」「どうぶつ園のじゅうい」の実践から-
|
執筆者: 佐藤 亜耶
|
今回の5分でわかるシリーズは、子どもたちに単元を通して継続して意識することのできる問いの工夫について、佐藤亜耶先生(福島県・白河市立白河第二小学校)に提案していただきます。叙述に基づいて、子どもたち自身が問いの根拠を見つけ、考えることは国語の学習において大切なことです。2年生の「お手紙」「どうぶつ園のじゅうい」の教材を例に、授業においての「問い」づくりを一緒に考えていきましょう。
「○○って何だろう」 「どうして○○なのかな」 授業開始とともに意欲的に考え始める子どもたち……。しかし、授業終盤になるにつれて考えを書いていた手が止まり、発言が減っていく。私は、何度もこのような経験をしてきた。どうしたら、単元を通して、子どもたちの問いの意識を継続させることができるのだろうか。
「問いの意識」をもたせるためには、子どもたちが「知りたい」「考えたい」と思える問いを立てるということが重要である。それは、問いが学びの原動力となるからだ。そのために私が心掛けているのは、子どもたちの疑問を中心に問いを立てること、そして問いの意識を継続し、立ち返るために子どもたちの思考を揺さぶる発問を単元に入れ込んでいくことである。
私が、低学年に国語を教える上で大切にしていることは、叙述に基づいた読み方を学習することである。「どこに書いてある?」「証拠の文は?」と問いかけたときに、子どもたちが自分で根拠を見つけ伝えられるような力を付けたいと思っている。その力を身に付けさせながら、問いの意識を継続させるために、以下の流れを意識している。
A) 教師がこれからの問いにつながりそうな視点を与え、初発の感想を書かせること
B) 初発の感想から、学習を進める中で子どもたちから出てきた問いを生かすこと
C) 固まってきた子どもたちの考えを揺さぶる発問をすること
ここでは、2つの実践を紹介する。
A)「かえるくんとがまくん、どちらが好きかな?」
初発の感想では、登場人物であるかえるくんとがまくん、2人のどちらが好きかを考えさせた。好きな理由を考えさせることによって、必然的に登場人物がどんな行動をしているか、どんな人物なのかということを叙述から考えることになる。
また、単元の最後に好きな登場人物に手紙を書くという言語活動を取り入れたため、初読と学習後の人物への捉えの変化を見取ることができた。
B),C)「どうしてかたつむりくんにお手紙を届けてもらうように頼んだのかな?
それは結果としてよかったのかな?」
かえるくんが急いでお手紙を書く場面。ここで、お手紙を届けてほしいと頼んだ相手はかたつむりくん。ある男の子が、「どうしてかたつむりくんに頼んだのかな」とつぶやいた。それをきっかけに、「なんで~!」「かたつむりくん、遅いじゃん」と意見する子どもたち。はじめの段階で、「かえるくんが直接渡した方がよい」と思う子どもが5名、残り24名が「かたつむりくんに渡した方がよい」と考えていた。
話し合いの中で、前者はかたつむりくんの「足の遅さ」について言及する意見が多くあった。そこで、「かたつむりくんに頼んだことは、よかったのかな?」と問いかけた。すると、後者の「かえるくんが直接渡したら、お手紙を待つ時間がなくなって、結局、お手紙を待つ時間は楽しみではなくなってしまう」「ポストに届くからお手紙っぽい」などの意見に納得する様子も見られた。最後の場面とつなげ、「この後4日間、2人は仲よく待てたから、さらに仲よしになれたと思う」とかたつむりくんのおかげで2人の関係もさらによくなったと考える意見も挙がった。
発問に対する具体的想像「2人は、どんな4日間を過ごしたのかな?」
最後に、がまくんとかえるくんは、一緒にお手紙を待っていた4日間をどう過ごしたのかを話し合った。かえるくんから手紙が届くことを知り、一場面とは一変して手紙を待つ時間が楽しみになったがまくんの様子から、吹き出し(かえるくんとがまくんの気持ちを、ノートに貼った挿絵に書き込む)の内容もポジティブに変化した。
「絶対来るから大丈夫」「ゆっくり遊びながら待とうよ」など、待つ余裕をもてるような会話をしている子どもが多く見られた。
手紙を待つがまくんとかえるくん。はじめ、がまくんはネガティブ(左)だが、
手紙が来ることを知り、ポジティブに変化している(右)。
A)「じゅういさんの仕事で驚いたことや初めて知ったことはあったかな?」
初発の感想を書くときの視点を与えることにより、獣医さんの仕事内容について目を向けることとなる。また、それぞれの仕事についてどんな出来事が起こったのかの大体についての理解を見取ることができた。「にほんざるは、薬にすぐに気付いていてかしこい」「日記を書いている理由は違うけれど、自分たちと同じだった」など、仕事について自分の考えを書くことができていた。中でも、にほんざるについて「大変そう」との考えが多く書いてあった。
「薬を一度で飲んでくれなかった」「何度も試さなければならなかった」などの理由 から、大変な仕事は「にほんざるに薬を飲ませる仕事」との考えが多かった。
B)「じゅういさんの仕事の中で、一番大変な仕事は何かな?」
「大変そう」との感想が多くあがったため、「じゅういさんの一番大変な仕事は?」と問いかけた。大変な仕事を確かめるためには、仕事はいくつあるのかを考え、それぞれの段落に書かれていることを読み取り、大変さを比べる必要性が出てくる。比較して読むことで、1段落と9段落は仕事の内容は書かれていないことや、2~8段落にはそれぞれに時を表す言葉が使われているということにも目を向けることができた。
クラスの大変な仕事ランキングでは、1位にほんざる、2位ワラビー、3位ペンギンという結果となった。読み進めていくうちに、「命の危険と緊急性があるから、ペンギンが1位なのでは?」という考えが浸透した。
C)「じゅういさんが一番大変な仕事は、ペンギンの仕事?」
こう問いかけたことで、もう一度教科書を読み直す子どもたち。「1日の仕事を、じゅういさんになりきってやってみたら分かるかも」と、物語文で気持ちを考えるときによく使う「動作化」を活用して確かめることとなった。
すると、「朝の見回り」の段落で、「先生、見回りって、動物園の中全部するの?」「動物園、広いよ」「あ、だから自転車を使うんじゃない?」「これ、毎日するって!」「え、なんで分かるの?」「だって、『毎日、おはようと言いながら……』って書いてあるよ」「えー!」「じゃあ1番大変なの、見回りかも」と考えの変容が見られた。「ほかにも、日記とかお風呂も毎日だ」と、毎日する仕事とその日だけする仕事を分けて考えることで、獣医さんにとって一番大変な仕事を再考することができた。
初発の感想から、深く読み進めていくことで、どんどん変化していく考え。
最終的に、見回りが一番大変な仕事と考える子どもが一番多くなった。
「問いの意識」をもたせることで、子どもたちの思考が一気に動き出す。
子どもたちの初発の感想やつぶやきを大切にしながら、 気づけなかった部分については教師がそれを引き出す 発問をすることによって、一緒に授業を創っていきたい。
〔引用・参考文献〕
白坂洋一(2021)『子どもの思考が動き出す 国語授業4つの発問』東洋館出版社
佐藤 亜耶(さとう・あや)
福島県・白河市立白河第二小学校
有料記事
本教材「たんぽぽ」について、後藤竜也先生(東京都・調布市立八雲台小学校)に、子どもたちが楽しいと思う、たんぽぽについての内容を大切にしながらも、時間や順序に関する書かれ方に気づけるよう、たんぽぽの特徴への関心から考えが広がっていくようにする、授業づくりについてご提案いただきました。
有料記事
今回は中野裕己先生(新潟大学附属新潟小学校)に、子どもたちが本教材を読んだとき、どのように感じ、考えるのかを想定した教材研究を行い、自分なりの考えで文章の構造を捉えられるようにするための、ファシリテートの方法についてご提案いただきました。
有料記事
本教材「紙ひこうき、きみへ」は、しまりすのキリリが経験する、旅を楽しむみけりすミークとの出会いと別れ、変わりゆくことを受け入れたどこか達観した彼の言動について、キリリの気持ちを想像しながら本文を読むことを通して、読者も心揺さぶられる物語となっています。 今回は山本真司先生(南山大学附属小学校)に、作品世界について想像し、自分なりの解釈を形成できるよう、他者との交流を通して、場面ごとの精査・解釈を共有し深める授業づくりをご提案いただきました。
有料記事
変化の激しい現代の社会、これから子どもたちが生きていく予測困難な時代においては、知識や技能だけでは到底太刀打ちできない。答えのない問題を解決するためには、知識を集め、技能を活用し、学び、想像し、戦略を立て、多面的に物事を見て、批判的に思考し、よりよく判断する、などといった「知性」が必要であろう。 このような知性は、教師が教え込むことができない。言い換えると、授業が教室の中だけで完結してしまっては育たない。教室で学んだ国語の学びを、答えのない問題であふれる実際の地域社会へ出て、誰かのため、社会のために、試行錯誤しながら実際に「使う」。 そんな経験をしてこそ、知性は育まれるのではないかと考える。
有料記事
たとえ教科書の順番通りに授業を行うとしても、教材ごとに最初の出合い方を一工夫するだけで、子どもたちの「読みたい!」「知りたい!」「なんでだろう?」という教材に向かう姿勢は変わってきます。 今回は、迎有果先生(筑波大学附属小学部)に、主体的な読みにつながるための教材との出会い方を回答いただきました。