物語の構造をシンプルに捉え、主題へと迫る読みの授業
|
執筆者: 石原 厚志
|
単元名:登場人物の変化を中心に読み、物語をしょうかいしよう
教材:「プラタナスの木」(光村図書 4年)
「プラタナスの木」の授業づくりを紹介します。本教材は、中心人物の心情の変化が捉えにくいなどの理由で、多くの先生方が授業づくりに悩んでいるのではないでしょうか。
今回は、石原厚志先生(立川市立新生小学校)に、物語の構造はシンプルに捉えつつ、「心情の変化」を「ものの見方の深化」として読むことで、主題に迫ることができる読みの授業づくりについて、ご提案いただきました。
「あいまいでない国語の授業を目指したい」と思っている私の耳に、「この教材はどう扱っていいのかよく分からない」「正直なところ、ちょっと困ってしまう」という声がしばしば聞こえてくる。それが文学教材「プラタナスの木」である。その理由としては、以下の3つが考えられる。
確かに、そのような感想をもつ読者が多くいることも理解できる。特に2)「中心人物の変化」については、中心人物の変化を、「心情の変化」という視点で捉えようとするとハードルは高くなる。
本提案では、物語の構造をできるだけシンプルに捉える中で、登場人物の複雑な心情を読み取り、変化のきっかけとの因果関係を読み取ることを目指している(下図1)。その際、「心情の変化」を「ものの見方の深化」と捉え直し、「物語を通して中心人物(マーちん)のプラタナスの木(自然)への見方や考え方は、何をきっかけに、どのように変わっているのか」という読み方をすることで、物語の主題へと迫る読みができるのではないだろうか。
「プラタナスの木」は、「マーちん」を中心とする4人組が、いつもの遊び場であるプラタナスの木のある公園で、おじいさんと出会い、プラタナスの木の存在の大きさを実感する物語である。また、中心人物(マーちん)以外の登場人物も個性的で面白い。登場人物それぞれの特徴と、場面による登場人物の行動の違いにも着目させて読み進めさせたい。
本教材は、三人称視点で語られ、物語を進める語り手がいる。この語り手は、中心人物「マーちん」に寄り添うような視点で語っている。そのため、読み手は、自然とマーちんの視点に同化しながら、共感的に読み進めることになる。同学年である登場人物たちと、自己の経験とを重ね合わせて想像しやすい物語であるという特徴をいかし、取り組ませることができるであろう。
物語を通して、マーちんたちの、自然に対する見方や考え方が変容していく。しかし、どう変わったのか、またそのきっかけについては直接的には描かれていない。だからこそ、物語に描かれた登場人物の状況や行動、会話文など、複数の叙述を結び付け、自分なりの考えを形成することができるだろう。
〔知識及び技能〕
様子や行動、気持ちや性格を表す語句の量を増し、語彙を豊かにすることができる。⑴オ
〔思考力、判断力、表現力等〕
登場人物の気持ちの変化や性格、情景について、場面の移り変わりと結び付けて具体的に想像することができる。C⑴エ
登場人物の行動や気持ちなどについて、叙述を基に捉えることができる。C⑴イ
第一次 |
|
第二次 |
|
第三次 |
|
「プラタナスの木」がマーちんにとって、どのような木であるのかを考えることを通して、中心人物のものの見方の変化に気付き、一文で書き表すことができる。
マーちんは、初めと終わりで変わった?
プラタナスの木は、マーちんにとってどんな木?
「プラタナスの木はマーちんにとってどんな木なのか」という発問を投げかける。新たな視点をもって物語を読み直すことで、叙述の中にある言葉のつながりを根拠や理由として見付けられるようになる。
5場面について考える際には挿絵(切りかぶに乗って両手を広げるマーちんたち)から吹き出しを出させたワークシートを用いて、マーちんたちの思いを言葉に表現させた上で考えさせるのも効果的である。
例1)はじめは、プラタナスの木を「ただの木」としか思っていなかったマーちんが、プラタナスの木を大切なものだと思うようになる話
例2)はじめは、自然のことにあまり興味がなかったマーちんが、自然に興味をもつようになる話
1場面と2場面には、マーちんから見たプラタナスの木がどのような木であるのかが、叙述として書かれている。そこからは、マーちんがプラタナスの木を、「ただそこにある、一本の木」としてしか見ていなかったことが分かる。それに対して3場面では、おじいさんの話の回想の中で思い出される大切な存在であり、4・5場面では、マーちんの行動の対象として描かれている。
その叙述を、マーちんのプラタナスの木への思いと結び付けて考えることができれば、マーちんの心情の変化を「プラタナスの木の見方の変化」として捉えることができたと言えるのではないだろうか。そして、学習課題は次時の「そのようにものの見方が変化したきっかけは何か。」へとつながっていく。
マーちんのものの見方が変化したきっかけを考えることを通して、中心人物の変容との因果関係を捉え、短い文で書き表すことができる。
プラタナスの木への見方が変わったきっかけはどの場面にある?
2場面…おじいさんの話を聞いたこと
(理由)
おじいさんの話はいつもおもしろかったと書いてあって、よく覚えていると思ったから。
「ふうん。」と声を出して聞いていて、納得していると思ったから。
3場面…祖父母の家で、大きな台風を経験したこと
(理由)
台風の音を聞きながら、おじいさんのことを思い出したと書いてあって、次の日にもおじいさんの言葉を思い出しているから。
実際に台風を経験して、おじいさんの言葉の意味を実感したと思うから。
4場面…プラタナスの木が切りたおされたこと
多くの子どもが2場面、3場面を選択し、根拠や理由について話し合う中で、おじいさんの話を聞いたことと、台風の中でおじいさんの言葉の意味を、身をもって知ったことがセットできっかけになっているのだという方向に話がまとまっていく。そこで次のような発問で子どもたちの思考をゆさぶる。
じゃあ、4場面のプラタナスの木が切りたおされたことは関係ないよね?
すると、子どもたちは、切りかぶだけになってしまったプラタナスの木と、最後のマーちんたちの行動を結び付けて考え始める。
「森の木は大丈夫だったから、マーちんはプラタナスの木も大丈夫だと思っていたと思う。それなのにたおれてしまったからショックは大きかったと思う。」
「おじいさんの話を覚えていたマーちんたちは、プラタナスの木が公園を守ってくれたと思ったんじゃないかな。だから今度は自分たちがプラタナスの木を守ろうと思って、ああいう行動をとったのだと思う。」
以上のように、きっかけについて考えることで、さらに中心人物の変容についての読みを深めることができる。
例1)はじめはプラタナスの木を「ただの木」としてしかみていなかったマーちんが、おじいさんの話を聞き、台風を体験したことで、植物が自分たちの生活を守ってくれていると思うようになる話
例2)はじめは、植物に興味のなかったマーちんが、おじいさんの話を聞き、台風の体験を通して、自然の強さやありがたさを実感し、自分たちも自然に恩返ししようと思うようになる話
本時の中で提示した「3つのきっかけ」はどれもが正解である。もっと言えば物語全部が、中心人物の変容のきっかけとなっている。つまり、本時で大切なことは、きっかけを考えることを通して、より深く中心人物の変容を読み取ることである。
第3時から本時(第4時)までの流れの中で、物語の主題に迫るための土台は十分に整えられているのではないだろうか。
石原 厚志(いしはら・あつし)
東京都・立川市立新生小学校
全国国語授業研究会監事
新教材「宇宙への思い」は、宇宙そのものへの感想や気持ちが表れている箇所が実は少なく、宇宙での経験や研究(事実)を通して、地球や身近なことの未来をどのように考えたのか(願い)、について最後に述べられていることが特徴的です。 本教材について、田中元康先生(高知大学教育学部附属小学校教諭/高知大学教職大学院教授)に、文末と主語に着目して読み、著者の述べている考えと事実を整理していく学習活動について提案していただきました。根拠に基づいて自分なりにまとめるため、より友だちと考えを共有し、読み深めたくなるでしょう。
授業で物語を読む楽しさは、その作品のおもしろさや主題について語り合うことにあると考えています。そのような読み手を育むことを目指して、1年生から系統的に読み方を身につけさせています。また、近年は読み方だけではなく、自ら「問い」をもち、それを追究していく学習構想力や自己調整力を培うことも意識しています。 そこで、「海の命」(立松和平 作)を中心教材とした6年生の物語単元では、子どもたちが課題を挙げ、自分の解決したい課題を選択し、互いに交流しながら主題に迫っていくように構想しました。
第4回 国語授業アップデートセミナー 開催日:2024年12月26日(木) 09:00〜12:50 公開授業と2本の講座は必見!これからの授業づくりが楽しくなります。こくちーずよりお申し込みください。
今回の5分でわかるシリーズは、佐藤圭先生(東京都・足立区立千寿小学校)に、子どもが主体となる国語の授業をつくるために、押さえておきたい指導技術のアイデアについて、ご紹介いただきました。教師が「待つ」「聴く」「受け止める」から、子どもたちも同じようにふるまえるようになる、ということが大切ですね。
2025年春 NHK朝の連続テレビ小説のモデルで話題のやなせたかし氏について、本教材ではその生い立ちからアンパンマンに込めた思いまでを説明しています。筆者である梯久美子氏は、やなせ氏と親交のあったノンフィクション作家であり、その書きぶりは、事実を基にした書き手の視点と、やなせたかしの気持ちの変化を書き分けていることが特徴的です。 今回は安井 望先生(神奈川県・横須賀市立夏島小学校)に、本教材の授業づくりにおいて、自分ならどこが一番重要な場面であると考えるのか、色紙にまとめることをゴールに、目的意識と主体的な読みが育まれるような仕掛けをご提案いただきました。
今回は松岡 整先生(高知大学附属小学校)に、本文との出合いを工夫し、新しい事柄と自身との認識のずれを生みだすことで、より主体的で探究的な読みが進むといった、当事者意識から深まる授業づくりの工夫をご紹介いただきました。