5分でわかる 「半歩先を目指した自分に残る読みの力」の育て方 教科書の学びを広げる物語文指導の工夫
|
執筆者: 安井 望
|
前に学んだ読みの力が、新しい教材で子どもたちが活用できていない、といった悩みを国語授業でもったことはありませんか?
今回の「5分でわかるシリーズ」は、安井 望先生(神奈川県・横須賀市立夏島小学校)に、教科書の学びを、関連教材へとつなげ、「転移する読みの力」へと接続させられるような、「半歩先」の読みの力を育む指導の工夫について、ご執筆いただきました。6年生教材「帰り道」の実践例を通して解説されます。
国語科の授業では、学年を追って繰り返し「読むこと」の指導が行われている。しかし、現場の教師が直面するのは、「過去に学んだ読みの力が、新しい教材で活かされているのか」という現実である。その原因として3点挙げる。
第一に、指導内容の定着不足である。繰り返し指導を行っているにもかかわらず、4年生の「ごんぎつね」や5年生の「大造じいさんとガン」で学んだはずの視点や心情理解などの読みの方略が次の作品では話題に挙がりにくい。
第二に、読書習慣との関連である。朝日学生新聞社(2023)の記事の中では、平日に読書をしない児童生徒が半数程度にのぼることが指摘されており、読書習慣の定着に課題があることがうかがえる。子どもの約半数が日常的に本を読んでおらず、学校での「読解」と日常の「読書」が乖離していると考える。
第三に、学びの実感についてである。系統性が見えにくいため、子ども自身が自分にどのような力が身に付いたのかを実感しにくく、学びが十分に積み重なりにくいという課題があると考えている。
教科書で学んだ知識や技能を単なる教室内での学習で終わらせず、子どもが自ら「読める」という実感をもちながら、それを生活や日常へとつなげていく力をつけることである。
具体的には、学習指導要領にある「日常的な読書」や「考えを広げること」という高い目標(ゴール)へいきなり到達しようとするのではなく、段階的な学びの状態として捉える。
教科書教材「帰り道」で学んだ「読みの方略」を、別の作品で試す場面を設定した。
本実践で扱う帰り道は、同一の出来事を律と周也の2人の視点で同じ出来事が描かれる構成となっている。また、一人称視点で語られる教材がもつ親近感や自分の経験と重ね合わせやすい特徴がある。その構成に着目し、「視点の転換」について学習した。
教科書には、同じ作者である森絵都さんの「あしたのことば」に「風と雨」という、構成が似ている作品が収録されている。これらをセットで提示することで、子どもたちは自ら「これも視点が変わっている!」と気づき、進んで物語を読む姿が見られた。
教科書で学んだ力を別の場面でも発揮させる「学習の転移」を意図的に仕掛けることで、実感の伴う半歩先を目指した自分に残る読みにつながる。
授業での一場面を以下に取り上げた。
このように、教師が「視点」という言葉を示し、別の教材でも繰り返し問い返すことで、子どもは「この力は他の物語文でも使えるかもしれない」という手応えをもち始める。
単元の終末には、2作品に登場する4人(律・周也・風香・瑠雨)の中から最も共感する1人を選び、ICTを活用して「性格分析図鑑」を作成する言語活動を設定した。
子どもの振り返りからは、登場人物に自分を重ねて捉える読みが見られた。例えば、「私は周也派。自分から積極的に話しに行くタイプであり、静かな場面が苦手だからである」「私は律派。自分の意見をあまり発表できず、優柔不断なところが自分と重なる」といった記述がみられた。
また、「性格が対照的な2人を設定することで、それぞれの違いがみえて、物語のおもしろさにつながっている」といった、作品の構成に着目した記述も確認された。
このように、登場人物と自分を関連づけて捉えることにより、子どもは物語を自分事として読み深めていることがうかがえる。さらに、物語における視点の転換を意識することは、日常生活においても「相手の立場に立って考える」というメタ認知的な視点の獲得にもつながるのではないだろうか。
以上のことから、教科書教材を入り口とし、関連教材へと学びを広げていく単元構成は、「教室での学び」を「転移する読みの力」へと接続する上で有効であるといえる。
子どもの学びに寄り添いながら授業づくりをしていくことの大切さを改めて感じた。物語のおもしろさを実感した後に、教師がそっと背中を押してあげることで、子どもたちの自立した学びにつながっていくのではないだろうか。
いきなり高い目標を目指すのではなく、まずは「半歩先」に進めるような学びのストーリーを描いていくことが大切であると考える。今後も、教材の特性を生かしながら、時数とのバランスも考えつつ、実践を積み重ねていきたい。
【引用・参考文献】
安井 望(やすい・のぞみ)
神奈川県・横須賀市立夏島小学校
東京・国語探究の会/授業UD学会
