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    5分でわかる 〈空所〉でつくる文学の授業

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    5分でわかる 〈空所〉でつくる文学の授業

    5分でわかる 〈空所〉でつくる文学の授業

    執筆者: 古沢 由紀

    |

    2026年1月29日

    1月号の「5分でわかるシリーズ」は、古沢由紀先生(大阪府・大阪市立柏里小学校)に、想像する主体性を引き出す文意としての余白でありながら、読みの深まりとともに異なる解釈を形成させる、〈空所〉の効果とその構造的役割についてご執筆いただきました。
    後半では、2年生文学教材「ニャーゴ」における、最後の「ニャーゴ」を〈空所〉として取り上げる授業実践例が紹介されます。

    目次

    1. 学習者主体の読みを問い直す 2. 〈空所〉と〈否定〉の機能 3. 〈空所〉を生かした授業づくり 3—1. 「ニャーゴ」における〈空所〉の捉え 3—2. 単元の指導計画と主な発問

    1. 学習者主体の読みを問い直す

    文学の授業において、読者論を重視する流れは、学習者を受動的な読み手から脱却させ、主体的に文学作品を読むことに大きな意義をもたらした。読みの多様性が重視される一方、それがどのように根拠としてのテクストに着目したもので、どのように思考したのかまでは十分に扱いきれておらず、思考を言語化すること(考えを表出すること)自体が目的化している面もある。

    山元(2025)は、「学習の過程で読む行為に対する『メタ認知』を生徒たちがもつことができるようにすることが、自立した読者としての成長につながる」と提起する[ⅰ]。

    こうした視点に立つと、文学の授業において、指導者は学習者自身が作品のどの部分にひっかかりを感じ、どのような問いをもって読み進めていくのか、読みの道筋に着目する必要がある。

    本稿では、イーザーの〈空所〉概念に着目し、それを手掛かりにした教材研究と授業実践を紹介する。
    〈空所〉を起点にすることで、学習者が自分なりの解釈を交流することを通して、読みを深める授業の在り方を考えていく。

    2. 〈空所〉と〈否定〉の機能

    Wolfgang Iser(1926)は1960年代後半から1970年代にかけてドイツで展開された受容美学の立場から、文学作品の意味はテクストにあらかじめ固定的に内在しているのではなく、読者の読書過程によって生成されると提唱した[ⅱ]。 その際、テクストに対する読者反応を中心とした読書行為論を構築し、その中心的概念として提示されたのが〈空所〉および〈否定〉である。
    松本(2015)は次のように述べている[ⅲ]。

    • テクストには本来書かれてしかるべきことがらの中に、書かれていないことがあり、その間を読者が想像力を働かせて埋めつなぎ、一貫した意味をつくり出さなければならない。そうした働きをするテクストの要因・箇所を〈空所〉という。しかし、読者がそのようにして紡ぎ出す一貫した意味を否定するような要素がテクストにはあり、そのような働きを〈否定〉という。読者は〈空所〉を埋めて一貫した意味を紡ぎながら、自らの考えを〈否定〉するテクストの作用によって、自らの読みにおける意味の体制の更新を行う。

    〈空所〉とは、テクストの中に、書かれてあるべきことがあえて書かれておらず、読者がその意味を想像し、補いながら読まざるを得ない箇所を指す。〈否定〉とは、読者が〈空所〉を埋めることで形成した理解に対して、テクストがそれを揺さぶり、修正を迫るように働く機能を指す。例えば、読者が一度つくり上げた読みが、後の叙述や別の視点によって成立しないと気づいたとき、その読みは根拠となるテクストを求めるため、読みが新たに更新されることになる。この〈否定〉とは、読みを妨げるものではなく、むしろ読みを深めるために不可欠な働きである。〈否定〉によって、読者は自らの読みを見直し、より一貫した理解へと組み替えていくことが可能となる。[ⅳ]。

    さらに山元(2005)は〈否定〉の機能に加え、読者の慣習に影響を及ぼす第二の〈否定〉が「読者のものの見方に向かう」として、文学作品の読解が新たな自己形成へとつながる契機になると言及した[ⅴ]。

    〈空所〉に向き合う中で、想像力を働かせながらその箇所の意味を補おうとするが、その補填は自由な想像に委ねられるものではなく、テクストの表現から逸脱しない形で行われる必要がある。そのため、〈空所〉を埋める際に一貫性が保たれない場合、形成した理解は〈否定〉される可能性を常に含んでいる。読者は〈空所〉を埋めて一貫した意味を構成しながらも、テクストに内在する〈否定〉の作用によって、その意味を再構成していく。〈空所〉は主体的な読みの活動を促すとともに、テクストとの相互作用を生み出す機能をもっている。

    〈空所〉は、テクストの欠陥や未完成さを意味するのではなく、読者を読者行為へと誘発する契機として機能する。つまり、読みを無条件に肯定するのではなく、あくまでもテクストの構造によって方向づけられる。この点を見失ったとき、〈空所〉は恣意的に解釈を許すことになってしまうため、学習者が空所の補填を試みながら読みを形成していく学習過程を考える必要がある。

    3. 〈空所〉を生かした授業づくり

    以上の理論を踏まえ、学習者自身の「不思議だ」「ひっかかるな」といった感覚を起点に、〈空所〉を問いとして顕在化させ、テクスト内の関連性を探りながら読みを更新していく学習過程をデザインしたい。

    3—1. 「ニャーゴ」における〈空所〉の捉え

    本実践では、低学年教材である「ニャーゴ」(東京書籍 2年)を取り上げた。本作品における最大の空所は、物語の最後に示される三度目の「ニャーゴ」の意味である。

    物語冒頭と中盤に示される「ニャーゴ」は、文脈から比較的明確に意味づけることができるが、最後の「ニャーゴ」は、たまが子ねずみたちを食べなかったという結果のみが示されており、その内面や意図は明示されていない。このため、読者は最後の「ニャーゴ」をどのような言葉として受け取るかによって、たまの行動理由も異なって理解することになる。

    つまり、「なぜ食べなかったのか」という問いの前に、「最後の『ニャーゴ』とは、どんな言葉だったのか」という〈空所〉の存在が明るみになり、これまでの読みを更新する〈否定〉の箇所としてはたらき、物語理解の結節点となる。

    3—2. 〈空所〉を起点とした単元の学習デザイン

    本授業では、最後の「ニャーゴ」を〈空所〉として扱い、学習者が自分なりの言葉でテクストやこれまでの展開と照らし合わせながら読みを更新することを通して、読みが形成されていく過程そのものを学習の中心に据える。
    以下に、その単元構成と発問の工夫を紹介する。

    • 【単元構成のポイント】
    • 繰り返し用いられる「ニャーゴ」という言葉に着目し、場面によって意味や言い方が変化することを捉える。会話文や行動を関連づけて読み、最後の「ニャーゴ」を自分の言葉に言い換えることを通して、ねこが子ねずみたちを食べなかった理由を考える。

    • 〈第一次〉 
      ❶ 範読を聞いて、感想を伝え合う 
    • T   物語を読んで、心に残ったところはどこですか?
    • C   ねこが子ねずみを食べなかったところです。

    • 【発問のポイント】
      多くの学習者が結末場面に関心をもつことで、後の学習課題への見通しをもたせる。

    • 〈第二次〉 
      ❷ 音読を通して、1つ目の「ニャーゴ」を考える 
    • T  この「ニャーゴ」は、どんな声で読むとよいでしょうか。
    • C  ニャーゴ
    • T  どうして、そう読んだのですか?
    • C  こわがらせて、あとで食べようとしているからです。

    • 【発問のポイント】
      「ニャーゴ」の意味を直接問うのではなく、ねこの行動や場面の様子と結び付けて、声の調子や強さから心情を想像させる。

    • ❸ 音読を通して、二つ目の「ニャーゴ」を考える
    • T 1つ目の「ニャーゴ」と、同じですか?
    • C もっとこわがらせようとはりきってると思います。
    • C 少し迷っている感じがします。

    • 【発問のポイント】
      同じ言葉であっても、状況によって意味や意図が変わることに気付かせる。前の場面との比較を通して、読みの深まりを促す。

    • ❹ 最後の「ニャーゴ」を考える
    • T  この「ニャーゴ」を、みんなの言葉にすると、ねこは何と言っていますか。
    • C  桃を分けてくれて、ありがとう。
    • C  最初は食べようと思っていて、ごめんね。
    • C  もう食べないよ。

    • 【発問のポイント】
      言い換えを通して、ねこの心情を多面的に捉えさせる。発言ごとに、どの叙述と結び付いているのかを確かめ、読みの根拠を明確にする。

    • ❺ 題名の「ニャーゴ」を考える
    • T この物語の題名の「ニャーゴ」は、どの「ニャーゴ」だと思いますか?
    • C 最後の「ニャーゴ」だと思う。たまの気持ちが一番こもっているから。

    • 【発問のポイント】
      題名に立ち返ることで物語全体をふり返り、最後の「ニャーゴ」が物語の中心となっていることに気づかせる。

    • 〈第三次〉空所の具体化(音読劇)
    • ❻・❼ 物語に描かれていない心情や会話を考える
      最後のニャーゴに着目し、ねこや子ねずみたちの気持ちを想像しながら、会話文や心情を考える。

    • ❽ 付け加えたお話を生かして、音読発表会を行う
      考えた心情や会話を生かし、読み方や動作を工夫して音読発表を行う。

    この授業では、「ニャーゴ」の最後の一言に立ち止まることで、〈空所〉を起点に、〈空所―補填―否定―更新〉という学習過程が生起すると考えられる。このように、〈空所〉を中心に据えることで、学習者の自由な読みを保障しつつ、読みがテクストに規定されていることも同時に学ぶ、主体的な授業が成立すると考える。



    【引用・参考文献】

    • [ⅰ]山元隆春(2025)「読者反応論―文学教育を問い直す」、藤森 裕治(編著)『国語科における中核的な概念とは何か―その研究的考察』東洋館出版社、p.32.
    • [ⅱ]ヴォルフガング・イーザー(著)、轡田収(訳)(1982)『行為としての読書-美的作用の理論-』岩波書店、p.34.
    • [ⅲ]松本修(2015)『読みの交流と言語活動国語科学習デザインと実践』玉川大学出版部、p.73.
    • [ⅳ]松本修(2015)『読みの交流と言語活動国語科学習デザインと実践』玉川大学出版部、p.74.
    • [ⅴ]山元隆春(2005)『文学教育基礎論の構築 一読者反応を核としたリテラシー実践に向けて』溪水社、p.197.

    古沢 由紀(ふるさわ・ゆき)

    大阪府・大阪市立柏里小学校

    全国大学国語教育学会/日本国語教育学会/国語科学習デザイン学会/全国国語授業研究会/国語教育探究の会/「子どもの論理」で創る国語授業研究会/国語教育伸の会(代表)

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