「こわれた千の楽器」からはじめる、自ら学びに向かう第一歩
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執筆者: 山本 純平
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今回は山本純平先生(東京都・江東区立数矢小学校)に、年度はじめの第一教材「こわれた千の楽器」(東京書籍・4年)で、よいスタートダッシュを切ることができる授業づくりについて、ご提案いただきました。本教材では、登場人物の設定と会話文の読み取りを通して、これまでの学習の積み重ねを再確認し、子どもたちのやれる! できる! を高めることができます。子どもたちの意欲を高める、教師の問いかけにも、是非ご注目ください。
新学年で、子どもたちがやる気に満ちている4月に、自ら考え学びに向かう素地をつくりたい。しかし、なかなか子どもが学びに向かえない。しっかり教えようとすればするほど、子どもたちは飽きてしまう。そんな経験はないだろうか。
指導のポイントを明確にし、そこに重点をおくことで、この問題は解決できる。
この教材で私は、「登場人物と会話文に注目して読む」ことをポイントにする。
欲張りすぎない。重くしすぎない。
これまでに子どもたちが、どんな国語の学びを積み重ねてきたのか、探りながら進めたい。
こわれた千の楽器や月が登場人物として描かれている。
会話文に注目することで、楽器たちと月の関係の変化に着目でき、学びが深まる。
また、どのように音読するかを考えることで、登場人物の心情や関係性の変化を捉えることができる。
1人では不完全であっても、仲間と補い合うことで十分な仕事ができること。さらに協力し合えば、自分より大きな存在を動かし、心を揺さぶることができるということが読み取れる。
人物と会話文に着目することで、深い読みができたと実感させられる、よい教材である。
・〔知識及び技能〕文章全体の構成や内容の大体を意識しながら音読している。(1)ク
・〔思考力、判断力、表現力等〕「読むこと」において、登場人物の行動や気持ちなどについて、叙述を基に捉えている。Cイ
・〔学び向かう力、人間性等〕進んで登場人物の様子や気持ちを想像し、学習の見通しをもって物語を音読しようとしている。
第一次 作品と出会う ~登場人物に着目する~(第1時) |
・題名読みをし、物語の学び方を知る ・範読を聞く ・登場人物の数を数えながら、登場人物という用語の意味を再確認する |
第二次 一番大切な登場人物を考える ~会話文に着目する~(第2~3時) |
・出てきた楽器の種類を確認する ・一番大切な登場人物を考える ・会話文に着目しながら、大切な登場人物について理由を述べる ・会話文の音読の仕方を考えることで、心情に迫る |
第三次 月の役割を考える(第4~5時) |
・月は大切かどうかを考える ・月の会話文に着目することを気付かせる ・会話文の音読の仕方を考えることで、月の役割について考える ・月の行動描写から、月が大切な理由を述べる ・副題をつける(実態に応じて行う) |
T:「こわれた千の楽器」という題名から何か思い浮かぶことはありますか?
C:こわれちゃったから、直すんじゃないのかな?
C:千の楽器を探しに行って、集める話だと思います。
C:千っていうけど、本当はそんなになくて、めっちゃたくさんって意味かなって。
C:戦争によって壊れたってことなんじゃないかな。だから戦争の話なんだと思う。
T:じゃあ、読んでみましょうか。
―教師が範読する
T:登場人物は何人ですか?
C:ええと、6人じゃない?
C:先生、ちょっと待って。数えるから。
C:えー? いいのかな?
T:どうしたの?
C:登場人物って言うけど、人は出てきてないんですよね。
T:だれか、今○○さんが困っていること、分かる?
C:はい。人じゃなくても登場人物って言えるのかですよね。
C:そうそう楽器だから。でも、喋っているからいいんじゃない?
T:これは前の学年までにやっているから、確認しよう。登場人物っていうのは、物語に出てくる人物だね。人ではない動物や物でも、人と同じように何かをしたり話したり考えたりするものは登場人物でしたね。
C:じゃあ、楽器も登場人物でいいんだ。
C:それなら10人!
T:他の数だよって人、いる?
―6、8、9、10、11、12、13、14の数が挙がる
C:これ1000なんじゃないかな?
C:え? 1000も?
C:だって題名で千って。
C:それなら1001だよ。
T:いろいろ出てきたね。自分の意見じゃなくても1001の気持ちが分かる人っている?
C:分かる。題名の千の楽器と月の1を足して、1001。
T:なるほど。14っていうのは、どういう意味だろうね?
C:出てきた楽器と月を数えたんだと思います。
T:楽器の種類のことか。じゃあ、どんな楽器が出てきたのか教えてくれる?
C:チェロ。
C:ハープ。
―子どもの発言した順番に書いていく
C:あ~、先生。間違ってた。出てきた楽器が12だったから12+1で13人だ。
T:数え間違いってことが分かってよかったじゃない。みんなでチェックするのって大事だね。
C:先生、ぼくの10も数え間違えだったんで、なしで。
T:そっか。11、9、8、6は?
C:数え間違いでした。
T:ということは、出てきたのは1001で、楽器の種類で考えると13でいい?
C:いや、待ってください。13じゃないですよ。
T:と、言ってる人がいるよ?
C:などなどって書いてあるから、ここに書かれていない楽器もあると思います。
C:いっぱいありすぎて、省略されちゃったのかな?
C:千の楽器っていうのは、とにかくたくさんあるってことなんだと思います。
T:人物を数えると、いろいろなことが分かってきたね。みんな、よく読んでいてすごいです。
1つの視点で学習したこと、考えたことを肯定的に評価する。そうすれば、次の教材では自分から登場人物をノートに書き出す子どもが出てくる。
T:今、授業でやっている物語の題名は何ですか?
C:「こわれた千の楽器」
T:出てきた楽器の種類を教えてくれる?
C:チェロ。
C:ハープ。
C:「……フルートなども」って書いてあるから、他にもある。
T:うん。じゃあさ、このお話の中で自分が考える、一番大切な人物は誰ですか?
C:えぇ~?? 分かんないなあ。
C:ちょっと教科書読んでもいいですか?
T:どうぞ。話し合ってもいいですよ。1人で考えてもいいですよ。話し合いたくなったら、立ち歩いてもいいからね。
話し合ってて分からなくなったら、違う話し相手を探すとか、工夫をすると学びが深まるかもしれないですね。
学びの形態は自分で選べるようにする。選んだ結果、変えたくなったら変えてよいことを、あらかじめ伝えておく。
この積み重ねで、子どもたちは話し合いに慣れる。また、自分自身(個)の学びが最適かどうか判断する素地が養われる。
教師は、話し合いが停滞しているグループに入ったり、1人で考えあぐねている子をグループに入れたりしながら支援する。
T:話し合ったり、考えたりしてみてどうでしたか?
C:チェロじゃないかと思います。最初に話しかけられたから、物語が動き出したんだし。
C:ハープが「夢の中で」って言わなかったら、話が進まなかったからハープかも。
C:ホルンが「もう一度えんそうがしたいなあ。」って言ったから、演奏をしたい気持ちを思い出したんじゃなかったっけ?
C:ビオラが「いや、きっとできる。」って言ったからビオラのような?
C:みんなが賛成しなかったらできなかったからなあ。でも、「フルートなど」みたいに、その他って感じになっちゃってるのは、一番って感じでもないから……。
T:みなさん、すごいですね。会話文に目を付けて考えているんだね。ちょっとずつ見えてきてるよ。
このカギ括弧の部分を、しゃべってるところを会話文っていうんだよね。
「何でこんなこと言ったのかな?」「どんなふうに言ったのかな?」と、考えてみると深く読めるようになるよ。次回は、そこに注目してみよう。
3時間目は、2時間目に板書した、一つひとつの会話文から読み取れる感情を追記していき、楽器のセリフをどのように音読するかを話し合う。
音読した後、子どもたちに「こんなところに意識して読みました」と発表してもらう。
先に「こんなところに意識して読みます」とすると、「そんな風に聞こえなかった」と言い出す子が出てくる可能性がある。朗読ではなく音読なので、実際にどう聞こえるかは重視しない。
「想像したことを音読で表す」言語活動によって、会話文の人物の心情や関係性の変化を読むというねらいにつながる。
様子を見て全体に困りが出たところで、支援をする。
話し合いを始めてみて、もしも停滞しているグループが多ければ、2時間目の初めの段階で会話文に着目することを指導する。
T:みんなが会話文をよく読んで、どうやって読むといいとか、その理由を話してくれたから、自分の思う大切な人物を決められたね。〇〇さんは何て書いた?
C:全部の楽器が大切、と書きました。
T:▢▢さんは?
C:みんなで協力することが大切ということが分かったので、みんなです。
T:そうだね。1人でできなくても、みんなで協力すれば音が出たからね。じゃあ、月は? 月は大切ですか?
C:え?……大切でしょ?
C:月は協力してないからなあ……。
C:月の会話文を読めば分かるかも!
T:月は最初に、何て喋っていたんだっけ?
会話文に着目することを、子どもたちから出るようにしたい。教師発ではないからこそ、自ら学びに向かうことができる。
そのためにも、第2時~第3時の段階で「会話文に着目したら、分からなかったことが分かった」と、実感できるようにしたい。
月の変化をビジュアル化したいため、板書は第4時~第5時で1つに表したい。月が上っていくことをより意識させたいなら、第4時の板書をもっと下に、第5時の板書をもっと上に書けば効果的になるだろう。
今回の実践では、子どもたちは登場人物と会話文に注目することで、深く読むことができた。
「この方法は、次にも生かせる」
そんな実感を子どもたちがもつことができれば、国語を好きになり、だんだんと自らの学びに向かうようになる。学び方を知り、読めたという体験が大切なのだ。
第一教材で、自ら学びに向かう第一歩を踏み出せるようにしたい。
山本純平(やまもと・じゅんぺい)
東京都・江東区立数矢小学校
全国国語授業研究会理事
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