
言葉に目を向けることの大切さに気づかせてくれる1冊
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執筆者: 藤田 伸一
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書名:小学校 読みの指導における日本語
著者名:小松善之助
出版社:教育出版社
出版年:1982年
ページ数:332
今月の「教師の必読書」をご紹介いただくのは、藤田伸一先生(神奈川県・川崎市立中原小学校)です。藤田先生自身が国語の授業づくりに悩まれたとき、その道筋を照らしてくれた名著との出会いがあったそうです。国語教師としてのバイブルとなったその1冊をご紹介いただきました。
目次
国語の読みの授業で「叙述に基づいて」や「言葉を押さえて」などと言われることがよくある。
全くその通りだ。物語の授業で言えば、言葉を大事にしない想像は、空想に近いものになってしまう。説明文の授業で言葉を無視した解釈は、単なる主観的な見解や感想に陥ってしまうであろう。
そういう授業にならないようにすることが重要だということは、誰しもがわかっている。
しかし、〇〇年前、教師に成り立てだった私には、どうすれば言葉を押さえた読みの授業ができるのかさっぱりわからなかった。
その必要性は理解していても、どのように実践していけばよいのか皆目見当がつかない状態だったのである。
そこで、さまざまな民間教育団体で学ぶことにした。
今回薦める本の著者は、小松善之助氏である。
徹底的に言葉の機能と教材を結び付けて研究をされた方である。私が、長い間学ばせていただいた児童言語研究会の恩師だ(私が勝手に思っているだけだが)。
研究会で学ぶ傍ら、その先生の本を片っ端から読破していった。その中に本書が含まれていた。
当時悩んでいた「言葉を押さえて読む」ことの答えが、本書の中にあった。
目のつけどころと、言葉の働きや効果をしっかり意識して授業に臨むことの大切さが見えてきたのである。
本書では、文学と説明文双方の目のつけどころ(どの言葉を押さえるのか)が、あらゆる学年において扱われている。
文学の例を少し挙げてみることにする。「会話文」「接続語」「文末」「比喩」「副詞」「慣用句」などの機能が説明されている。
説明文では、「問い」「冒頭」「展開」「結び」「文末」「定義」「引用」「指示語」「資料」などの働きや効果が解説されている。
ここに示したもととなる言葉が、低・中・高学年で整理され掲載されている。そのため、最初から目を通してもよいし、自分が必要なところから読むこともできるようになっている。
分厚い本ではあるが、選択しながら読めば気楽にページに目を落とせる。
例えば、中学年の説明文のまとめの段落に必ずと言ってよいほど出てくる「このように」の働きを、定番教材である「ありの行列」を使って説明している。
この文章の冒頭(序論)には、「なぜ、ありの行列ができるのでしょうか。」という課題提起がある。つまり、この結論の前半は、(今回引用されている教材には、後半部が入っている)序論の課題をいくつかの実験で追求した“解答”を「このように」で受け、論旨を要約しているのだ。
「このように」が、何を受け、どのような働きをしているのかが手に取るようにわかる。
このことを、本書で初めて読んだとき、「中で明らかになった『解答』がまとめられているのか。序論とも密接につながっているんだ。」と、衝撃を受けたことを覚えている。
一例のみ挙げたが、このような感動は、本書に於いては一度や二度ではない。教材研究をするたびに、授業を行うたびに抱いてきた。
何となく字面を読んで理解してきたつもりになっていたことが、言葉として見えるようになったのである。ぼやけていた視界がクリアになった感じだ。
やがて本書は、私が教材研究をするときになくてはならないものとなった。
「この教材では、どの言葉の働きを子どもたちにつかませていこうか」と、明日の授業を子どもたちとつくっていくことが楽しみになっていったのである。
そして授業が終わると、「この言葉の機能は一体何だろう」とまた本書を読み返し、新たな発見をしていった。何度も何度も繰り返し読むことによって、言葉を見る目が養われたのだと思う。
この本に載っている教材は、かなり古いものになった。しかし、どの言葉に目をつけ、その働きや効果を捉えさせていくのかという提案は、いまもなお色褪せてはいない。
久しぶりにこの本を読んでみようと思う。また、必ずや新しい言葉の深みを見出すことだろう。
藤田伸一(ふじた・しんいち)
神奈川県・川崎市立中原小学校教諭
全国国語授業研究会理事/全国大学国語教育学会会員/日本国語教育学会会員
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