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「大造じいさんとガン」を私はこう授業する!!
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執筆者: 藤田 伸一
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単元名:人物の見方・考え方の変容を捉えよう
教材:「大造じいさんとガン」(全社/5年)
「大造じいさんとガン」の授業づくりを紹介します。
本教材は、人物の見方・考え方の変容を捉えることをねらいとし、また、衝撃的な結末は子どもたちの記憶にもずっと残るであろう、昔から教科書に掲載されている定番教材です。
今回は藤田伸一先生(神奈川県・川崎市立土橋小学校)に、細やかな教材分析の内容と、人物の心情に新たな観点から迫るポイントを押さえた授業づくりの具体についてご提案いただきました。
戦時中に書かれた作品である「大造じいさんとガン」は、今もなお教科書に掲載され読み継がれている。なぜ、こんなに古い作品が残っているのだろうか。どうして本教材を授業で扱う必要があるのか。その問いに答えていこうと思う。
その理由は、おそらく、教材としての何らかの価値を有しているからにちがいない。それをあぶり出し、子どもたちにとって学びがいのある「言葉の力」を教師がまず自覚する必要があるだろう。
◎人物の見方・考え方の変容を捉えやすい
◯人物の心情に新たな観点から迫ることができる
・情景描写から
・色彩語から
中心人物である「大造じいさん」が、数度にわたる戦いを経て「ガン」とりわけ「残雪」への見方・考え方が変化していく。「たかが鳥」から「英雄」へと大きく見方・考え方を変えている。人物の見方・考え方の変容を捉えることが、本単元の中心となる。この変容を捉える力が、6年で学習する「海の命」に活かされる。太一が生きる「海」への見方を変えていく過程を自力で捉えていくことにつながっていく。
どのように人物の見方・考え方を捉えていくのかを考える前に、「大造じいさん」を変える対象として描かれている「残雪」は、人物なのかどうかに言及していきたい。
結論は「No」である。鳥という動物としてあくまでリアルに描いていると私は捉えている。人間対鳥の戦いなのである。鳥としての本能や習性で「残雪」は作品世界を生きる。その存在を「大造じいさん」のフィルターを通して、まるで人物が行動しているかのように映っていく。
では、どのように人物の見方・考え方に迫ればよいのだろうか。「大造じいさんの残雪に対する見方・考え方がどのように変わっただろう?」このように発問をすれば何人かの子どもは動くことだろう。しかし、これでは課題を解決していこうという意欲が湧かない。それのみならず、どう変化を捉えればよいのかが分からない。作品全体を通してどのように変わってきたのかという変容の全体像も見えない。
そこで必要になってくるのが、具体的な言語活動である。「人物の見方・考え方グラフ」を導入する。下の資料1を見ながら読み進めてほしい。
ノート1ページ分を取る。右側が大造じいさん。左側に残雪を配置する。上段には、一から四場面の番号を振っておく。大造じいさんが、どう残雪を見ているのか、それを場面ごとに点を打つことによって視覚化していく。中心の破線のラインに打った場合は、対等関係を意味する。破線より下に点を打った場合は、自分より下に見ていることになる。破線より上に打った場合は、自分よりも上の存在だと見ているというように表していく。
ここで気を付けていきたいポイントが3つある。
第一に、一つの場面の中で点をいくつ打ってもよいということである。
大造じいさんは、一つの場面で大きく3つの見方を残雪に示していく。戦う前、戦っている最中、戦った後の場面で見方・考え方は異なってくる。だからこそ、点の数は1つに絞らないのである。
第二に、ずれを大切にすることである。
子どもの数だけ考えが出てくる。思考のずれが生まれるから話し合いで解決したくなり、最適な解に迫ろうとする。そこで、一人ひとりがどの辺りに点を打ったのかを短い時間の中で表明させるようにする。違いを顕在化することによって、協働的な学びにつなげるのである。
最後に、話し合いの結論は点にはならないということである。
違った意見をぶつけ合いながら、およそこの辺になるという面に着地させていくことが大切である。意見を1つにするのが目的ではなく、作品に書かれている言葉を根拠にしながら大造じいさんの見方・考え方を浮き彫りにすることが重要なのである。
本単元では、「情景描写」や「色彩語」に目を向けることによって、人物の心情に迫れるという新たな読みの観点を身に付けることが期待できる。
例えば、「東の空が真っ赤に燃えて」という情景描写や色彩語に目を向けたとしよう。語り手が大造じいさんの目で表現している。つまり、大造じいさんには、「真っ赤に燃えて」見えるのである。残雪と雌雄を決するほどの戦いをしていない狩人にとっては、単なる朝焼けにしか映らないであろう。
「今度こそ絶対に仕留めてやる」「いよいよ自分の作戦を試すときがきた」
このような決意や期待などが大造じいさんの心に渦巻いているからこそ空が真っ赤に燃えているように見えるのである。心情が、風景の描写や色と重なっているという新たな学びをこの教材で得ることができる。
まずは、情景描写や色彩語を見つけるところからスタートする。色彩語は色を表している言葉を取り出せばよいのですぐに見つかるだろう。
問題は情景描写だ。周りの様子とりわけ風景を表現している文に線を引くようにする。空や木々、沼地などが出てきたら気を付けることをあらかじめ伝えておけば、ほとんどの子は見つけることができるだろう。
情景描写や色彩語に目を向けることができたら、次は、自問自答できるようにする。
例えば、「秋の日が、美しくかがやいていました」という情景描写に線を引いたとしよう。その後、「どうして大造じいさんには、秋の日が美しくかがやいて見えたのだろう?」と自問するようにする。その答えを考える。ここで、想像力や解釈する力が働く。「きっと、『ガンがたくさん獲れるぞ』という思いからそう見えてるのかな」「自分の立てた作戦がどれだけ通じるか、その期待からそう見えてるのだと思う」
このように、自問自答することで、主体的にテキストの細部を精査・解釈していく力を身に付けていくのである。
本単元では、人物のものの見方・考え方の変容を捉えることを中心的な指導事項とする。人物のものの見方・考え方グラフを駆使して視覚化することにより、大造じいさんが残雪たち鳥をどのように見、考えているのかを場面ごとにつかんでいく。と同時に全体の変容にもグラフの変化から捉えられるようにしていくのである。
さらに、これまでの人物の心情の迫り方に加えて、新たな読みの観点を付加していけるようにする。情景描写や色彩語からも人物の心情に迫っていけるのだということを体験させていきたい。
これらの2つの力をこの単元で定着させ、次の物語の読みの中で活用できるようにするのが大きなねらいである。
〔知識及び技能〕
〔思考力、判断力、表現力等〕
〔学び向かう力、人間性等〕
第一次(第1時) |
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第二次(第2~5時) |
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第三次(第6時) |
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単元の導入では、題名読みを大事にすることで、単元全体の課題意識をもたせることが大きなねらいとなる。「これから新しい物語をみんなで読んでいきます」とアナウンスした後、題名を板書する。
T:「大造じいさん○ガン」。ガンは、鳥です。○の中にいろんな文字を入れてみよう。
C:『は』です。
T:『は』が入るとどんな感じ?
C:大造じいさんはガンそのもの。
T:なるほど。他にはどうかな?
C:『の』を入れてみました。
T:これだと?
C:ガンが、大造じいさんのものということになる。
T:『と』が入ります。題名通り『と』を入れるとどうなる?
C:何か大造じいさんとガンが並んでる感じ。
C:同じ立ち位置かな?
C:対等って感じ?
T:そうか、2人の関係性が『と』に現れているわけだね。さあ、これから2人がどんな関係にあるのか、大造じいさんはガンをどう見てるのかを解き明かしていきながら読んでいきましょう。
このような教師の問いかけと子どもたちの反応から、単元を貫く課題を生み出す。これを原動力にして読み進めていく。
自問自答の読みの方法を教え、自ら駆使できるようにしていく。第一場面から丁寧に扱っていく。第一場面を音読した後、「今回は、自分の力で読み進めていきます」と宣言する。教師の発問に応えるのに慣れている子どもたちにとっては驚きであろう。
「自分で問題をつくって自分で答えを導き出しながら読み進めていきます」。何となくは理解できるが、どのように読み進めていけばよいのかイメージがもてない子が多くいることだろう。そこで、具体的な読み方の指導に入る。
まずは、会話文に目を向けるようにする。大造じいさんは、一羽のガンを生け捕りにしたとき、こうつぶやく。「ほほう、これはすばらしい」。会話文が出てきたら、「何で大造じいさんは、これはすばらしいと言ったのだろう?」という問いをつくり、その答えを考える。「ようやく一羽ゲットしたから」「自分の立てた作戦が成功したから」。このように自分の読みを全体に出し合いながら深めていく。
次に、行動描写に目を向けるようにする。「……昨日よりも、もっとたくさんのつりばりをばらまいておきました」などの行動描写に線を引き、「どうして大造じいさんは、昨日よりも、もっとたくさんのつりばりをばらまいておいたのだろう?」などのように自問し、答えを導いていく。「必ずまたとってやる」「この作戦なら成功するに違いない」「ひょっとしたら、リーダーである残雪をも仕留められるかもしれない」。
対話的な学びによって、大造じいさんの期待や願いを読み取る。
最後に情景描写を意識させる。詳しくは、先述した通りの手順を踏んでいけば自分で見つけられるようになる。これらの3つの目の付けどころを自覚しながら他の場面を自力で読んでいけるようにしていく。最初は、一つの場面を3つぐらいに分け、順に自問自答したところを出させながら読み深めていくようにすればよい。徐々にこのやり方に慣れてきたところで、一つの場面全体を扱い、同じ箇所で書いた子の考えを束ねていきながら読みを広げたり深めたりしていくようにする。
各場面の自力読みと協働の読み広げ、読み深めを終えたら、次は全体の読みに入る。一場面から四場面へと移っていく中で、大造じいさんの残雪への見方・考え方がどう変容したのかを捉えていくのである。
子どもたちは、先のノート例で紹介した通り、一時間の授業の中で、各場面の自力読みから協働の読みを経た終結部で、人物のものの見方・考え方グラフに点を打っている。その点をすべての場面でどこに打ったのかを確認する。そして、どう変わってきているのかを対話的な学びで深めていく。
「ただの鳥からライバル的な存在になってきている」「『英雄』と言っているぐらいだから、もはや鳥ではなく人間として見ているのではないか」「題名には、『と』と書いてあるから対等な関係を表しているのかと思ったけど、自分より上だと感じているんじゃないか」「もしも、上だとしたらもう一度闘おうとは言わないのでは」「いや、闘うことで残雪に追いつき、追い抜かそうとしているのかもしれない」
このように全体の流れの中でどう見方・考え方が変化してきているのかを、題や各場面とを関係付けることで捉えていくのである。ここでのポイントは、根拠となる叙述を明確にしながら話し合うことである。また、話し合いの収束が点にはならないということを意識しながら行方を見守る。
物語の読みにおいて肝要なのは、自分でテキストに向き合い解き明かしていくことのできる力を獲得させていくことである。そのために、新しい学習教材と向き合ったときに、今回はどんな読みの方法を新たに身に付けさせていくのかを、教材研究の段階で明らかにしておかなければならない。前回までの読みの力を活用しつつ新しい方略を定着させていく。その繰り返しのスパイラルが、自立した読み手を育てるのである。
もう1つ、重要なことがある。それは、細部の読みと全体の読みのバランスを取りながら取り組みつつ、相互の往還を経ることによって、深い学びに到達させていくことである。今回は、細部の読みが「自問自答読み」であり、全体の読みが「人物の見方・考え方グラフ」である。細部で読み取ったことを全体につながるグラフに活かす。グラフから考えたことをさらに細部の読みに目を向けることでさらに深めていく。このつながりを授業の中で大事にしていきたい。
藤田 伸一(ふじた・しんいち)
神奈川県・川崎市立土橋小学校
全国国語授業研究会理事/全国大学国語教育学会会員/日本国語教育学会会員
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