様々な「対話」で授業をつくる -文学作品を読む-
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執筆者: 弥延 浩史
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国語科の授業で陥りがちなことがある。それは、積極的に対話している姿から、「対話によって子どもの思考が深まった」と短絡的に判断してしまうことである。
例えば、ここで研究授業後の協議会の場面を想像してみてほしい。
「積極的に子どもたちが対話していて素晴らしかった」というような意見が出たとしても、それが対話の質的な面と結び付いているかどうか疑問符がつくことはないだろうか。また、形式的に対話している姿はあったが、話している内容は果たして深まりのあるものだったか疑問符がつくこともある。
対話と聞くと、「目の前にいる自分とは別の誰かと話し合い、意味を共有し合うこと」というように捉えがちである。もちろん、これも対話であるが、それは狭義の意味であり、国語科における対話はもう少し広くとらえる必要がある。また、会話が「互いに話したり聞いたりしながら共通の話題を進めていく」ということに対し、対話には「相互理解のためのコミュニケーション」という意味合いが強いことも押さえておきたい。
国語科における対話について、「読むこと」の学習で考えると次のように整理することができる。
作品(対象)との対話
一人一人が、自分なりの既有知識や体験をもとにして対話する。課題を把握したり、自分の考えをもったりすることにつながる。
他者との対話
他者と対話することを通して、新たな考えに気付いたり、考えたことを振り返ったりする。自己の考えを深めていくことにつながる。
作者・筆者との対話
なぜ作者(筆者)は、こう書いたのだろうと考えることにより、自分の考えに新たな視点が加わる。(これも自己の考えを深めていくことにつながるが、高学年向きであると言える。)
これらを意識することで、「どういった場面で」「どのように」対話させていけばよいかが見えてくるのである。
まず、作品との対話は、前回のWEB連載でも示した「読後感」を書くということが挙げられる。読後感とは、いちばん最初に行われる作品との対話である。
これは、6年生「やまなし」の授業で読後感を書き、それに基づいて交流をした時の板書である。
読後感は、個々の感覚的な読みが表出される。その読みには「ズレ」があるものの、共通点があることにも気付く。そこから学習課題の設定などにつなげることができるということは、前回の連載で示した通りである。
こうした作品との対話を学習の起点としていくことで、子ども主体の授業が展開できる。
そもそも、他者との対話に対する意識が育っているかどうかという問題がある。低学年のうちに、そして学級開きの後すぐに、他者との対話ができるようになるためには次のような方法が有効であると考える。まずは、相手意識を育てること、そして聞き手や話し手を育てるために短めの帯活動などを設定するのである。
ペアで対話するためには、まずは「決められたお題について話す」というような活動が手軽に取り組める。お題については「好きな〇〇」や「苦手な〇〇」のようにシリーズ化できるものだと、後々子どもが自分でテーマを選んで対話するときにも生かせる。
ここで、相手意識をもたせるためのポイントは、次の点である。
目線(話し手、聞き手の両方)
相手を見て聞く。相手を見て話す。
表情(話し手、聞き手の両方)
「あなたに向けて話しているよ」「あなたの話を聞いているよ」という意思表示をする。
反応(聞き手)
うなずき、相槌など反応があることで、話し手への安心感を与える。
これを徹底して行い、できていることを価値付ける。上手なペアはモデルとして再話させてもよいだろう。
ペアでの活動に慣れてきたら、次のような方法も有効である。最初に、AさんとBさん、CさんとDさんが同じテーマで対話する。その後、お互いが話した内容を「あなたは、こういうことを話していたよね」とフィードバックし合うのである。また、全体の場で、「隣の人が何を話したか言ってごらん」と説明させてもよいだろう。
高学年になれば、最初の対話の後に、AさんとCさん、BさんとDさんがペアになり、最初の対話の際、相手がどんなことを話したのかを教え合うという形にしてもよい。なぜなら、「後で説明する必要がある」という目的が加わっただけで、聞く意識が変わってくるからだ。ちなみに、よい聞き手がいる学級では話し手が育つ。よって、聞き手から育てていくことを大事にした方がよいだろう。
話し手を育てていくうえで、1年生のうちからできる取り組みがある。日直のスピーチなどがその1つだが、最初はなかなか話せないという子も多い。そこで、オススメする方法が「ランキングスピーチ」である。
例えば、週末の楽しかったことをテーマに、ランキングをつけてスピーチをするのである。自然と、「第1位は~」という言い方を使うようになり、ナンバリングの手法が身に付く。これは、考えを発表したり、書いたりすることにも生かされていく。
ここまでの説明は、ある意味「対話力」の向上のために何をすればよいかという、日々の取り組みについてである。実際に、授業でどのように対話の場面を設定するかについては、どうすればよいか。それは、子どもが対話したくなる場面をつくることである。
例えば、自分と相手の考えにズレがあることが分かったとき、「え? それはどういうこと?」「なんであの子はそのように考えたのかな?」と疑問が生まれる。それが対話につながっていくのである。授業ではこのような考えのズレが表出するようにしたい。先に述べた読後感も、考えのズレが表出されるところである。
そして、教師の問い方もポイントになる。
例えば、「モチモチの木」では、豆太がじさまを呼ぶ場面が4回ある。最初と最後の「じさまあ」は、しょんべんに行くためにじさまを起こすためのものだが、「最初と最後のじさまの呼び方は同じがいい?それとも違った方がいい?」と問う。すると、「同じがいい」「違う方がいい」と考えにズレが生まれる。答えは同じでも、その理由(着眼点)が違うこともある。こうした場面における他者との対話は、自分の考えを深めたり、新たな読みの視点を獲得したりするために有効である。
一方、全て教師主導で対話の場面を設定してしまうことがないよう気をつけたい。 「近くの人と話したい? それとも自分で考えたい?」と聞くことで、子どもたちは自分で学び方を選ぶ。じっくり一人で考えたい子も、近くの人と相談したい子もいるだろう。学び方を選択できるのも、これからの時代を生きていく子どもたちに必要なスキルであると考える。
読後感を起点とした学習を行っていくうえで、学習の最後には、「最初の読後感と今の読後感はどう違うか(それとも同じか)」「その話で自分が最も強く受け取ったことは何か」を問うことにしている。「自分はこう考えたし、このように受け止めたけれど、果たしてこの話を書いた作者はいったいどういう思いだったのだろうか」と。
この思いを解決していくには、同一作家の作品を比べて読んでいくことが有効である。5年生で「注文の多い料理店」を学習し、巻末の伝記「宮沢賢治」を読んだ子どもたち。そして、最終的には宮沢賢治作品の面白さを紹介するために、他の賢治作品と「注文の多い料理店」とを比べながら読む過程で、「宮沢賢治の作品からはこういうことが受け止められる」という観点から、「きっと宮沢賢治はこういうことを読み手に伝えたかったのではないか」という観点へと、自分の読みを更新していく姿が見られた。
ここで紹介するノートは、「やまなし」の読後感であるが、すでに他の宮沢賢治作品と関連付けながら読後感を書き、さらには「この作品を通して賢治は何を伝えたかったのか」という問いを立てている。こうした作者と対話していく読み方も、高学年では大切にしていきたい。
学習の最後は、個のまとめで終えることが多いだろう。私も、第二次の言語活動では読むことを中心軸に授業を展開し、第三次ではそれを生かして表現していく展開につなげることが多い。つまり、読解と表現をつないだ授業を展開するのである。そうすることで、自分が仲間と交流しながら読んだことを基に、それを生かして表現していくことにつながるし、何より相手意識や目的意識をもちながら学習が行われることに大きな意味を感じている。
最終的には、子ども同士が互いの読みを評価し合うことを大切にしている。自分の読みと相手の読みのどんなところが同じで、どんなところが違ったのか。そして、学習を通して何を自分が学んだのか。こうしたことを互いに伝え合っていくのである。これはある意味、「自分との対話」と言えるのではないだろうか。
付箋に互いの読みについてコメントを書いて送り合うということを学級で行っているが、子どもにとって自分の読みがどのように評価されているかということが、次の学習への意欲を引き出している。このように、様々な種類の対話を生かして授業を展開することで、主体的に学ぶ子どもは確実に育っていくと考える。
弥延 浩史(やのべ・ひろし)
筑波大学附属小学校教諭
全国国語授業研究会理事/令和2年度東京書籍小学校国語教科書編集委員
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
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