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「スイミー」-子どもの追究意識に寄り添った展開を-
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執筆者: 山本 真司
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単元名:いろいろ考えよう うんと考えよう「スイミーのすごさ」
教材:「スイミー」(光村図書 2年)
「子どもが主体的に読み込んで考えを深めていく姿」を実現させることは多くの先生方の願いである一方で、簡単なことではありません。今回は、山本真司先生(愛知県・南山大学附属小学校)に「スイミー」を教材に、子どものもった疑問や考えに寄り添い、子どもたちの声をつなぎながら展開していく授業を提案していただきました。子ども同士のやりとりが具体的で、授業づくりの参考になること間違いなしです。
「子どもが主体的に読み込んで考えを深めていく姿」を実現したいと考えている先生方も少なくないことでしょう。とはいえ、現実的には、教科書や指導すべき事柄があり、30人もの多様な子どもたちに学習を与えていくわけです。そんな中、子どもの主体性を発揮させようというのですから、授業づくりは簡単ではありません。
そこで今回は、2年生「スイミー」(光村図書)を教材文に、できるだけ子どもの素朴な思いに寄り添い、子ども同士の声をつなぎながら展開していく授業について提案します。
初めて教材文を読んだ子どもたちは、「スイミーってすごいな」といった感想をもつことでしょう。その感想を生かし、単元を通じて「スイミーのすごさって何?」を追究していくことに決めます。そして、子どもの素朴な気付きや疑問を受けて全体に投げ返し、各場面を行ったり来たりしながら、場面の様子について想像を広げ、スイミーのすごさについても確かめていきます。最終的には、一人ひとりが作品の言葉を根拠としながら自分の言葉で説明できるようなることを目指します。
本教材は、仲間を失ったスイミーが、新しい仲間と出会い、まぐろを追い出す話です。中心人物であるスイミーの行動や会話文によって話が進むので、子どもたちは、スイミーの活躍に胸を躍らせながら読んでいくことでしょう。
また、1場面で(体が)「まっ黒」という設定が、最終5場面における「ぼくが目になろう」につながるなど、伏線のおもしろさも感じられる作品です。場面と場面のつながりにも気付くことで作品世界をより豊かに楽しむことができるようになります。
さらに、「協力」「勇気」「知恵」「リーダーシップ」「統率力」「回復力」など、多様なメッセージを受け取ることのできる作品であることも大きな魅力です。本提案では、「スイミーのすごさ」を言語化することで、これらの作品のメッセージを子どもなりに感じていくことを目指しています。
〔知識及び技能〕
身近なことを表す語句の量を増し、語彙を豊かにしている。⑴オ
〔思考力、判断力、表現力等〕
場面の様子に着目して、登場人物の行動を具体的に想像している。Cエ
〔学びに向かう力、人間性等〕
粘り強く場面の様子に着目して登場人物の行動を想像し、自分が考えたことを説明しようとする。
第一次 | 「スイミー」を読み、初読の感想を交流し、学習課題「スイミーのすごさを説明できるようになろう」を設定する。(第1時) |
第二次 | 「スイミーのすごさ」について、場面を行ったり来たりしながら読む。(第2~9時) |
第三次 | 「スイミーのすごさ」についてまとめ直し、説明し合う。(第10時) |
各授業では、子どもの声を投げ返したり、つないだりしながら、場面の様子を想像したり、「スイミーのすごさ」を確かめたりしています。「音読」→「話し合い」→「まとめの記述」という流れです。以下に、各授業での子どもの声をダイジェストで紹介します。
T:このお話について、もっとも強く感じたことを発表しましょう。
C:スイミーは、似ている魚を合わせて、大きな魚をおい出したところは頭がいい。
C:スイミーは、怖いのに元気を出している姿に感動した。
T:スイミーってやっぱりすごい?
C:うん。すごい。
T:では、みんなでスイミーのすごさを説明できるようにしよう。
T:スイミーのどんなところがすごいのか、考えてみよう。
C:まぐろからスイミーだけ食べられなかったのがすごい。
C:「出てこいよ。みんなで遊ぼう」のところが、みんなを励ましている。
C:みんなとすぐ友達になって、協力して、大きな魚を追い出したのがすごい。
T:ミサイルみたいにつっこんできたって、どういうこと?
C:ミサイルって、戦闘機の爆弾みたいなもの。
T:自分が魚だったら、まぐろの大きさは?
C:一口でみんな飲み込んだのだから教室ぐらいはあるよ。
C:スイミーはだれよりも泳ぐのが速いから逃げられた。
C:1場面に書いてあるよ。
C:黒いからまぐろは自分の赤ちゃんだと思ったのかも。
T:一匹だけ黒いことを、スイミーはどう思ってるの?
C:学校に一人だけ違う服で来たら恥ずかしい。
C:楽しく暮らしていたから、悲しくはないと思う。
C:スイミーの兄弟たちは全部飲み込まれたけど、別に暮らしていた魚たちがいたんだ。
C:そっくりって書いてあるからね。
C:じゃあ、なんでまぐろが怖いって知ってるの?
C:遠くから見ていたか、うわさで知ったんだよ。
C:「スイミーのと」ということは、スイミーの兄弟とそっくりってことだから、別の魚。
C:スイミーはみんなと遊びたかったんだよ。
T:「だめだよ。食べられてしまうよ」って言われているし、危ないよね?
C:岩のかげにいたら、まぐろに見つかっちゃうから。
C:スイミーは、寂しかったんだよ(2場面)。
C:スイミーは、またみんなで楽しく過ごしたかった(1場面)のだと思う。
C:兄弟たちが食べられてしまったのに、「遊ぼう」と言えたのがすごい。私だったら、
そんな勇気が出ない。
C:海にあるいろんなすばらしいものを仲間に見せてあげたいと思っているんだよ。
T:海には、どんなすばらしいものがいるの?
C:3場面に書いてあります。
C:虹色のゼリーのようなくらげは、おいしそう。
C:水中ブルドーザーは、勇気が出そう。
C:だから、仲間を誘う勇気が出た4場面とつながる。
C:ドロップみたいな岩も甘そう、きれいそう。
C:うなぎの長さは、学校の廊下ぐらい長いのかも。
T:この場面でスイミーってすごいの?
C:スイミーは、兄弟を失ったのに、おもしろいものを見て元気を取りもどしたのは、すごいと思う。ぼくだったら、嫌なことが起きたら、ずっと頭の中にある。
C:スイミーは、どうにか元気を取りもどそうと、くらげをゼリーとか自分が好きなものに例えたんじゃないかな。
C:考えただけでは思いつかなくて、いろいろ考えて、うんと考えたんだと思う。
T:なんでスイミーは、そんなに考えたの?
C:みんなのためにいろんな世界を見せてあげたいから。
C:また、一緒に遊びたいから。
C:水中ブルドーザーとかを見て勇気が出たから。
C:食べられた仲間たちのかたきをうちたかったから。
T:スイミーは、マグロに食べられないように、ほかにはどんなアイデアを考えたと思う?
C:人間にまぐろを釣ってもらうように頼もうとか。
C:ぼくだったら、サメにお願いする。
C:砂の中にもぐるとか。
C:いろいろ考えて思いついたから、「そうだ」って叫んだんだ。
C:スイミーは、自分より仲間のためを思いながら、いろいろ考えて、うんと考えて、ぼくたちには思いつかない素晴らしいアイデアを思いつくなんて、本当にすごい魚。
C:いろいろおもしろい生き物を見たから、出会った兄弟たちに見せたいというやさしさが
すごいと思います。私だったら自分だけの秘密にしたい。
T:スイミーが、教えたってことはすごいの?
―「すごいと思う」「すごくないと思う」どちらかに挙手。「すごくないと思う」が多数
C:別にすごくない。ぼくたちだって算数の授業でみんなに教えているから。
(K君の前時の記述を提示)
「仲間のために考えて、みんなが賛成したのがすごいと思う」
T:最初は「だめだよ」と言っていたのに、どうしてみんなはスイミーに賛成して、大きな魚のようになったんだろう?
C:赤い魚たちもまぐろを追い出したかったのかも。
C:証拠がないよ。
C:「だめだよ。大きな魚に食べられてしまうよ」と言っているから、本当は広い海に出たいのかもしれない。
C:みんな反対しているから、「決してはなればなれにならないこと」と教えたんだよ。
T:どうしてはなればなれになったらだめなの?
C:はなればなれになったら、まぐろにばれてしまうから:
T:持ち場を守るってどういうこと?
C:ヒレならヒレ役って決まっている。それを守らなかったら、一匹の魚のように見えない。
C:泳げるようになったとき、だから、簡単にはできるようにならなかった。
C:スイミーがはなればなれにならないことや、持ち場を守ることをみんなを納得させたから、スイミーは頭がいい。
C:「ぼくが目になろう」は黒いから目になった。
C:たまたまでしょ。別にすごくない。
C:自分の特徴を生かしたからすごい。
C:自分にしかできないことだからすごい。
C:だから、「自分が中心だ」といばってるんでしょう?
C:スイミーは、みんなのことを考えていたよ。
C:スイミーは、みんなのリーダーなんだ。
C:自分からリーダーになろうっていうのもすごい。自分だったら恥ずかしくてリーダーになんてなれない。
以下に、子どもの書いた「スイミーのすごさ」について説明した文章例を紹介します。
(読みやすいよう、一部漢字に修正しています)
スイミーのすごいところは、スイミーが仲間に教えてリーダーみたいになったところです。なぜかというと、「ぼくが目になろう」のところで、赤い魚たちの中で中心になろうとしているからです。赤い魚たちがもっとふえてもっと大きい魚になれたらうれしいです。
私もスイミーみたいにリーダーのような子になりたいです。
スイミーのすごさは、赤い魚たちが反対していたのに、よく考えたところです。スイミーがなんで考えたかというと、赤い魚たちにどうしても面白いものを見せたいからだと思います。うんと考えて、いい作戦を思いついたんだと思います。自分だったら、赤い魚たちが「だめだよ。」と言ったら「うん、そうだね。」と言ってあきらめたと思います。
だから、スイミーがみんなに教えたのはすごいと思います。
子どもの素朴な追究意識に寄り添い、子どもの声をつなぐことを中心として授業を創っていきました。思い思いの発言があり、脱線するときもありましたが、軌道修正できたのは「スイミーのすごさを説明できるようになろう」という単元の軸を定めていたからだと考えます。
また、特に文学作品の読みでは、多くの子が着目するところは、ある程度定まってくるとも感じています。場面の様子や登場人物の心情を想像する、場面と場面のつながりに気付くといった教師側の願いを大事にしながらも、子どもたちが伸びやかに進めていけるような授業づくりを心掛けていきたいものです。
山本 真司(やまもと・しんじ)
愛知県・南山大学附属小学校
全国国語授業研究会幹事/国語夢塾/教育サークル「なごやか」主宰
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