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リフレクション型国語科授業の展開 ―立てた問いでの読み合い、その授業展開―
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執筆者: 白坂 洋一
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リフレクション型国語科授業は、「問いづくり →読み合い →問いの評価」を位置づけて展開しています。
前回は、物語「ごんぎつね」を例に、どのように問いを立てていくのか、「問いづくり」に焦点を当てて授業展開を紹介しました。具体的に、「問いづくり」の授業の実際と、そこでの教師の関わりについて、知っていただけたかと思います。
今回は、立てた問いが単元にどのように位置づいているのかを紹介することで、リフレクション型国語科授業の全体像を、また、問いを基にした読み合いに焦点を当てた授業展開の実際を紹介していきます。
まず、「問いづくり →読み合い →問いの評価」がどのように単元に位置づき、展開されているのかについて紹介します。以下に示す物語「ごんぎつね」の単元計画をご覧ください。
第一次 | 「ごんぎつね」を読もう!・・・・・・・1時間 |
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第二次 | 問い日記をつくろう!・・・・・・・・・6時間 |
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第三次 | 「私」を語ろう!・・・・・・・・・・・1時間 |
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単元計画の第二次をご覧いただくとお分かりのように、「問いづくり →読み合い →問いの評価」の3時間が1セットとなって、2回繰り返されています。1回目の「問いづくり →読み合い →問いの評価」を通して、2回目ではまだ分からない、さらに読み合いたいことを、問いとして立てて、読み合い、そして、評価していきます。
前回の私の連載と併せてご覧いただくとお分かりのように、リフレクション型国語科授業は、教師の「教え方」ではなく、学習者である子どもの「学び方」に力点を置いています。2回繰り返すことで、サイクルを創り出しています。つまり、「学びのサイクル」です。実際の授業展開では、教師と子どもが一緒に授業を省察(リフレクション)することに注力します。
このリフレクション型国語科授業は、これまでの国語科授業の枠組みとは異なるものだといえます。
次に、物語「ごんぎつね」での読み合いの授業展開について、実際の板書も併せて紹介します。ここでは第二次のサイクル1回目の、問いを基にした読み合いの授業が中心になります。
問いづくりでは、「ごんの本当の心はいたずら心か、やさしい心か?」に決まりました。
この問いについて、まず教材分析という視点から、検討していきましょう。
物語「ごんぎつね」では、「いたずら」がきっかけとなって、ごんは、つぐないを重ね、そして結末部分で兵十に撃たれ、くりや松たけを持ってきていたのがごんであると気付いてもらえます。また、この「いたずら」は、「ひとりぼっちの小ぎつね」という中心人物、ごんの設定に関わります。つまり、立てた問いが教材の特性と重なるという点が、「問いづくり」の特徴といえるでしょう。
そのため、話題としては、つぐないのきっかけとなる第2場面や、最後に兵十に撃たれる第6場面に焦点化され、さらには、いたずらとひとりぼっちの関係についてまで展開することが想定されました。
実際の授業では、1時間を次のような構成で展開しています。
3-1.本時の問いの確認・小グループでの読み合い
3-2.全体での読み合い
3-3.本時の問いについて自分の考えをまとめる
授業の導入では、前時に立てた問いを確認するとともに、前時の終末でまとめた振り返りを紹介し、本時の学習への意欲を高めていきます。学級全体として、本時の問いに向かおうとする学びの意欲が高まったところで、読み合いへと移行します。
読み合いでは、例えば、3人や4人で小グループをつくって、問いについて読み合い、話し合う時間を取っていくとよいでしょう。小グループでの読み合いを取り入れることで、一人ひとりの学習への参加度が高まるとともに、発話量も上がります。
私は、子どもたちが学習形態を選択できるようにしています。学習者である子どもたちが、1人で考えたい、ペアで読み合いたい、4人グループで話し合いたいと、学習の形態を選択できるようにしています。1つの教室空間の中で、ここは1人で考えたい子たち、ここは4人で話し合いたい子たちと、エリアに分けて活動できるようにしています。
このようにすることで、改めて、子どもの学びの姿で気付くことがあります。それは、
子どもの学びの姿は、常に変化をみせる
ということです。
例えば、小グループでの読み合いの時間が15分ほどあったとしたら、その時間の中で、1人で考える子同士でペアをつくったり、1人とペアが一緒になって3人グループを構成したり、4人グループがペアに分かれて話し合ったりと変化する姿が見られます。これは本時の問いへの意識の高まりがあるからこそ、柔軟性(フレキシブル)のある活動になるといえますし、このことが多様性のある学びを展開するための足がかりとなります。
全体での読みの交流では、小グループの読み合いを通して分かったことや考えたこと、話題になったことだけでなく、まだ分からないことを出していきます。本時の板書が以下の通りです。根拠となる本文は白で表しながら、矢印(→)などを用いながら、言葉同士を関連づけるように板書しています。
「いたずら心か、やさしい心か」という問いを基に、ごんの行動描写や会話文に着目した発言が展開されていきました。
板書をご覧いただくと分かるように、例えば、「あんないたずらしなけりゃよかった。」とごんが後悔していること、それからつぐないとして、くりや松たけを持っていくことになったことなど、第2場面が話題となりました。
また、加助と兵十が話すことを聞いて、ごんが「引き合わないなあ。」と思ったこと、そして、第6場面では再び、ごんは兵十の家に向かうことが話題となりました。さらには、「あのごんぎつねめが」とあるように、第6場面は兵十の立場(視点)から物語が語られていること、そして、ごんと兵十のすれ違いが明らかとなって、最後は「ごん、おまえだったのか、いつも~」の部分で兵十とごんが通じ合えたことが話題となりました。
これらは発問を中心とした授業展開で、教師が教えたい内容と重なります。むしろ、発問を中心とした授業展開以上のことを学ぶことができます。例えば、板書に「ひがん花がふみおられている」とありますが、ここが取り上げられたことによって、「これはごんの心を表しているのではないかと思う」と情景描写に気付きはじめ、2回目の問いづくりでは、最後の一文「青いけむりがまだ~」の情景描写に着目した問いがつくられていきました。
一方、全体での読み合いの中で、子どもたちが目を向けていないこと、話題に取り上げられないことがあります。そのときが教師の出番となります。本時では、「いたずら」は話題になったものの、ひとりぼっちとの関連については話題になりませんでした。そこで、ひとりぼっちに目を向けるために、教師の方で子どもたちに次のように問いかけていきました。
「なぜ、ごんはここまでする必要があったんだろうか?」
この問いかけによって、
「ごんはずっと1人で、寂しくて悪いことをしてでも、自分のことを見てほしかった」
「ごんは1人、孤独だったから、孤独を癒すためにやってたんじゃないか」
「いたずらが、やっていくうちにどんどんどんどんエスカレートしていった」
と、関連づけがなされていきました。
授業の終末では、本時の問いに立ち返り、個々で自分の考えをまとめていきます。全体での読みの交流を通して、問いに対する自分の考えを、ノートやWordファイルなどにまとめていきます。ここでの活動が次時の「問いの評価」に関わってきます。
今回は、リフレクション型国語科授業を問いを基にした「読み合い」に焦点化して、紹介しました。
「問いの評価」の場面については、次回、詳しく紹介していきます。
〔引用・参考文献〕
石井英真(2020)『授業づくりの深め方 「よい授業」をデザインするための5つのツボ』ミネルヴァ書房
鹿毛雅治(2019)『授業という営み 子どもとともに「主体的に学ぶ場」を創る』教育出版
小山義徳、道田泰司編(2021)『「問う力」を育てる理論と実践 問い・質問・発問の活用の仕方を探る』ひつじ書房
田近洵一(1993)『読み手を育てる―読者論から読書行為論へ』明治図書出版
竜田徹(2014)『構想力を育む国語教育』渓水社
ダン・ロススタイン、ルース・サンタナ著/吉田新一郎訳(2015)『たった一つを変えるだけ クラスも教師も自立する「質問づくり」』新評論
松本修、西田太郎(2020)『小学校国語科 〈問い〉づくりと読みの交流の学習デザイン 物語を主体的に読む力を育てる理論と実践』明治図書
香月正登、白坂洋一(2022)「学習者側からの目標設定に関する実践的研究~国語学習意識の質的変化に着目して~」(第142回全国大学国語教育学会/自由研究発表資料)
白坂洋一(2022)「問い日記をつくろう!」(第85回国語教育全国大会(オンライン)/授業資料)
香月正登・白坂洋一・小泉芳男・古沢由紀・木原陽子(2023)「主体化する国語科授業の目標設定~言葉を学ぶ習慣的思考を中心として~」(第145回全国大学国語教育学会/自由研究発表資料)
白坂洋一(2023)「リフレクション型国語科授業の展開 ―「ことばの学び」への自覚化を促し、学びを見守る伴走者としての教師の立ち位置 ―」(学習公開・初等教育研修会2022年度版/授業資料)
※本研究は公益財団法人博報堂教育財団による第18回児童教育実践についての研究助成を受けたものです。
白坂洋一(しらさか・よういち)
筑波大学附属小学校教諭
全国国語授業研究会理事/学校図書国語教科書編集委員/『例解学習漢字辞典』(小学館) 編集委員/「子どもの論理」で創る国語授業研究会会長
今月の5分で分かるシリーズは、小崎景綱先生(埼玉県・さいたま市立新開小学校)に、扱いに困りがちな詩の単元を、ICTを用いて、言葉にしづらい詩の解釈を視覚化することで、誰でも簡単に楽しく詩の世界を理解し、共有できるようになるアイデアをご紹介いただきました。
記事を読む教材「新聞を読もう」(光村図書・5年)は、光村図書の教材、2年「みの回りのものを読もう」や3年「ポスターを読もう」などと同じ系統に位置づき、複数の文や図を読み比べることで、筆者の、読み手に合わせた説明の工夫やその目的について学習することができます。 今回は後藤竜也先生(東京都・調布市立八雲台小学校)に、子どもたちが学習のつながりを意識できるように、計画的に既習の内容を押さえていく授業づくりの工夫をご提案いただきました。
記事を読む今回は、山本純平先生(東京都・江東区立数矢小学校)に、新教材「『給食だより』を読みくらべよう」の授業づくりについて、ご提案いただきました。 本教材は、全く異なるアプローチから書かれていながら、同じ目的をもつ2つの文章を読み比べる内容です。 手持ちのポイントを割り振るという活動を通して、どちらの文章がよりよいか教材に向き合いやすくし、割り振った理由を定量的に説明する必要から、子どもたちは一つひとつの言葉を積極的に吟味するようになります。
記事を読む教材「たずねびと」(光村図書・5年)は、「原爆供養塔納骨名簿」に自分と同姓同名の名前を見つけたことから、「楠木アヤ」について気になった主人公の綾が、彼女について尋ねるうちに、普通に暮らす多くの人が亡くなった原爆の悲惨さや、それを忘れないでいることの大切さに気付いていく物語文です。 今回は小泉芳男先生(広島県・広島市立袋町小学校)に、「問いをつくり、決定し、問いで読み合い、問いを評価することで、あらためて問いを考える」といった、一連の探究のサイクルを繰り返すことで、「自分事の学び」を創ることのできる授業について提案していただきました。
記事を読む本年度より登場した「紙ひこうき、きみへ」(教育出版 3年)は、しまりすキリリの、風のようにふわりと現れ、居なくなってしまったみけりすミークとの友情と揺れ動く気持ちが描かれ、読み手もどこか遠くにいる友人に思いを馳せたくなる物語文教材です。 今回は沼田拓弥先生(東京都・八王子市立第三小学校主任教諭)に、プロフィールカードをまとめる言語活動を通して、物語文学習において重要となる人物像を読み取る力が、子どもたちにしっかりと身に付く、単元づくりをご提案いただきました。
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