
5分で分かる指導技術|形式的な学習形態ではない「ペア対話」のスキル
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執筆者: 大江 雅之
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今月の「5分で分かるシリーズ」は、形式的な学習形態ではない「ペア対話」のスキルについて学びます。話し合いの場面で「とりあえずペア対話」になってしまう、ペア対話での話し合いが活発にならないなど、悩む先生方も多いのではないでしょうか。大江雅之先生(八戸市立中居林小学校教頭)には、ペア対話の基本から、効果的な取り入れ方など、国語授業に欠かせない「生きたペア対話」を目指すコツについてご紹介いただきました。
「とりあえずビール!」という居酒屋でのお決まりの発声がありますよね。それと同様に、授業の中で「とりあえずペア対話!」という風潮が見られないでしょうか。授業の中での「ペア対話」は、かなり高い頻度で取り入れられるようになってきました。しかし、ただペアでの話し合いを取り入れ、形式的な学習形態のみに陥っている場合も多いように思われます。そこで今回は、「ペア対話」をテーマに、形式的な学習形態ではない「生きたペア対話」について考えてみたいと思います。
ペア対話での座席のパターンは2通りです。隣同士で考えや意見を交流させる場合は、机は動かさず椅子を逆の「ハ」の字にして体を向き合わせ話し合わせます。気軽に、1時間に1回は、1日に何回かは実施したいものです。隣同士で考えや意見をまとめる場合は、机を向かい合わせて話し合わせます。ペアで思考を働かせ、何かを生み出さなければならないという学習の特別感が生まれます。
ペア対話を指示すると子どもたちがさっと動き出し、粛々と話し合いを進めていく、鍛えられた学級を目にします。
ただ、それは鍛えられた学級であって、一朝一夕には辿り着けない領域です。ペア対話の前に大切なことは、一人ひとりに自分の考えや意見をもたせる時間をとることです。その時間がなくペア対話に突入することは、動き出せないペアをつくってしまう要因になります。
実際のペア対話を進める際に、子どもたちに意識させるルールは次の4つです。
ペア対話ですから、どちらか一方のみが話すことはよくないことを伝えます。だんまり時間をつくらないように、協力して話し合い続けることを前提にします。ただ、だんまり時間をつくらないことは、大人同士でもとても難しいことです。ですから、難しい事に取り組んでいることもきちんと伝えます。だんまり時間をつくらないことができたら、大いに認めるようにします。
低学年では、2人のおしゃべりからスタートさせます。テーマに沿ったおしゃべりが十分にできるようになったら話型を取り入れていきます。高学年では、話型を活用した話し合いを行います。話し合いが停滞し始めたら、テーマに沿った話型にとらわれないおしゃべりをさせるようにします。話型とおしゃべりを行き来するペア対話を目指します。大切なことは、だんまり時間をつくらないように協力し合うことです。
例:「わたしは□□だと思います。そのわけ (理由)は・・・・・・だからです」という話型
ペア対話が終わったら、互いに今の時間がどうだったかを一言で評価させます。さらっとした短い時間で構いません。「交流」や「考えの集約」が目的ではありますが、同時にペアでの話し合いのスキル向上も目指しているはずです。この「さらっと評価」の積み重ねが、ペア対話の上達につながっていきます。
ペア対話後は、さらに多くの人数での学習場面に移行していきます。ペア対話で出会えたよい考えや意見は、学級全体に伝えるようにさせます。ペアの相手は、出会えたよい考えや意見を学級全体につなげる役割を担っていることを意識させます。教師は、ペアから学級全体につなげてくれたことを大いに褒めるようにします。
ルールのほかにも大切な事項があります。それは、教師がペア対話の内容を「見取る」ことです。ペア対話の内容を何かしらの表現物に表す場合は、把握することが可能ですが、表現物に表さない場合がペア対話の大半だと思います。そして、授業はペア対話で終わらずさらに多くの人数での学習に発展していくことも事実です。つまり、ペア対話の内容を把握していることが次の学習活動のコーディネートに大きく作用することになります。
そうであるのに、ペア対話を指示した後、「見取る」ことせずに教師が次の学習活動に思いを馳せている授業を見かけます。アンテナをはり、どのような話し合いがなされているかを見取る努力をします。机間巡視をしながら、つぶやきがアンテナに引っかかってくるように集中する時間になります。次の学習活動に思いを馳せている間に、つぶやきはつぶやきのままで終わってしまうことも少なくないのです。
では、どんな時にペア対話を行えばよいのでしょう。なんでもかんでも「とりあえずペア対話!」では、何を話し合ったらよいのか分からずに空中分解することになります。ペア対話が効果的な場合について言及したいと思います。
授業の柱となる、主要な発問について考えさせる場合は、ペア対話が有効に作用します。この場合は、ペア対話の前に自分の考えをノートに書かせるようにするとよいでしょう。できれば、考えの理由や根拠も書かせます。理由や根拠が明確になっていると、話し合いの内容が深まります。
また、主要な発問が次のどの課題に属するのかを教師が捉えていることも大切です。
これらの捉えができていれば、ペア対話がその後の学習活動に有効に働く可能性が高いと考えられます。
子どもの考えを知って展開に生かしたいとき、授業展開の突破口が必要なときなど、純粋な子どものつぶやきがほしい場合があります。その際は、逡巡せずに迷わずペア対話を導入します。ペアの友達に話しているつぶやきを拾って、その後の展開へとつなげていきます。一連の流れのアクセントにもなります。
ペアによる対話には、相手に向かって話すことで自分の考えを明確にする作用があります。子どもが「自分の考えを確かめたい」という気持ちをどのような段階でもっているのかが大切ですが、おおよそ次の段階に集約されます。
話し合いが必要だと子ども自らが感じたときに、ペア対話が成立します。教師には、子どもの考えのもち方や、子どもの心理状況を感得できるアンテナが必要になります。
筆談でペア対話をしよう
高学年向けのペア対話です。前述の「主要な発問について考えさせる場合」の取り組みです。いつもは本稿のペア対話のルールに沿って対話を行い、自分の考えを明確にしていきますが、機会を見て筆談で考えを交流していきます。
非日常のペア対話になるため、子どもたちは意欲的に活動に取り組みます。日頃のペア対話がどのくらいのレベルで行われているかが可視化されるため、定期的に行うことで活動の見直しや改善につなげることができます。
「ペア対話」は、授業におけるメインではないかもしれません。しかし、メインへと繋ぐ重要な役割を担っています。「とりあえずペア対話!」と言うような形式的な学習形態ではない「生きたペア対話」を、目の前の子どもたちとともに創造していきましょう。
大江 雅之(おおえ・まさゆき)
八戸市立中居林小学校教頭
全国国語授業研究会顧問/国語「夢」塾
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