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読後感から始まる国語科授業づくり① -4年生「白いぼうし」—
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執筆者: 弥延 浩史
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文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。
文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。
教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
初発の感想と違い、読後感は大変シンプルなものである。次のように指示をして書かせる。
子どもたちが最初にその作品に出合ったときの「感覚的」な読みが読後感には表れる。初発の感想のように長く書く必要もなく、文章を書くことが苦手と感じている子どもも抵抗なく取り組むことが可能となる。導入で全員が参加できるような方法をとることは、その後の学びの推進力ともなっていくことは言わずもがなであろう。
筆者は3年間(4年生から6年生)、国語科の授業を受けもった子どもたちに、文学作品と出合ったときには読後感を起点とした学習を展開し、どのような効果があるのかを検証してきた。
次に示す板書は、6年生の最後の単元である、「海のいのち」(東京書籍)での読後感である。
2時間続きの授業としておこない、「読後感を書く」「書いた読後感を基に交流する」という流れであった。そして、この読後感を基にしながら、追究していきたい問いをつくり、学習を進めていった。
子どもたちから出される読後感は、「中心人物の変容から」「結末場面から」「表現技法」の3点であることが多い。次に示す板書からもそれが見て取れるだろう。
これは、3年間「読後感を起点に学習をしてきた」結果であるとも言える。
では、初めて読後感を書き、それを起点に学習していく場合は、どうなるだろうか。
4年生の「白いぼうし」(光村図書)を基に、述べていくこととする。
第一次 | 読後感を書き、交流する(2時間) |
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第二次 | 問いを解決し、作品のおもしろさをまとめる(3時間) |
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第三次 | 「車のいろは空のいろ」シリーズを読み、感想をまとめる(2時間) |
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まず、上記のように単元を計画した。
子どもたちは、「読後感を書く」という活動はもちろん初めてである。そこで、先述した読後感を書くときの条件を伝えて書かせた。
なお、板書に示されている読後感の下にある数字は、人数である。つまり、全員が自分の読後感が何であるかを伝えていることになる。このように、全員が「授業という土俵の上」にあがっていることが大切である。
授業は、特定の5、6名が話をつないでいけば、それだけで何となく成立してしまうものである。これに、あと1、2名が加われば活発な議論がおこなわれているように思えてしまうこともある。
では、そのとき、他の多くの子は何をしているだろうか。授業という土俵の上にあがることはできているだろうか。自分の考えをもっていたとしても、言わない、もしくは言えない・・・・・・。そんな状況になっているということはないだろうか。
そうした学級は、次のような状況に陥っている。
これを打破するための方法としても読後感を書くということは効果的である。
まず、読後感はひとことであるため、長い文章を書くことに抵抗がある子どもでも書くことができる。そして、全員の読後感が出そろったところで、「聞いてみたい読後感は何か」と問いかける。
すると、まずは少数派の読後感に対して「聞いてみたい」という手が挙がる。それについて、「なぜ、その読後感にしたのか言える?」と、読後感の理由を問うのである。ノートに理由が書かれている場合は、それを発表すればよい。仮に書かれていない場合は、その場で考えていることを話すことになるが、何となくでも子どもは考えをもっているし、それを伝えることをよしとすればよい。そうすれば、必ずと言ってよいほど、その読後感にした理由は何なのか述べることができる。
ここでの教師の役割としては以下のようになる。
「白いぼうし」は、女の子の正体がちょうなのではないかと考えていくことに、教材としての価値があると考える。それは、叙述を根拠にして読んでいくことができること、松井さんの人柄など人物像にふれることができるからである。
しかし、それを教師から先に示すのではなく、子どもの声から引き出していくのである。これが「学びの必要感」である。そのため、女の子の正体にふれる読後感については必ず扱うようにし、板書で視覚化するのである。
今回、子どもの側から出された読後感の中で、「何で」というものが聞いてみたい読後感としてあがった。授業者としては、「これは、おそらく女の子の正体についてふれたものだろう(何で女の子は消えたの?)」と予測した。
しかし、これを書いた子どもは、「何で松井さんは夏みかんを置いたのかな」というものだった。子どもの読みがまだ浅い段階なので、このような発言も出てくる。
それに対して、「それはさ……」とつぶやく子どもがいた。
その子が、読後感を「やさしい」としていて、「ちょうのかわりに夏みかんを置いた松井さんのやさしさ」を理由としてノートに書いていたため、「それはさ……? 何か言いたいことがあるみたいだね」と教師がつなげた。
その子は、「ぼくの読後感はやさしさだけど、それは松井さんが男の子の捕まえたちょうを逃がしてしまったかわりに、夏みかんを置いたからだよ」と発言した。
そこで、「松井さんは優しいんだ」と問い返すと、「優しいよ」「他にも……」と言う子どもたちがいたので、「他にも?」と返した。
こうすることで、子どもたちは口々に自分の考えを述べたり、そこまでまとめたノートを見返したりする。このやりとりを続けることで、次のような学級の雰囲気(学びがクラスの中に生まれる土壌)が醸成されていく。
さて、こうしたやりとりの後に、問いづくりである。
「この読後感から、みんなでどんなことを話し合っていけるかな」と問いかけた。子どもは板書で書かれたことを基に、まずは考える。問いについては、「近くの人と相談して決めたい?」と聞いたところ、「そうしたい」という子が多かったので、近くの人と話しながら考えた子どもたちもいた。
多くが、
・女の子の正体は、本当にちょうなのか
という問いだったのに対し、次のような問いもあげられた。
この2つは、「女の子=ちょう」と仮定して読んでいくことで、叙述を根拠に自分の考えをつくっていくことができるだろうと判断した。
また、松井さんはどうして夏みかんを置いたのかという読後感のやりとりから、次のような問いも生まれた。
・松井さんは、どんな人って言えるのかな
つまり、人物像に対する問いである。
これを基に第三次でおこなう活動の、「お話のおもしろさ」の中に、「松井さんがどんな人物と出会い、どんなことを考えたか」を加え、最終的には「松井さんについて、読み手としての自分はどんなことを感じたのか」ということを書く活動へとつなげていくことができた。
弥延 浩史(やのべ・ひろし)
筑波大学附属小学校教諭
筑波大学非常勤講師兼任/全国国語授業研究会常任理事/東京書籍小学校国語教科書編集委員/明日の国語授業を語る研究会共同代表
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