5分で分かる 学習者の思考を叙述へと誘う挿絵の活用法
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執筆者: 木𠩤 陽子
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今月の5分で分かるシリーズは、木𠩤先生(山口県・長門市立仙崎小学校)に、物語文の学習でよく行われる挿絵を並び替える学習活動をあらためて問い直し、充実した活動になるコツを紹介していただきました。
ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ(VTS)といった教育プログラムを導入することで、子どもたちが挿絵を観て、対話を通して物語を想像し、ワクワクしながら自分なりの解釈と読みをもつことにつながります。
「挿絵をお話の順に並べ替えましょう」
単元の導入部分でよく見られる一場面である。
物語文の授業では、挿絵を活用した指導例や実践が多く見られる。挿絵の活用で多いのは、「①物語の範読を聞く → ②挿絵を並べ替える」という流れである。
挿絵を活用することは、教師にとって、学習者の物語に対する興味関心を高め、想像を広げることができるよさがある。学習者にとっては、クイズ感覚で楽しい活動なので意欲的に取り組むことができる。 いいことづくしの活動のように見えるが、1つの疑念がどうしてもぬぐうことができない。
「①物語の範読を聞く → ②挿絵を並べ替える」という学習過程において、学習者は、叙述と挿絵とのつながりをしっかり意識できているのだろうか。
挿絵を活用することのよさを生かし、学習者の思考を叙述へと誘うために、ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ(VTS)を、国語科授業に取り入れる。
VTSとは、1990年代にニューヨーク近代美術館(MoMA)の教育部部長であったフィリップ・ヤノウィンが開発した教育プログラムのことである。アートを通じて、鑑賞者(学習者)の「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成することを目的としている。
以下は、VTSの基本ステップをまとめたものである。
ここでのファシリテーターとは、対話の場において、鑑賞者の発言に耳を傾け、言い換えることで共通理解を促したり、他の発言とつなげたりして、話し合いを円滑に進める役割を担う人のことである。
VTSで注目すべきことは、鑑賞者が「知っていることをいかに活用するか」に着目している点である。この点は、国語科授業において、自分の経験や既有知識と比較しながら読むことと通じている。
VTSのステップを、ファシリテーターを「教師」、鑑賞者を「学習者」に置き換えて構想してみる。学習者が、挿絵に描かれている事実に着目し、自分自身の経験や既有知識と比較して考えることで、「自分が知っている○○はこうなのに、この絵では、なぜこのように描かれているのだろうか」という問いが生まれる。
学習者の思考が動き出したところで、物語を読む。学習者は、自分が解釈したことと叙述とのずれに気付くだろう。そして、「なぜこのような表現になっているのか」という新たな問いが出てきて読みが深まっていく。そこには、もちろん他者との対話も必要となってくる。
ここで、重要になってくるのが、ファシリテーターとしての教師の 存在である。対話を促す3つの問いかけをしながら、学習者から解釈を引き出すことだ。
以上のことから、VTSを物語の導入部に取り入れることで、問い続ける学習者の育成が可能ではないかと考え、「①挿絵を鑑賞する → ②物語の範読を聞く」という流れによる物語を読む授業を提案したい。
VTSを取り入れた授業アイデアの具体として、5年物語文「大造じいさんとガン」の導入部分の実践を示す。
ここで取り扱った挿絵は、水上みのりさんによるものである。
この実践を行った際に、挿絵について光村図書に問い合わせたところ、挿絵場面の指定はあるが、どんな絵になるかは作家の方に任されているとのことであった。つまり、この挿絵は、水上さんの一読者としての読みが表現されたものと言えよう。子どもたちと挿絵との出会いは、いわば、他者の読みとの最初の出会いでもある。
まず、黒板や教室の壁に8枚の挿絵を掲示し、子どもたちに自由に鑑賞させた(第1次第1時)。
その後、子どもたちを黒板の前に集め、「この挿絵の中で、何が起こっていますか」と問いかけた。子どもたちからは、「白いひげのおじいさんがいる」「鳥がつかまっている」「おじいさんが気付いて近寄っている。うれしそう」「朝か夕方」「もうひとり人がいそう」「季節が変わった」といった意見が出てきた。
(※)この段階では、まだ本文を読んでいないので、子どもたちは、回想部分の大造じいさんも「おじいさん」と解釈して、このように発言している。物語の範読後、きちんと確認している。
次に、「挿絵のどこからそう思ったの」と尋ねた。
例えば、「おじいさんが気付いて近寄っている。うれしそう」という気付きを取り上げてみよう。「うれしそう」というのは、子どもの解釈である。なぜそう思ったのかを問うと、「おじいさんの口が笑っているから。うれしい時って笑うから」と答えた。他の子からは、「なんで、うれしいんかね?」と新たな問いも生まれてきた。
その後、物語を読み、「自分のイメージとどこが違いましたか」と問いかけた(第1次第2時)。
「鳥を捕まえてうれしかったのは合っていたけど、簡単に捕まえたわけじゃなかった」「うまくいった、やった! という気持ちです」という読みが出てきた。子どもたちは、自分の解釈と叙述とを結びつけ、ずれを見つけてその理由を考えることで、読みを再構築していった。
本時の板書例は、以下の通りである。
今回は、挿絵のよさを活用し、学習者の思考を叙述へと誘う授業アイデアを示した。
今まで当たり前にやってきたことを少しだけ変えた手立てを取り入れることで、学習者の学びが大きく変わっていく。教師も学習者も共に学んでいける、そんな授業をこれからも目指していきたい。
木𠩤 陽子(きはら・ようこ)
山口県・長門市立仙崎小学校教諭
中国・国語教育探究の会会員/全国大学国語教育学会会員/日本国語教育学会会員
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