自分を問い直す一冊
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執筆者: 山根真由美
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書名:訂正する力
著者名:東 浩紀
出版社:朝日新書
出版年:2023年
ページ数:243
教師として、人として、経験を積むほど、考えや価値観は変わっていくことは当然です。でも実績を積んで安定すればするほど、その変化を認め、受け入れることはときに難しくなるのではないでしょうか。今回は、前に進むために必要な「訂正する力」について考えさせられる一冊をご紹介いただきました。
教師として出合う必読書には、「自分を支え続ける、教師人生のバイブル」と「今、この自分が必要としている一冊」があると思う。この本は、私にとって後者である。
教育書はもちろんのこと、一見異質な存在である、スポーツにおける組織論や、哲学的な考えが書かれた本、ビジネス書からも、教育に関わるヒントが見つかることが多々ある。
教職ではない仕事に就く友人と話したとき、驚くべき発見があるように、自分の凝り固まった当たり前を打破する手がかりをもらえたり、価値づけてもらえたりする。
この本は、これからの子どもたちに必要な力は何か、子どもたちと接する自分はどんな見え方ができればよいのか、「考える」刺激をくれた一冊である。
まず、日本には、「変化=訂正」を嫌う文化があると書かれている。
確かに、教師としての時間を重ねてくると、「これで大丈夫」と安心して新しい方法を模索しなくなったり、「自分はちゃんとやっているのに、なぜ結果がでないのか」と困っていても変えることが難しかったりする自分がいることに気付く。
おそらく子どもたちにも同様のことが言えるだろう。
本書では、「ものごとを前に進めるために、現在と過去をつなぎなおす力」が「訂正する力」であると述べられている。
立ち止まっているであろう私や子どもたちには、気になるワードである。
では、「訂正する力」とは何か。
本書は、その「訂正する」力を、様々な言葉や事例で表現して定義づけている。
「教師としての自分だったら」「今の子どもたちに必要な力とは」と、自分なりに解釈しながら、自分の実践や悩みに置き換えて考えることができた。
本書を読み、教育と重ねて考えたキーワードの中から、以下の2つに綴って紹介したい。
本書で書かれている「訂正できない土壌」、間違いを認められない場は、こわいと思った。
対立した考えをもつ人と議論したときは特に、本当の意味で相手の考えを聞かず、意固地になって自分を押し通したくなることがある。
もし途中で自分の考え方に変化が生じても、引っ込みがつかないこともある。
教師同士のやりとりで、子ども同士のトラブルの場面で、授業内で、見られることだ。
自分の意見を批判する人は敵で、自分は攻撃されているという認識があるからこそ、自分を守るために「聞けない」「意見を変えられない」のかもしれない。
だからこそ、「相手を信頼する」ということが鍵になると、改めて気付かされた。
この考え方をもとにして話し合いをしていくことを、子どもたちと確認し続けたい。
多様で素敵な子どもたちが生き生きとすごすために、信頼関係を築いて対話し、相手の批判を正しく受け取ることが大切だと実感する。
本書は、「一貫性をもちながら変わっていくこと」「現状をまもりながら変えていくこと」を話題に上げている。
相反する「変わる」「変わらない」の2つが同時に存在することで、「続く力」になるということが、読み進めるにつれて確信に変わった。
上手くいった実践や、子どもたちの前に立つときの指導のルーティン。これでよいと、毎回なぞりがちである。
しかし、目の前の子どもたちも、そのときに置かれた状況も、そのときに求められる力も、まったく同じではない。何を残して、何を変えるか。大切なことは何か。試行錯誤することで、教師としての自分であり続けられるのだろう。
私の解釈で1つの表現をするのであれば、訂正する力とは、柔軟にアップデートできる力だ。
教師としての自分の在り方を、常に問い続けられる自分でありたいと思う。
教育や学校、子どもたちと日々向き合い、悩むからこそ、「何か気になるけれど、遠回りに見える一冊」を手に取ってみてもよいのかもしれない。
山根真由美(やまね‧まゆみ)
関西学院初等部教諭
全国国語授業研究会/日本授業UD学会
