新教材「文様」の教材研究と授業づくり
|
執筆者: 髙橋 達哉
|
今回は髙橋達哉先生(東京都・東京学芸大学附属世田谷小学校)に、新教材「文様」(光村図書・3年上)について、続く教材「こまを楽しむ」を踏まえた上で分析し、授業づくりのポイントとその具体例を紹介していただきました。
3年生はじめ、説明文に親しむための【れんしゅう】として、本教材にはどのような特性があるのでしょうか。
また、どのようにすれば主体的に読みを深められるのか、「ゆさぶり発問」のアイデアにもご注目ください。
本教材は、「こまを楽しむ」の練習教材という位置付けである。そのため、題材が異なるだけで、基本的な文章の構造や説明の仕方は、「こまを楽しむ」と共通している。どちらも、複数の事例が紹介される事例列挙型と呼ばれる説明文である。
「こまを楽しむ」の学習に活かすことを考慮し、さらには2学期教材である「すがたをかえる大豆」へとつながることを見据えて、特にポイントとなる本教材の特性や、その特性から見出せる指導内容(教科内容)を以下に挙げたい。
第2学年までの学習においても、形式段落番号を振るなどして学習している用語であるが、ここで改めて段落の意味や役割、段落の分け方を確認するようにしたい。
具体的には、教科書P.64「たいせつ」にも示されているように、「一つ一つの段落には、それぞれ、ひとまとまりのないようが書かれている」ということ、説明する内容が少し変わる場合には、段落を分けて説明することで、読み手にとって分かりやすい文章となることについて理解を促したい。
説明文の基本構造である「はじめ・中・おわり」の三段構成を学ぶのに適した教材である。教科書本文の上部に示されている「はじめ」「中」「おわり」と、それぞれの段落に書かれていることを対応させることで、「はじめ・中・おわり」という用語と、それぞれの構成要素を確認するようにしたい。
基本的には、「問い」が書かれている段落が「はじめ」であり、「答え」が書かれている部分が「中」、文章全体の「まとめ」が書かれている段落が「おわり」と整理できる。ただ、「中」に書かれているのは「詳しい答え」であり、「おわり」に書かれているのは「まとめた答え」という整理の仕方も可能である。
第1段落に、「どんなことを願う文様があるのでしょうか。」という典型的な「問い」の文がある。
学習の手引きにも、「問い」について確認することが示されており、学習用語としてここで改めて低学年での学習も振り返りながら整理することになる。
注意点は、「どんな文様があるか」という文様の種類や名前についての「問い」ではなく、「どんなことを願う文様があるのか」という文様に込められた願いについての「問い」になっていることである。
「答え」に当たる部分を考える活動においては、「問われているのは何か」について丁寧に確認する必要がある。
また、単に教科書P.160に解説されている「問い」の意味や役割を確認・整理するだけでなく、「〜でしょうか」が問いを見出す際の指標となることを確認したり、やや発展的ではあるが、「問い」があることによる<よさ>や<効果>についても子どもたち自身が考えたりすることを大切にしたい。
第2段落から第4段落に渡って、事例が列挙され、3つの文様それぞれについて説明されている。
中でも、注目したいことは、それぞれの段落の最後の一文が、「答え」にあたる中心文となっている点である。先述の通り、本教材における「問い」は、「どんなことを願う文様があるか」であるため、文様の種類や名前を紹介する第一文は「答え」とはならない。
「こまを楽しむ」においては、二つの「問い」の「答え」が、「中」の各段落の第一文に示されているため、この点については二つの教材の差異点と言える。
「こまを楽しむ」のように、「中」の段落の第一文に「答え」が示される場合が多いということも押さえつつ、必ずしも「答え」は、事例部分の第一文に示されるわけではないことについて本教材を通して確認したい。
説明文の学習において、どのような言語活動を設定するかということは、極めて重要な問題である。なぜなら、言語活動は、「何のために、その説明文の学習をするのか?」という子どもたちの目的意識と関わるからである。
通常、私たちが説明文を読む目的は、書かれている内容を読むことである。子供たちも同じで、普通に読めば、目が向くのは説明文に書かれている内容である。しかし、説明文の授業においては、文章の「書かれ方」(構成や表現方法)が指導内容となる。強い目的意識がないと、「説明文の書かれ方に注目して読もう」ということにはならない。
また、言語活動の設定に際しては、教材の特性を活かすという視点に加え、子どもが生活の中で関心を抱いていることとの関連性も重視する必要がある。
以上のことを踏まえたときに、本単元においては、自分の好きなことや好きなものについて、種類を挙げて紹介する文章を書くという言語活動の設定が考えられる。
子どもが生活の中で興味をもっている事柄は、それぞれ個性的で、多岐にわたる。子どもたち一人ひとりの興味・関心が活きる言語活動を設定することで、主体的に文章の「書かれ方」に着目しながら学習を進めることができるのではないだろうか。
自らが興味をもっている事柄について、いくつかの種類を例示して紹介する文章を書くという活動は、魅力的であるとともに、ねらいに必然性のある活動となるのではないかと考えている。
ただし、教科書会社の設定した授業時数では、この活動を行うには足りないことが想定される。「説明文を書くために、説明文から学ぶ」ということについては、二学期教材の「すがたをかえる大豆」を扱う単元で行うことも考えられる。
教科書において設定されている単元名は、「まとまりをとらえて読み、かんそうを話そう」である。
「感想を伝え合う」ことが言語活動となるわけだが、「感想を伝え合う」ことを目指して「文様」や「こまを楽しむ」を読んでいこう! 書かれ方を学んでいこう! と子どもたちに提案することは難しい。「感想を伝え合う」ためには、基本的には書かれている内容が分かればよく、「問い」と「答え」を整理したり、「おわり」の役割を考えたりすることへの必然性は生まれないからである。
また、今回の単元の設定は、第三次における表現活動に向け、「文様」や「こまを楽しむ」から説明文の書かれ方を学ぶことがねらいではない。
以上から、「まとまりをとらえて読む」「こまのせつめいをていねいに読む」などの方向性が学習者に示されていることからも、「説明文を読むときの基本を学んでいこう」という目標を子どもたちと共有していけばよいのではないだろうか。
教科書通りに単元を進める場合には、「文様やこまについて読んで考えたことを伝え合おう」といったように、内容面について感想を共有しつつ、説明文の基本的な書かれ方についても学んでいくということを、単元の冒頭で確認してから、学習に入っていくようにしたい。
なお、本稿においては、2-1の言語活動を設定した単元計画を掲載している。
〔知識及び技能〕
〔思考力、判断力、表現力等〕
〔学び向かう力、人間性等〕
第一次 |
第1時
第2時
第3時
|
第二次 |
第4時
第5時
第6時
第7時
|
第三次 |
第8時〜9時
|
*「こまを楽しむ」の授業実践については、以下を参照いただきたい。
https://japanese.toyokan.co.jp/blogs/japanese-classes/20230323
本単元では、「問い」「答え」「はじめ・中・おわり」「まとめ」「段落」などの基礎的な事項について、新たに学習したり、既習を振り返ったりする。その際、単にそれらの用語やその意味について確認するだけにとどまらないようにしたい。
例えば、「問い」があることのよさや効果は何か、「問い」を見つける際の目印となる表現は何か、「はじめ・中・おわり」に分ける際に着目するべき表現は何かなどについて考えられるような授業にしていきたい。
「文様」の第1段落から、第2段落までの7文を、センテンスカードにして提示する。
その際、「問い」の一文については、「どんなことをねがう文様があるのです。」と文末を変えて提示し、子どもからの指摘を受けて、訂正する場面をつくる。
「文の終わり方は、これではダメなの?」と問い返し、やり取りをする中で、「問い」と「問いの文末表現」について確認する。
第2段落の4文の中から、「答え」を探す活動を行う。
教材文には、「答え」と記載があり、該当箇所(第2段落の第4文)にはサイドラインが引かれているが、あえて教師が「先生は、教科書を見なくても、答え、分かるよ」と言って、第一文が答えだと主張する。
子どもたちからの指摘を受ける中で、教師が、「どんな文様があるのでしょうか。」という「問い」だと勘違いしていたことが判明するような展開をつくる。その上で、「問い」に書かれていることと、きちんと対応している部分が「答え」であることを確認する。
「『答え』があれば分かるから、『問い』の文はなくてもいい?」 と仮定的に問うゆさぶりを行い、「問い」があることのよさや効果を考えられるように展開する。
例えば、「問いがあることで、読者が疑問に思いながら読み進めることができる」や「この説明文がどんなことを説明しようとしているのかが分かる」など、子どもたちから挙げられた言葉を用いながら、よさや効果を整理するようにしたい。
練習教材という位置付けで、教科書会社の設定した時数も限られているため、「文様」の学習に多くの時間を割くことが難しい。そのため、限られた時数の中で、何を指導するのかを吟味することが重要である。
今回紹介した「問い」のよさや効果について考える授業のあと、時間的な余裕があれば、「まとめ」があることのよさや効果を考える授業を行ってみるのもいいだろう。
髙橋達哉(たかはし・たつや)
東京都・東京学芸大学附属世田谷小学校教諭
全国国語授業研究会常任理事/日本授業UD学会常任理事/新しい国語実践研究会副会長/山梨・国語教育探究の会代表/全国大学国語教育学会会員/日本読書学会会員
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
記事を読む今回は、田中元康先生(高知県・高知大学教職大学院教授/高知大学教育学部附属小学校教諭)に、教材「インターネットは冒険だ」(東京書籍・5年)の授業づくりの工夫について、紹介していただきます。説明文の学習で当たり前のように行われる「要旨をまとめる」とはどういうことなのか。あらためてその意味や方法を確認しながら学ぶことで、汎用的な読みの力が育ちます。
記事を読む本教材「まいごのかぎ」(光村図書・3年)は、登場人物 りいこが次々と遭遇する不思議な出来事が、第三者目線とりいこの視点とを織り交ぜて描写されることで、読み手もまるで巻き込まれていくかのように展開し、ワクワクしながら物語の中に入り込むことができます。 今回は小島美和先生(東京都・杉並区立桃井第五小学校)に、一つひとつの叙述を自身の経験を想起しながら丁寧に押さえ、りいこの気持ちや行動と比較することで、人物像に迫っていく授業づくりを、紹介していただきました。
記事を読む今回は髙橋達哉先生(東京都・東京学芸大学附属世田谷小学校)に、新教材「文様」(光村図書・3年上)について、続く教材「こまを楽しむ」を踏まえた上で分析し、授業づくりのポイントとその具体例を紹介していただきました。 3年生はじめ、説明文に親しむための【れんしゅう】として、本教材にはどのような特性があるのでしょうか。 また、どのようにすれば主体的に読みを深められるのか、「ゆさぶり発問」のアイデアにもご注目ください。
記事を読む柘植遼平先生(千葉・昭和学院小学校)に、新教材「アイスは暑いほどおいしい?―グラフの読み取り」の授業づくりについて、「雪は新しいエネルギーー未来へつなぐエネルギー社会」と合わせて紹介していただきました。 今回の新教材の追加で、グラフや表などの資料が筆者の主張を分かりやすく伝えるための工夫として、捉えやすくなったことに着目し、資料を中心に説明文読解が深まるような単元づくりを行います。
記事を読む今月の5分で分かるシリーズは、藤平剛士先生(神奈川県・相模女子大学小学部)に、授業開きで確認し合いたい、すべての学びの基礎となる4つのスキルについて、実際の授業展開に沿ってご紹介していただきました。
記事を読む