「どうぶつ園のじゅうい」で「読む・書く」力をつける授業づくり
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執筆者: 青山 由紀
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「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、土台となるのは「学習者主体の授業」です。学習者が問いをもって追求していったり、積極的に言語活動に取り組んだりする授業と言うことができます。ともすると、特別な授業のように思われがちですが、教科書教材を核として、学習者主体の複合単元・総合単元をつくることは、決して難しいことではありません。
本稿では、「どうぶつ園のじゅうい」という読むことの説明文教材に、子どもの「身近な名人を紹介したい」という思いをつなげ、読むことと書くこと、さらにインタビューといった話すことも含めた総合単元をご紹介します。
「学習者主体の授業」を構想することが、言葉の力をつけ、問題発見力や学習構想力、学習調整力などの資質・能力を育みます。私は「学習者主体の授業」を実現するために、次の点に留意して単元づくりを行っています。
「どうぶつ園のじゅうい」は、獣医である筆者が自分の一日の仕事について時系列で説明した文章です。〈はじめ・中・おわり〉の三部構成で、〈中〉の部分に仕事内容が述べられ、筆者がしたこととその理由が説明されています。
説明文ですが、「ひとあんしんです」「ようやく長い一日がおわります」のように、筆者の思いや心情が記されている点が特徴的です。
本教材は、学習指導要領の【読むこと】、第1学年及び第2学年「ア 時間的な順序や事柄の順序などを考えながら、内容の大体を捉えること」に対応した教材です。けれども、「どうぶつ園のじゅうい」について読むだけに終わらせず、時間的な順序にしたがって説明する文章を書くことで、より確かな力を身に付けさせたいと考えました。
2年生が本教材をまねして書く内容としては、仕事が適しています。とはいえ、将来なりたい職業にすると、本やインターネットによる調べが主となり、2年生が時系列で整理・再構成して書くには難しいものです。単に仕事を説明するのではなく、その子らしさが表れる文章を書かせたいと思いました。
そこで、生活科の町探検で行っていた「身近にいる名人を探し、その人や仕事を紹介する」ことを題材として、これを単元のゴールとしました。実際に働いている人にインタビューして、情報を集めるのです。子どもたちに投げかけると、「ぜひ紹介したい」「やろう、やろう」と意欲を見せました。インタビューの方法は、既に生活科の「スーパーとコンビニの違い調べ」で活動済みでした。また、メモのとり方についても、話す・聞く単元の「ともだちをさがそう」(光村図書二上)で学習していました。説明文を書く準備となる言語活動について、経験済みであったことが、抵抗なく取り組む意欲を喚起したようです。
7月に「どうぶつ園のじゅうい」の学習を始めたため、子どもたちは夏休みを利用して、名人探しとインタビューを行いました。「まなびポケット」(本校使用のプラットフォーム)を利用して、そこに「お豆腐づくりの名人(豆腐屋さん)を見つけたよ」「人形焼きの名人の仕事を紹介しようかな」などと自発的な書き込みも見られました。こうして、互いに情報交換をしながら各自調査をしていきました。
9月、仕事を紹介する文章を書くために、「どうぶつ園のじゅうい」でまねできそうな説明の仕方を見つける学習を経て、文章化しました。
・生活科…「町探検」「『スーパーとコンビニの違い調べ』インタビュー」 | |
第 一次 |
「どうぶつ園のじゅうい」を読む(5時間) |
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・生活科…「身近な名人探し」を始め、単元のゴールイメージをもつ | |
第 一次 |
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・夏休み…インタビューを行い、まとめる | |
第 一次 |
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第 二次 |
名人の仕事について説明する文章を書き、交流する(⑥〜⑧) |
初読後、「いくつの仕事について説明されているか」を尋ねると、2つから7つまで意見が分かれました。7つの仕事について述べられていますが、日記を書くことやお風呂に入ることを獣医の仕事ではないと読み誤ったり、〈動物に行った治療〉と〈それ以外〉の2つと数えたりした子どももいました。〈毎日すること〉と〈その日だけしたこと〉の2つと数えることもできます。
「仕事の数」の立場を決めさせたことで、「本当はいくつなんだろう」「自分の考えを説明したい」「2つという考えはどんな数え方をしたのか、話を聞きたい」などと読む目的をもたせ、より詳しく読もうという意欲を喚起することができました。この段階では、「仕事の数や内容」が子どもの知りたい情報です。
2時間目のはじめに、時間の順序で説明されていることと、時を表す言葉を確かめました。その後、2段落の最初の仕事についてのみ、したことと理由が説明されていることを押さえ、仕事の数を考える一人読みを行わせました。
これまでの「どうぶつの赤ちゃん」や「たんぽぽのちえ」などの学習経験から、ノートに表を作り始める子どもが多く見られました。そこで、新たにマッピングのかたちに整理する方法も教えました。「じゅうい」を中心語に、〈段落番号・とき・…〉と放射状に広げていくのです。
表とマッピングの2種類から、子どもは自分で選んでまとめていきました。表を選んだ子どもも、〈段落番号・とき・したこと・理由〉に加えて、〈場所〉〈動物〉という項目を立てるなど、それぞれが工夫してまとめました。
読み取る内容は同じですが、自分でまとめ方を選ぶことは、主体的な学び手を育む第一歩となります。
視覚的に情報を共有する
本教材で説明されている仕事は、〈毎日すること〉と〈その日だけしたこと〉の2つに大別されます。〈その日だけしたこと〉に着目し、さまざまな「ある日」がある中で、筆者はなぜこの日を選んだのかを考えると、事例は筆者の意図によって選択されていることが分かります。
このことに気付かせるため、テキストとデジタル教科書(光村図書)の資料映像を比較させました。ここで使用した資料映像は、筆者が動物園で仕事をしている様子を撮影したものです。動物園の中を見回ることと日記を書くことは共通していますが、治療している動物や治療内容は異なります。
映像を見た途端に、子どもたちは教科書との共通点や相違点を指摘し始めました。複数正答型の問いのため、たくさんの子どもが発言できました。自分では気付かなかった意見にいくつも出合うため、友達の意見を聞くのも楽しいようでした。
学年が上がるにしたがい、考えは複雑化します。そのため、言葉の空中戦に陥りやすく、徐々に話についてこられなくなる子どもをつくってしまいがちです。そこで、視覚的に情報を共有して聞き手の助けとする必要があります。構造的な板書もその1つです。
上記の板書は、どんな仕事をいつ行ったのか、一日の中で、いつ、どんな仕事をしていたのかを視覚的に捉えられるよう、時計を使って示したものです。時計に近い内側には教科書で説明されていた仕事を、外側には資料映像の仕事を貼っていきました。
板書を見ながら子どもたちは、資料映像の方が治療した動物が少ないことや、生死に関わる内容が少ないことを指摘しました。
ここで、「なぜ筆者は資料映像の『ある日』ではなく、教科書の『ある日』を選んだのだろう」と尋ねました。すると、「教科書の『ある日』の方が大変だったから」「みんなに、『獣医の仕事は大変なんですよ』ということを知ってもらいたいんだと思う」「動画の『ある日』では、『これで、ようやく長い一日がおわります』という文に合わない」などの意見が出されました。最後には、「例は、筆者が読者に伝えたいことに合わせて選ばれている」とまとめることができました。
取材した名人の仕事について、メモを基に、子どもたちは次のような紹介文を書き上げました。
①パン屋さんのしごとをしょうかいします。
②朝の五時にお店に来て、パンをやきます。きじは、前の日の正午までに作ります。なぜかというと、きじ作りはとても時間がかかるからです。(略)一日に八百個ぐらいのパンをやかないといけないので、七、八人の人がパンを作ります。(略)
⑤閉店後、あまったパンをれいとうこに入れて、やきがしにしています。そのわけは、パンだとしょうみきげんがみじかく、やきがしにすると、しょうみきげんが長くなるからです。(略)
⑦これを毎日つづけるのです。 (○数字は段落番号)
教材文の書き方をまねて、時系列で仕事の説明をしています。さらに、「したこと」と「理由」を意識的に書き分けていることも分かります。
次の紹介文は、より教材文に似た書き出しとなっています。
①わたしは手作りのパン屋の店長です。わたしのしごとは、手作りのパンを作って、ちいきの人たちによろこんでもらうことです。ある日のわたしのしごとをしょうかいします。
②朝、わたしのしごとは、深夜2時からはじまります。なぜかというと、朝7時半のかい店時間に間に合うようにパンを作るためです。(略)
仕事をしている人の視点で書くのではなく、伝聞スタイルで書いたものも見られました(下記、下線参照)。交流する中で、子どもたちもそれに気づくことができました。
①わたしの知っている名人は、南あさがやのびようしさんの○○さんです。○○さんの毎日をしょうかいします。
②朝、かい始前に、ぎんこうに行きます。なぜかというと、おきゃくさんにわたすおつりをもってくるためです。(略)
③お昼すぎ、女の子がきました。カットをしにきたようです。さいしょはどんどん切っていって、あるていど切れたら、細かく切っていくようにするそうです。(略)
⑧へい店は七時。これでやっと長い一日がおわります。 (傍線筆者)
「学習者主体の授業」は、単元全体の流れを総合的に捉え、授業づくりを構想し、展開することで実現できると考えます。それには、まず目の前の子どもをよく見る必要があります。学習者の興味・関心や学習経験、他教科と関連づけられそうなことを見極めます。最も大切なのは、言葉の力において既に使えるようになっている力、新たに身に付けたい力、定着させたい力を把握し、バランスよく組み合わせることです。このように、私たち教師の進むべき道標はいつも学習者の中にあります。
青山由紀(あおやま・ゆき)
筑波大学附属小学校教諭
全国国語授業研究会常任理事/日本国語教育学会常任理事/光村図書小学校『国語』『書写』教科書編集委員
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
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