5分でわかる 「これから」の作文指導 「書くこと」におけるアナログ×デジタルのハイブリッド指導 ―思考は鉛筆で深く、記述・推敲はキーボードで軽やかに―
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執筆者: 遊免大輝
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12月号の「5分でわかるシリーズ」は、遊免大輝先生(大阪府・大阪市立友渕小学校)に、 アナログとデジタルの「いいとこ取り」によって、子どもたちが「書くこと」を楽しめるようになるアイデアについてご提案いただきました。
思考段階では手書きでアイデアを深め、記述・推敲段階ではデジタルの修正しやすさを活かすことで、書く意欲と推敲力を高めます。
目次
「次は、作文の学習です」と告げた瞬間、教室に漂う重たい空気を感じたことはないだろうか。
原稿用紙を前にして鉛筆が止まる子ども。最初の一行目がどうしても書き出せない子ども。そして必ず聞こえてくる「先生、何を書いたらいいかわかりません」「どうやって書けばいいの?」という悲鳴にも似た声。中学年頃から顕著になる「書くこと」への苦手意識は、多くの教師が頭を悩ませる共通の課題である。
子どもたちの「困りごと」を分析してみると、大きく2つの壁が見えてくる。1つは「書くイメージが湧きにくい」という内容生成の壁。もう1つは「文章をどう組み立てればよいかわからない」という構成力の壁である。さらに、まとまった分量の物語を書く経験自体が不足していることも、心理的なハードルを上げている。
そんな中、GIGAスクール構想によって1人1台の端末が整備された。「ICTを使えば、作文嫌いの子どもも変わるのではないか」。そんな期待の一方で、現場には戸惑いもある。「キーボード入力に必死で思考が浅くなるのでは?」「手書きのよさが失われるのでは?」「コピペのような文章になるのでは?」といった懸念である。
実際の作文授業において、市川伸一(1994)はワープロソフトの使用による「構成の甘さ」や「思いつき的な記述」を懸念し、高井太郎(2018)も「文字を書く経験の不足」を指摘している。漫然とデジタル端末を使わせるだけでは、こうした懸念は現実になりかねない。
しかし、デジタルの恩恵もまた計り知れない。細川太輔(2012)が述べるように、コンピュータは「文章の吟味を容易にする」役割を果たすとし、Google for Education(2022)の報告でも、書き直しの負荷が減ることで子どもたちが前向きになり、「書くこと」が日常化したとされている。アナログ(手書き)のよさと、デジタル(ICT)の利点。この互いのよさを「いいとこ取り」するにはどうすればよいのか。本稿では、「書くこと」における「アナログとデジタルの融合」による、新しい作文指導の形を提案したい。
私が提案する「アナログとデジタルの融合」とは、作文のプロセスに応じて媒体を使い分けるシンプルな手法である。具体的には、「内容・構成を考える思考の段階」では手書き(アナログ)を用い、「実際に文章を書く記述の段階と推敲する段階」では端末(デジタル)を用いる。
なぜ、思考段階でアナログにこだわるのか。それは、物語の全体像を構想する際、自由な発想を広げてイメージを可視化するには、手書きの方が適しているからである。特に中学年の段階では、キーボード操作自体に気を取られ、肝心の内容構成がおろそかになるリスクがある。まずは鉛筆を持ち、紙の上でじっくりとアイデアを練る。図や矢印を自由に書き込みながら思考を巡らせる時間が、豊かな物語を生み出す土壌となる。
一方で、構成が決まった後の記述・推敲段階では、デジタルの強みが最大限に活きる。手書き作文において、子どもたちが最も嫌がるのは「書き直し」である。一文字の間違いで消しゴムを使い、用紙が黒く汚れる。構成を変えたいと思っても、「書き直すのが面倒だから」と妥協してしまう。これでは「推敲する力」は育たない。デジタルであれば、修正は一瞬である。文の入れ替えも、削除も、挿入も自由自在。この「失敗してもすぐ直せる」という心理的なハードルの低さが、子どもたちの「もっと書きたい」「もっとよくしたい」という意欲を引き出すエンジンとなるのである。
つまり、
この役割分担こそが、子どもたちの「書く力」を飛躍させる鍵となる。
では、実際の授業(「山場のある物語を書こう」東京書籍・4年)での実践を紹介する。
本単元の目標は、組み立てを工夫して物語を書くことである。そこで私は、アナログと思考を結びつけるツールとして「4コマ漫画」を採用した。
まず、子どもたちは「設定・登場人物・山場」などの要素を考え、構成メモを作成する。そして、そのメモをもとに画用紙に4コマ漫画を描く。
「起・承・転・結」を意識させる上で、4つの枠という視覚的な構造は非常に有効である。
子どもたちは、楽しみながら絵を描き、吹き出しにセリフを書き込んでいく。この段階では文章の巧拙は問わない。物語の「骨組み」をしっかり作ることが目的である。
「3コマ目が一番盛り上がるよ!」
「ここでこんなことが起きたらおもしろいかな?」
友だちと見せ合いながら構想を練る「絵で考える」プロセスが、書くことへの抵抗感を下げていく。
しっかりとした「骨(4コマ漫画)」ができたら、いよいよ「肉(文章)」を付ける段階である。ここからはGoogleドキュメントを使用する。子どもたちは、自分の描いた4コマ漫画を横に置き、その世界を文章に変換していく。「書き方ミニレッスン」として、オノマトペや心内語、会話文の効果的な使い方を指導した上で、記述に向かわせた。「先生、もう1000文字超えました!」「まだ書きたいことがある!」という声が教室のあちこちから聞こえる。
4コマ漫画という設計図があるため、書く内容に迷いがない。さらに、デジタル特有の修正の容易さが、「間違ってもいいからどんどん書こう」という安心感につながっているようであった。
書き上げた物語をクラスの友だちと共有し、互いに読み合ってコメントを付け合う。デジタルのコメントは修正を強制するものではなく、あくまで「提案」や「質問」として機能する。
「この場面の気持ち、もっと詳しく知りたいな!」
「『うれしい』じゃなくて、飛び跳ねるような様子を書いたらどう?」
「ここの山場、ドキドキ感が伝わってくるよ!」
友だちからのコメントは、子どもたちにとって大きなモチベーションになる。指摘された箇所をその場で修正し、よりよい表現を模索する。個人での推敲、友だちとの相互推敲、そして再度の個人推敲。このサイクルを回すことで、文章はみるみる洗練されていった。
「書くことは苦しい」から「書くことは楽しい」「もっと書きたい」への変容は、ICTというツールがあったからこそ実現できたものである。
思考はアナログで深く耕し、記述はデジタルで軽やかに広げる。このデジタルとアナログの融合こそが、「これから」の作文指導のスタンダードになっていくのではないだろうか。子どもたちの「書きたい」という思いに火をつけるために、ぜひ全国の先生方の教室でも、鉛筆と端末の「いいとこ取り」を試してみてほしい。
【参考文献】
遊免大輝(ゆうめん・だいき)
大阪府・大阪市立友渕小学校
東京・国語教育探究の会(会員)/「立体型板書」研究会(事務局長)
