
5分でわかる指導技術 子どもの思考が動き出す「発問」のスキル
|
執筆者: 白坂 洋一
|
今月の「5分で分かるシリーズ」は指導技術をテーマに、「発問」について学びます。 授業の中で、何をどのように発問するかは、子どもの思考を促す上で大切なポイントです。
具体例を挙げながら、発問づくりの目のつけどころを紹介するとともに、白坂先生の考える4つの発問構成について解説します。
私たち教師は、子どもたちの学習状況に応じて、説明や指示、そして発問などを使い分けながら授業を展開しています。その中でも、発問は教師の「教える」と子どもの「学ぶ」を一致させる指導言の要です。また、子どもの思考を促すとともに、授業において中心的な役割を担う授業技術でもあります。
しかし、国語科の発問は、内容を確認するだけだったり、想像に終始するだけだったりと、教師の解釈を辿らせるような発問も多く、教師の教える筋ばかりが重視されてしまうという課題があります。さらには、目の前にある教材の、何をどのように発問したらよいかわからないという声を聴くこともあります。
そこで、本稿では、発問づくりにおける目のつけどころを1つ、ご紹介します。
日々、授業実践する中で、強くもっている思いは、
授業で「子どもの主体が立ち上がる」瞬間を創る
ということです。その一つの切り口が発問です。このことを忘れると、授業は子どものもとを離れ、教師だけのものとなってしまいます。
では、どう具体化していけばよいのでしょうか。発問づくりにおける目のつけどころの1つに「登場人物を問う」ことがあります。「登場人物を問うことであれば、『登場人物はだれ?』と普段からやっているけれど・・・・・・」という方もいらっしゃるでしょう。どのように発問するか、そのバリエーションも複数持ち合わせておくことがポイントです。
まず、物語文「お手紙」(教科書全社1または2年)での発問を取り上げます。
「好きな登場人物は?」
教材の特性と合わせて、この発問の意図について解説します。
この物語の登場人物は、「がまくん」「かえるくん」「かたつむりくん」の3人です。それぞれの登場人物の言動には、おもしろさとやさしさが重なって描かれています。「好きな登場人物は?」と発問することによって、子どもたちは、登場人物の好きなところに着目して読みます。地の文や会話文を根拠として、人物像を捉える読み方を展開する中で、子どもたちは次第に、登場人物の好きなところから、その人物の役割に目を向けていくことができるのです。
「登場人物を問う」発問は、他の教材でも用いることができます。例えば、物語「帰り道」(光村図書6年)では、このような発問が有効です。
「律と周也、どちらの人物に共感できますか?」
この物語は、2つの場面から構成されていて、それぞれ律と周也、2人の視点から描かれています。「律と周也、どちらの人物に共感できますか?」と発問することによって、子どもたちは次第に、登場人物の共感できるところから、人物像を捉える読みへと目を向けていくことができるのです。「登場人物を問う」発問は、有効な手段の一つです。
さらに、「海の命(いのち)」(光村図書/東京書籍6年)では、このような発問ができます。
「太一に、一番大きな影響を与えたのは誰か?」
この物語では、海を舞台としながら、登場人物との関わりの中で太一の成長が描かれています。そこで、太一の成長と登場人物との関わりを観点に、「太一に、一番大きな影響を与えたのは誰か?」と発問することによって、登場人物の人物像と、その役割に目を向けた読みを展開することができます。
これらの発問を単元の導入部や展開部で使います。下に示す表の【きっかけ発問】や【誘発発問】に当てはまります。
私は国語科における発問構成を次の4つで考えています。
過程 | 教師の側から見た発問の役割 | 子どもの思考の文脈 |
---|---|---|
導入 | 【きっかけ発問】 課題として投げかけることで、学習の方向性を示す |
【考えたくなる】 おもしろそうだな、やってみたいと考え、学びたくなる |
展開 | 【誘発発問】 言葉の問題について、子どもたちの見方や考え方がずれる |
【動き出す】 ずれが見つかって、本当はどうなんだろうと、動き出すようになる |
展開 | 【焦点化発問】 新たな視点を取り入れることによって、本質を捉え、学びを深める |
【立ち止まる】 はっきりさせたい、どうしたらいいんだろうと自ら学びを求めるようになる |
終末 | 【再構成発問】 学びを振り返り、自覚化する |
【意味づける】 振り返って、大切なことを意味付ける |
【きっかけ発問】
必要な内容や情報を確認したり、取り出したりすることを意図した発問です。
課題として投げかけることで、本時の学習の方向性を示す発問でもあります。
【誘発発問】
子どもたちの見方や考え方のずれから問いを引き出す発問です。
言葉の関係性について、子どもたちの見方や考え方がずれたとき、問題化されます。
そのことによって、言葉に対する多面的な見方・考え方が引き出されるようにすることをねらっています。
【焦点化発問】
何がどう問題だったのかが見えてきたところでの発問です。
新たな視点を取り入れることで学びがより一層深くなることを意図した発問です。
教師の発問がきっかけとなって、学びを促進することをねらっています。
【再構成発問】
最後に何が言えるのか、次に生かしたい学びは何かなど、学びの過程を振り返ることで、自覚化し、定着することをねらった発問です。
発問づくりにおける目のつけどころとして「登場人物を問う」ことを紹介しました。教師の側で1つ、目のつけどころを持ち合わせておくことで、教材の特性に応じたバリエーション豊かな発問を創り上げることができます。
〔参考文献〕
鹿毛雅治(2019)『授業という営み 子どもとともに「主体的に学ぶ場」を創る』教育出版
石井英真(2020)『授業づくりの深め方 「よい授業」をデザインするための5つのツボ』ミネルヴァ書房
白坂洋一(2021)『子どもの思考が動き出す 国語授業4つの発問』 東洋館出版社
白坂洋一(2021)「かたつむりくんは、お願いを引き受けたことを後悔しているかな?―「子どもの問いになった瞬間」に焦点化して」―『教育研究』(2021年9月号)不昧堂出版
白坂 洋一(しらさか・よういち)
筑波大学附属小学校国語科教諭
全国国語授業研究会理事/学校図書国語教科書編集委員/『例解学習漢字辞典』(小学館)編集委員/「子どもの論理」で創る国語授業研究会会長
有料記事
本教材「紙ひこうき、きみへ」は、しまりすのキリリが経験する、旅を楽しむみけりすミークとの出会いと別れ、変わりゆくことを受け入れたどこか達観した彼の言動について、キリリの気持ちを想像しながら本文を読むことを通して、読者も心揺さぶられる物語となっています。 今回は山本真司先生(南山大学附属小学校)に、作品世界について想像し、自分なりの解釈を形成できるよう、他者との交流を通して、場面ごとの精査・解釈を共有し深める授業づくりをご提案いただきました。
有料記事
変化の激しい現代の社会、これから子どもたちが生きていく予測困難な時代においては、知識や技能だけでは到底太刀打ちできない。答えのない問題を解決するためには、知識を集め、技能を活用し、学び、想像し、戦略を立て、多面的に物事を見て、批判的に思考し、よりよく判断する、などといった「知性」が必要であろう。 このような知性は、教師が教え込むことができない。言い換えると、授業が教室の中だけで完結してしまっては育たない。教室で学んだ国語の学びを、答えのない問題であふれる実際の地域社会へ出て、誰かのため、社会のために、試行錯誤しながら実際に「使う」。 そんな経験をしてこそ、知性は育まれるのではないかと考える。
有料記事
たとえ教科書の順番通りに授業を行うとしても、教材ごとに最初の出合い方を一工夫するだけで、子どもたちの「読みたい!」「知りたい!」「なんでだろう?」という教材に向かう姿勢は変わってきます。 今回は、迎有果先生(筑波大学附属小学部)に、主体的な読みにつながるための教材との出会い方を回答いただきました。
有料記事
今回は斎藤由佳先生(神奈川県・逗子市立沼間小学校)に、内容の読みをそろえるための「つかみの問い」と、自分の「問い」を見直し物語の核に迫る「深める問い」、この2つの「問い」を段階的に考えていくことで、自身で読みを深める学び方を学ぶことができる、授業づくりのアイデアをご提案いただきました。
有料記事
子どもと創る国語の授業 過去・特集記事 過去の特集記事をpdfで読めるようにしました。こちらの記事のシェア、無断配布などはお控えください。 読む力・書く力をつける帯活動アイデア(第79号) 教科の本質に迫るGIGAスクール時代の国語授業(第78号) 子どもの「問い」から授業をつくる(第77号) 読みの授業の単元デザイン(第76号) 「楽しい」の質を変える授業開きプラン(第75号) 「思考」を深める板書(第74号) 学びに向かう力を育てる(第73号) ノートで資質・能力を育てる(第72号) ポストコロナ時代の国語の授業づくり(第71号) 読みの授業を変える振り返り(第70号) 学習の「めあて」再考-子どもに「なぜ」が生まれる瞬間-(第69号) 国語授業で学級づくり(第68号) 読みの授業で目指す「共有」(第67号) 目的に応じた読書(第66号) 説明文・意見文を書く力を鍛える(第65号) 考えの形成(第64号) あまんきみこ作品の新たな授業(第63号) 詩・短歌・俳句を書く力(第62号) 子どもの思考が働く「学習課題」(第61号) 新学習指導要領でかわる文学の授業(第60号) 自力読みの力を育てる(第59号) 新学習指導要領でかわる説明文の授業(第58号) 一年間の系統指導(第57号) 資質・能力を育む国語の授業(第56号) 「いい授業」の条件(第55号) 「深い学び」を支える学習課題(第54号) 「対話的な学び」をどうつくるか(第53号)...
4月号の「5分でわかるシリーズ」は、古沢由紀先生(大阪府・大阪市立柏里小学校)に、語と語のつながりやニュアンスの差異に気づける言語感覚を育む、クイズ形式で楽しく行える語句・語彙学習のアイデアをご提案いただきました。