『ひみつのたからもの』 ー「自分はまわりと違うかも…?」そんなあなたにそっと寄り添ってくれる一冊
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執筆者: 牧園 浩亘
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書名:ひみつのたからもの
作・絵:豊福まきこ
出版社:BL出版
出版年:2024年
ページ数:32
自我が芽生えた子どもたちは、同時にまわりの目が気になるようになります。「自分はまわりから浮いてないかな」「変な人だと思われたくないな」そんな心配をして、自分らしさを発揮できないでいる子どももいるのではないでしょうか。 今回ご紹介いただいた絵本では、「多様性を認め合う」ことの大切さ、素敵さを感じることができます。どの子も自分らしくいることのできる学級づくりをめざすきっかけづくりのできる一冊です。
ネコだけが住む、静かなネコの村に暮らすぼく。村のみんなはとても仲良し。そして、ぼくもみんなが大好きです。でも、そんなぼくには誰にも言えない「ひみつ」がありました。
みんな集まっての食事の時間。「おいしい!」「さいこう!」そう言ってお魚を食べるネコたち。でも、ぼくはお魚を食べません。「ネコなのにおさかながきらいなんて」「へんなやつだなぁ」ぼくのもとには、そんな声が聞こえてきます。ぼくがおさかなを食べない理由は・・・・・・。
そんなぼくが出会った、もうひとりの“へんな”ネコ。ふたりは、それぞれの好きがきっかけで意気投合。ふたりがそれぞれの「好き」を分かち合う時間は、まるでたからもののようです。
「自分はまわりと違うかも…?」そんな気持ちを抱いたことはありませんか。きっと、そんなあなたの心にそっと寄り添ってくれる一冊です。
共感「まわりから理解されない“ひみつ”の たからもの』」
読者のみなさんには「たからもの」といえるものがあるでしょうか。そして、その「たからもの」は、誰かに紹介したい(できる)「たからもの」でしょうか。
『ひみつのたからもの』に登場するぼくは、魚を食べません。だから、まわりのみんなからは「ネコなのに魚が嫌いなんてへんなやつ」だと思われています。でも、本当は魚が嫌いなのではなく、大好きなのです。大好きだから食べられないのです。家で大切に飼っている魚たちを、本当は誰かに見せたい気持ちでいっぱいなのです。自分が大切にしているもの、好きなものを「ひみつ」にする。そのひみつの意味は、なんなのでしょうか。
「〇〇なのに、~なんか好きなの?」「そんなものなにがいいの?」「〇〇が好きって変なやつ」
こんな言葉を言われた経験、みなさんも一度はあるのではないでしょうか。もしかしたら、教室の子どもたちも同じような経験があるかもしれません。だからこそ、最終的に自分の好きを紹介し合えたぼくたちに、共感して、あたたかな気持ちを覚えることでしょう。
多様性「互いの違いを認め合い、分かち合える楽しさ」
ネコの村はみんな仲良しです。それにもかかわらず、自分の「好き」がまわりと違うことを「変」だと思われ、打ち明けられずにいるぼく。
このような状況は、子どもたちの世界にも存在するのではないでしょうか。多様性の大切さがいわれる現代においても、本当の自分を出せずに悩んでいる子は少なくないのではないでしょうか。
絵本の中で、ぼくが勇気を出して自分の秘密を打ち明けることができたのは、同じような境遇の仲間との出会いです。
本書を読むことで、自分の好きを打ち明けられないまでも、肯定したり、自信をもったりすることができるのではないでしょうか。また、互いの違いを知り、認め合い、分かち合える楽しさを知るきっかけづくりもできるかもしれません。
変さ値「学級集団のバロメーター」
初めて本書を読んだとき、私が尊敬する先生から教えていただいたことを思い出しました。今でも学級づくりで大切にしている考え方です。 「『変さ値』の高い集団づくり」
よい集団であればあるほど、みんなが自分の変なところが平気で出せる。その変なところを、うまく生かすことで集団を活性化したり、質を高めたりすることにつなげることができる。
だから、子どもたちの個性を伸長させるには、互いが変なところを出し合い、認め合える教師の心構えと集団の雰囲気づくりが大切なんだよと教えてもらいました。
逆に、よくない雰囲気の集団は、「自分らしさ」=「変なところ」を出してしまうと、からかわれたり、いじめられたりするため、一般受けするような面だけしか出せなくなる。本書を読み終えた後、「実は…」「今まで言ってなかったけど…」そんな声が聞こえてきたらうれしいですね。
絵本を提示する前に「たからもの」と板書します。「みんなは、宝物ってあるかな?」と、それぞれの宝物を想起させ、可能であればその宝物を交流します。
交流を終えた後、板書に「ひみつの」と書き加えます。「秘密の宝物って、どんな宝物だろうね?」と、絵本の内容を知りたくなるように題名の提示を工夫したうえで、絵本の表紙を見せます。
美しい風景や、生き物の描写が魅力的な絵本です。ぼくの表情の変化とあわせて、注目させながら、ゆっくりとページをめくっていきましょう。
「ぼくには、ひみつがある。」「『うん…。ぼく、おさかなはたべたくないんだ』」「ちがうんだ、ぼくは ほんとうはー」などの部分では、子どもたちの自然なつぶやきが出てくるでしょう。
子どものつぶやきをみんなで共有しながら読み進めることで、みんなで作品の世界観をより深く味わうことができます。
牧園浩亘(まきぞの・ひろのぶ)
大阪市立巽南小学校教諭
教育サークルREDS大阪/全国国語授業研究会/日本国語教育学会/日本授業UD学会/授業UD教育士(国語)
