
『とんでもない』 ー自分にないものはよく見えると気づかせてくれる1冊
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執筆者: 小島 美和
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書名:とんでもない
作:鈴木のりたけ
絵:鈴木のりたけ
出版社:アリス館
出版年:2016年
ページ数:34
まわりの人をうらやんで、「自分は普通でありふれた、つまらない人間なのかもしれない」
そんなふうに落ち込むこと、子どもにも、そして大人にだってあるのではないでしょうか。そんなときに「みんないろいろあるんだな」と思わせてくれて、心を軽くしてくれる一冊をご紹介いただきました。
「ぼくにしかできないことやぼくにしかないすごいところ」が一つもなく、「どこにでもいるふつうの子」と思っている男の子。
男の子が、サイのような立派な皮がかっこよくてうらやましいと思っていると、それを聞いたサイは、「とんでもない」と皮があることによって悩んでいることを話します。
そしてサイは、うさぎみたいに身軽にぴょんぴょん跳ね回ってみたいと言います。
すると、それを聞いたうさぎは、「とんでもない」と答え、身軽にぴょんぴょん跳ね回れるからこそ起こった困った出来事を話し、くじらだったら…と憧れを語ります。
この絵本では、憧れられたいろいろな動物が出てきては、自分に憧れるなんて「とんでもない」と、自分たちにもそれぞれ悩みや困っていることがあることを語っていくお話です。
自分とは違う動物への憧れを語るとその動物が登場し、自分に憧れるなんて「とんでもない」と否定した上で、その動物ならではの悩みや苦労とともに、また別の動物への憧れを語ります。
憧れられた動物はまた自分に憧れるなんて「とんでもない」と否定し、自分の特徴があるからこその悩みや苦労をユーモアたっぷりに話します。
何度も繰り返されるそのやり取りの繰り返しがとても楽しいお話です。
繰り返しがあることで、登場した動物の特徴から、どんなことで悩んでいるのか想像したり、どんな動物に憧れているのかなと先を予想したりしながらお話を楽しむことができます。
そして、お話を読み終わった後に、自分だったらどんな動物に憧れるのかを考えたり、その動物はどんな悩みや苦労があるのかを想像したりするなど、違う視点で考える楽しさに気付くこともできます。
繰り返しが続くお話が、どのように終わっていくのか、結末も楽しみの一つです。
そこには、「自分にないものはよく見えるけど、あったらあったでいろいろ大変」と大人でもドキッとするメッセージが込められています。
また、この絵本は、迫力のある絵がとても素敵です。と同時に、絵を細部まで見ていくといろいろな所に秘密が隠されていて、絵をじっくりと眺めながらそれらを発見するといったことも楽しめます。
ストーリーの面白さはもちろんのことですが、それだけではなく、絵を見ているだけでも楽しむことができるのも魅力の一冊です。
この絵本には、体の大きな動物や小さな動物、海の中にいる動物や空を飛ぶ動物など、いろいろなところで暮らすいろいろな特徴をもった動物が登場します。
その動物がイメージしやすいよう、読み聞かせのときには、その動物に合った声の高さや話す(読む)スピードを工夫して読んでみるのもいいと思います。
例えば、大きな体のサイだったら、少し低めの声でゆっくりスピードを落として読む。ぴょんぴょん飛び跳ねるうさぎだったら、高めの声で軽やかに読むなど動物ごとに変化をつけると、聞いている子供たちも楽しんで聞いてくれます。
また、お話の中にある繰り返しに気付いた子供たちが、それぞれの動物が「とんでもない」の後に、どんな悩みを語るのか予想をしたり、どんな動物に憧れているのか想像したりしながら聞くことができるよう、ページをめくるときに少し間をとって読むのもよいでしょう。
特徴的な絵も魅力の作品なので、なるべく絵をじっくりと見せてあげて、子供たちの反応を見ながら読み、一緒に楽しんでみてください。
小島美和(こじま・みわ)
東京都・杉並区立桃井第五小学校教諭
全国国語授業研究会理事/新考える国語研究会
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