5分でわかる授業スキル 読むことの単元づくりと「言語活動」
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執筆者: 山田 秀人
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今月の「5分で分かるシリーズ」は授業スキルをテーマに、「言語活動」について学びます。
国語科の授業に欠かせない「言語活動」を、子どもが自ら「やってみたい」とこれまでの学びを生かして取り組めるように設定するにはどうしたらよいか、悩む先生も多いのではないでしょうか。山田秀人先生(宜野湾市立大山小学校)に、言語活動設定のポイントと具体的な授業アイデアを提案していただきました。
目次
令和2年に全面実施となった学習指導要領の改訂から、各教科の単元・授業づくりにおいて言語活動の充実が進められてきた。これまでに全国各地でたくさんの実践が積み重ねられ、今では膨大な資料や先行研究がある。国語科の読むことにおいても同様だろう。
私自身も実践を重ねてきたが、今一度それらを振り返ってみると、「まずは、第三次に子どもが表現をする言語活動を設定する」という短絡的な単元構想になっていたこともあったと反省する。
単元のイメージとしては概ね下記の表1の流れであった。
第一次 | 第三次の言語活動を設定して、学習の見通しをもつ |
第二次 | 表現するための要素(読むことにおける指導事項)を学ぶ |
第三次 | 各自が表現(言語活動)を行い、交流する |
これだと、一次と三次の間に距離があるため、三次になってやっと「さあ、これまで学習したことを活かして、自分の作品をつくってみよう」と、投げかけたとしても、子どもたちからすると新たな学習の始まりのように感じてしまう。二次で学んだことと、これから始めようとしている三次の学習の《つながり》が十分に理解できないでいるので、「やってみよう」と言われても、何をどう書けばよいのか分からない子が出てしまう。結局、また一から説明し直すような始末である。そのため、予定時数を超過してしまうこともあった。
本稿では、「とりあえず三次に言語活動を設定する」という形骸化してしまいがちな、読むことにおける言語活動について、その在り方を見直して、今後目指すべき国語授業を捉え直してみたい。
言語活動について、私は学習指導要領をもとにして、次のように捉えている。
子ども自身が、単元全体を通して、学習のゴールを意識しながら、そのゴールに向かって、自らのもつ知識及び技能を使って、思考、判断、表現等をする活動のこと
表1で示したように、二次で学び得た〔知識及び技能〕を用いて三次の言語活動を行う。二次で学習したことを三次で活用しようとすること自体は、理想的で重要である。では、どうして「三次から新しい学習になったように感じる」「三次の言語活動が間延びしてしまう」といった悩みが生じるのだろうか。
端的に言えば、二次がインプット(知識及び技能の習得)で、三次がアウトプット(知識及び技能の活用)中心に単元が進められていたからだと考える。子ども側からすると「読むために読む」「書くために書く」と見えてしまい、単元の《つながり》を実感することが難しかったのではないかと分析している。
言語活動を中心に据えて単元を構想したものの、第一次から三次がぶつ切りになってしまうことを打開するには、子どもの表現活動と読むことの往還を意識した授業づくりが必要だと考える。単元のイメージを図1に表してみた
注目すべきは、第二次で言語活動が始点となり、学習内容につながっていることである。このような単元構想を「読むために読む」ことに対して言うならば、「表現するために読む」というイメージである。この着想は、桂(2022)の「作品をつくるために読み直す」の授業提案にヒントを得た。
桂実践(桂聖「子ども自らが言語活動を切り拓く力を育てる」『教育研究』初等教育研究会、2023年2月号)では、「スイミー」(光村図書/2年)において、「スイミーⅡをつくろう」という言語活動を設定していた。子どもは、自分だけの新しい話(スイミーⅡ)をつくりながら、教材を読み直し、物語の構造や効果的な表現技法に着目している。このような、自分なりの作品をつくるという言語活動を《進めながら》教材を読むことで、「インプット(読み)」と「アウトプット(表現)」の往還する学びが生じていると感じた。
※実践の詳細は、当該論稿をご覧いただきたい
ここからは、先述の単元イメージに即した実践例を2つ紹介したい。
3年生「モチモチの木」において「キャラ図鑑をつくろう」という言語活動を設定した。これは、子どもが自分で選んだ本から好きな人物を選び、その人物像をキャラシートに書いて紹介するという活動である。
上の作品がキャラシートである。これは、初読後に時間をとった際に子どもが書いた豆太のキャラシートである。これまでの学習してきた文学の読みを活かしながら自分なりに作品化しようと試みている。
しかし、この時点では性格を表す言葉と行動描写を混同している子や、昼の豆太と夜の豆太が違うように、登場人物には作品全体を通して様々な面があることに気付くに至っていない子も見られた。この後、子どもたちは、自分の作品を加筆・修正しながら「モチモチの木」という作品を読み直していく(図2)。
毎時、豆太のキャラシートに各時間の学びを加筆・修正していく。各々のキャラシートを集約してキャラ図鑑を作るという目的のもとに読むことで、中心人物の人物像や心情の変化に、より注目して読むことができた。さらにその学びを生かして自作のキャラ図鑑作りにも楽しく意欲的に参加することができた。
2つ目に紹介するのは、「大造じいさんとガン」において取り組んだ「推し人物コンテスト」である。高学年になると、休み時間などの日常会話の中で、いわゆる「推しメン」が話題になる。自分の好きなK−POPの歌手を、私にプレゼンしてくれる子が多かった。そこから生まれたのが「推し人物コンテスト」である。
単元を通して「『大造じいさん』と『残雪』だったら、どちらが推し?」というテーマについて話し合う。子どもは自分なりの推しを友達に理解してもらうために、推しの理由を伝えようとする。「推す」という意欲の高まる活動には、自ずと比較する必要も踏まえられるため、そこに文学の読み方、つまり指導内容が活用されるだろうと考えた(図3)。
本実践でも、自分の推し人物について話し合うという言語活動と、その考えを支える理由や根拠を読むことが単元を通して往還されることを意識した。三次では、これまでの学習内容を生かした「推しポスター」を作成し、ポスターセッションを行った。
言語活動は国語科の中核を担っていると言っても過言ではない。冒頭の自省で述べたように、短絡的で形骸化された言語活動では、今求められている「協働的な学びと個別最適な学びの一体的な充実」を実現していくことは難しい。子どもにとって楽しく、言葉の力が身に付く言語活動とは何か。これからも目の前の子どもたちに学びながら、かれらと共に国語授業を創っていきたい。
〔引用・参考文献〕
桂聖(2022)「写真で見る授業 作品をつくるために読み直す」『教育研究』12月号、初等教育研究会
桂聖(2023)「子ども自らが言語活動を切り拓く力を育てる」『教育研究』2月号、初等教育研究会
山田秀人(2022)『体験から「論理」に気づく読みのゲーム60』東洋館出版社
山田 秀人(やまだ・ひでと)
沖縄県・宜野湾市立大山小学校
全国国語授業研究会監事/日本授業UD学会会員/UD35代表
今月の「5分でわかるシリーズ」は、秋山千沙子先生(東京都・目黒区立上目黒小学校)に、子どもたちが主体的に書く学習に取り組めるための工夫をご提案していただきました。 書くことに苦手意識をもつ子どもにとってハードルが高い「新聞づくり」単元を、「オリジナル話型」を活用した話し合い活動を取り入れることで、相手意識、書く目的を自覚することにつながり、意欲的な取り組みにつながります。
今回は笠原冬星先生(大阪府・寝屋川市立三井小学校)に、説明文の4つの基本構造をはじめに押さえ、平成27年度版と令和2・6年度版の本教材を読み比べることで、説明文の構造がどのように変化したのか、それぞれにどのようなよさがあるのか、について気づける授業づくりの工夫をご提案いただきました。
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授業で物語を読む楽しさは、その作品のおもしろさや主題について語り合うことにあると考えています。そのような読み手を育むことを目指して、1年生から系統的に読み方を身につけさせています。また、近年は読み方だけではなく、自ら「問い」をもち、それを追究していく学習構想力や自己調整力を培うことも意識しています。 そこで、「海の命」(立松和平 作)を中心教材とした6年生の物語単元では、子どもたちが課題を挙げ、自分の解決したい課題を選択し、互いに交流しながら主題に迫っていくように構想しました。