
教師とは何かを教えてくれる1冊
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執筆者: 大江 雅之
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書名:新編 教えるということ
著者名:大村はま
出版社:筑摩書房
出版年:1996年
ページ数:236
今月の「教師の必読書」をご紹介いただくのは、大江雅之先生(青森県八戸市立城北小学校)です。子どもへの絶対的な信頼と愛情、その裏側には「教師という職」に対する矜恃と強い責任感で自らを律していた大村はま先生の、珠玉の言葉が編まれた著書をご紹介いただきました。
現在、本書の帯には次のような文言が記されている。
この一文がすべてを物語っている。本書は単なる教育書にとどまらず、育児書としても再評価されている。その理由は、大村氏が一貫して児童を「自分の子ども」と同じように捉えているからにほかならない。
現代の学校現場は、教師の多忙化、多様化、求められる役割、責任の重さなど、年々その厳しさを増している。
そのさなかにいて、心が疲弊し
こうした言葉を胸に押し込めながら、笑顔をつくり、「教師」という役割を演じている先生もいるだろう。「自分の子ではない、他人の子だから」と割り切り、指導の責任を先送りにしてしまう場面も少なくないのかもしれない。
しかし、大村氏にとっては、「学級の子」と「自分の子」のあいだに区別はない。先に生まれた者として、これから未来を生きていく子どもたちに必要な力を身につけさせることが、当然の教師の務めだと考えている。
だからこそ、やさしい教師や物わかりのよい教師を演じるのではなく、あえて「厳しい教師」を演じることに覚悟をもっている。
本書は、初心を育てようとしている若い教師だけでなく、かつての初心を忘れかけている教師にも読んでもらいたい。
そして、教師に限らず、未来を担う子どもたちに責任をもつすべての大人に手に取ってもらいたい一冊である。
本文から、大村氏の言葉と、それに触れて感じたことをいくつか紹介したい。本書の雰囲気や、大村氏の思想を掴む参考になるだろう。
教師の「楽しい」という感覚に対する疑問
この言葉には、教育という仕事の厳しさ、そして教師に対する社会的敬意が失われつつあることへの危機感が込められている。学校という場には、互いを許しすぎ、甘えが蔓延し、言い訳が横行し、責任を取らない文化が根づいてしまっているのではないか。その危機感から、大村氏は警鐘を鳴らしている。
教材と出会った子どもの姿
戦後の混乱期、授業すら成立しにくい状況のなかで、大村氏は疎開の荷物から百の教材を作り、一人ひとりに渡したという。そのとき、子どもたちは文字通り「食いつくように」学んだのである。その姿から、「個別最適な学び」という現代の教育の基本に通じる考え方が読み取れる。
「静かにしなさい」という言葉の意味
教師であれば、毎日のように口にするこの言葉。
だが、大村氏にとっては敗北の言葉であり、無策の末の最後の一言だと捉えている。
能力がなく、方法も見つけられず、ついに手が尽きた末の「静かにしなさい」。
この言葉に、教師としての責任と省察が凝縮されている。 この言葉に触れるだけでも、教室での声かけが少し変わるかもしれない。
本書は、「〜の習慣」「〜大全」「〜365日」といった項目ごとの実用書ではない。
それでも、どの見開きにも必ず一つ、教師としての学びがある。 講演の記録をベースにしているため、語り口はやわらかく、文体は平易で読みやすい。文が自然に流れて頭に入ってくるのが特徴だ。
大村氏の講演に直接触れる機会はなかったが、本書を読むことで、講演を聞いているような臨場感を味わうことができる。声の抑揚や表情、話の間が目に浮かぶようで、語りの力を強く感じさせる。
大江雅之(おおえ・まさゆき)
青森県八戸市立城北小学校 教頭
全国国語授業研究会顧問
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