「スワンレイクのほとりで」 -登場人物との距離感を大切にしながら読み味わう文学の授業-
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執筆者: 沼田 拓弥
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新教材「スワンレイクのほとりで」は、本文中に数多くの色彩が登場し、中心人物「歌」の一人称で、グレンとの思い出が色鮮やかに描かれるなど、情景描写の多い物語文です。野菜畑から湖へと場面が移るにつれ、色の数はどんどん増え、色たちが動き出すクライマックスでは、歌の高揚感が伝わってくるようです。
本教材について沼田拓弥先生(東京都・八王子市立第三小学校)に、情景描写に着目しながら、様々な視点から読者が「歌」に寄り添うことで、同化・異化という「登場人物との距離感」を意識した読みの力が育つ授業づくりについてご提案いただきました。
本教材では、「登場人物との距離感」がキーとなる
4年生(中学年)最後の文学教材として位置付けられ、高学年への架け橋となる物語である。
中心人物の「歌」が、夏休みに経験した海外でのできごとを振り返ることを通して、前向きな気持ちへと変化する爽やかな物語である。 中心人物の「歌」は、学習者である子どもたちと同じ4年生だ。そして、物語は歌の視点(一人称視点)で描かれているため、学習者は歌と自分を重ねながら物語の世界に浸ることができるだろう。一方で、物語中に紹介される海外での経験については、同じ世代であっても具体的にイメージすることは難しい。慣れないアメリカの地で、歌の心がどのように揺れ動いたのか、叙述を丁寧に読み解きながら理解を確かなものにしたい。
物語の構造はとてもシンプルである。
まず、現在の歌の様子が描かれている。そして、夏休みのアメリカでの出来事(過去)の回想へと移り、再び現在の姿へと戻り、物語は閉じられる。つまり、現在 → 過去 → 現在という額縁構造になっている。過去の出来事を回想することによって、最初と最後の歌(中心人物)の心がマイナスからプラスへと変化するわかりやすい設定である。この大枠を捉えつつも、直接的心情表現だけでなく、情景描写等を通して、間接的に描かれる歌の心情を想像するところに中学年の集大成となる授業が生まれるだろう。
中学年の子どもたちは、基本的に歌に同化して物語を読み味わうだろう。一方、少し離れたところから歌を見つめ、客観的に登場人物を分析するおもしろさも感じ取るはずだ。このような同化・異化という「登場人物との距離感」こそが、この物語を読み味わう大切な鍵となる。
近年、様々なところで耳にする「探究」。このキーワードが学習指導要領に位置付けられたのは2008年、なんともう16年も前のことである。 大きな自然災害や世界中で猛威を振るった感染症など、想像もしていなかった様々な出来事が次々と起こり、変化の激しさを実感せざるを得ない現在では、「探究する国語授業」が自分の一番の研究テーマとなっている。 答えのない問題を解決しなければならない社会。このような社会で生きていく子どもたちは、「探究する学び」が必要であろう。授業後も学び続ける子ども、答えのない問題に向き合い粘り強く解決していこうとする子どもを育てていかなければならない。
本教材において、子どもたちが自分なりの意見をもち、話し合い、個性を認め合うことで、一人ひとりの多様さが生きる授業づくりを、髙橋達哉先生(東京学芸大学附属世田谷小学校)にご紹介いただきました。 本教材で身に付けたい力から指導内容を明確にした上で、「その子らしさ」を生かした授業を計画することで、拡散ではなく、それぞれの軸をもった子どもの「多様さ」が発揮されるようになるでしょう。
今回は小崎景綱先生(埼玉県・さいたま市立新開小学校)に、令和6年度に本教材が改訂されたことを踏まえ、「以前の文章に変更を加えることで、筆者はどのように、何を、読み手により伝えたかったのか」といった、説明文の工夫における意図や思いに迫ることで、「筆者を読む」力が身に付く授業づくりをご提案いただきました。
今回は藤平剛士先生(相模原女子小学校)に、本教材の前にある詩「生きる」と合わせて、「生きるとは何か?」といった答えのない問題を設定することで、6年生の子どもたちが今の自分と向き合ったり、探究的な見方・考え方を育めるような授業づくりの工夫をご提案いただきました。
新教材「銀色の裏地」は、新年度初めの高学年にとって身近な事柄がテーマとなっている物語文です。中心人物「理緒」の大まかな心情の変化は捉えやすいものの、細かい描写において、なぜそう思ったのか(行動したのか)明確には表現されていないため、叙述を基に、登場人物に感情移入して想像したくなります。 今回は山本純平先生(東京都・江東区立数矢小学校)に、「言ったこと」「行ったこと」「思ったこと」「繰り返し出てくる表現」の観点から細かく描写に着目し、本教材の学習後も、自力で物語文を読み進められるような力を育む授業づくりの工夫を、ご提案いただきました。
今月の「5分でわかるシリーズ」は、秋山千沙子先生(東京都・目黒区立上目黒小学校)に、子どもたちが主体的に書く学習に取り組めるための工夫をご提案していただきました。 書くことに苦手意識をもつ子どもにとってハードルが高い「新聞づくり」単元を、「オリジナル話型」を活用した話し合い活動を取り入れることで、相手意識、書く目的を自覚することにつながり、意欲的な取り組みにつながります。