期待感の高まりとともに学級が一つになれる一冊
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執筆者: 岩田千代香
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書名:11ぴきのねことあほうどり
作・絵:馬場のぼる
出版社:こぐま社
出版年:1972年
ページ数:40
ロングセラーであり大人気シリーズ「11ぴきのねこ」の一冊です。親しみやすく、滑稽なねこたちの様子とお話の展開をみんなで楽しみながら読み合ってみましょう。
「11ぴきのねこシリーズ」の中では2番目に登場した物語です。
コロッケの店を出したねこたち。お店が繁盛したのも束の間、売れ残ることが多くなり、コロッケばかり食べて飽き飽きする日々。
そんな中、お腹を空かせたあほうどりが目の前に現れ、ねこたちは思わずよだれが…鳥の丸焼きをお腹いっぱい食べることを夢見るねこたちの作戦はいかに?!
ねこたちの思惑が手に取るように分かる表情や行動に、思わずクスッと笑いが込み上げてしまう一冊です。
本屋さんに立ち寄ると、「ねこ」が主役の絵本がたくさん並んでいて、その愛嬌たっぷりの姿に思わず手に取ってしまうのは私だけでしょうか。
なぜ「ねこ」が絵本で活躍するのか…それは、きっと、幼少期の子どもたちにとって親しみやすい動物であり、どこか気まぐれで、好奇心や欲望のままに行動しがちなイメージがあるからでしょう。
そして、ちょっぴりドジでクスッと笑える失敗をしてしまう…そんなねこたちの滑稽でかわいらしい姿や、無鉄砲で欲望のまま奇想天外な行動をしてしまうところに、魅力を感じてしまうからではないでしょうか。
「11ぴきのねこシリーズ」は、数あるねこの本の原点のように感じます。現在も数多くのグッズが店頭に並んでいるのを見ると、世代を超えて数多くのファンがいることを感じます。私もその一人です。物語を読んだ子どもたちが、「ほらぁ、欲張るからそんなことになるんだよぉ。」と、言いたくなるようなお話ばかりです。
本作も、ねこたちが食欲を満たそうと作戦を立て、うまくいくと信じてよだれを垂らしているところに、予想を裏切るラストを迎えます。
ねこたちの思惑をよそに、噓の親切を最後まで信じている、のんびりしたあほうどりもまた、魅力的な登場人物の一人です。
1ページ、1ページ、めくるたびにねこたちの期待は高まり、それとともに、読み手も「くるぞ、くるぞ。」という、ねこたちの思惑に反する結末への期待感が高まる…。
だから、何度も繰り返し読みたくなる。そして、おもしろさをまだ知らない誰かに伝えたくなる、そんな絵本だと思います。
誰しもが幼い頃に、わがままを通そうとしたり、自分の欲望のままに行動したりしようとすることを経験し、失敗をしてきたことでしょう。
「ずる」をしたら、痛い目をみる!読み手にとってわかりやすい失敗を恐れずにやり遂げてくれるねこたちの結末を、子どもたちは第三者として楽しみ、またお兄さんお姉さん目線で見守ることができます。自分の失敗はさておき…。
ぜひ、「どうなると思う?」「どうしてこんなことをしたのかな?」「見てこの表情!なんて言っているだろうね?」「みんなならどうする?」などと、問いかけながら読み、自分事としてイメージを膨らませ、物語の世界に浸らせてあげたいですね。
そして、言わずもがなですが、ラストの「11わぁ!」に向けて、ねこたちと読み手の一体感を大切に、「1わ、…」から、期待感を徐々に膨らませながら一緒に数えていくお約束のルーティンは、学級で繰り返し読む中でも大切にしたいですね。
一体感を大切にしながら読み進めていくことで、一緒に本を読む時間や学級を包み込む空間自体が、子どもたちにとって温かく、心地よいものになるはずです。
居心地のよさは、どの子にとっても居場所がある安心感につながり、さらには一人一人の読書の楽しみ方にもつながっていくのではないかと思うのです。
子どもたちの反応や表情を一つ一つ確かめながら、自分もその学級の輪の一員としてそこに存在する・・・すると、いつの間にか、読んでいる私自身も、温かい空気に包まれ、自然と笑顔になっていることに気づくのです。
岩田千代香(いわた・ちよか)
北海道・神恵内村立神恵内小学校教務主任
